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【第二章】第二部分

徳川吉宗とくがわ よしねがこの高校にやってきた時間は10時だったので、校門内に歩いている生徒は見かけない。パンを咥えて『遅刻、遅刻~!』と叫びながらダッシュする女子よりも、登校時間への意識の観点で確実にタチが悪い。

「学校に入ったら、まず理事長のところに挨拶に行くように言われてたんだけど。理事長室って、どこかしら。」

外敵を警戒するイタチのように、校内を見渡す吉宗だが、何でも知ってそうな、おあつらえ向きのメガネ女子などはソナーに引っかからない。

「困ったわ。アタシの貴重な時間が浪費されていくわ。ムダな消化は、落ちこぼれ営業マンのセールス時間だけにしてほしいわね。たしかに、そんな時間を有能な人材に分配すれば、日本の生産性はどれだけ向上することか。」

「みいつけたあ!ガバッ!モミモミ~!」

「きゃあああ!何するのよ!」

背後から吉宗の貧しい左乳を攻撃したのは、小柄なショートカット赤髪の女子。日の丸のような赤いほっぺ。真っ直ぐな髪が額を押さえている。特筆すべきは赤い目。そのトゥインクルに輝く瞳は星形ではなく、H型である。

「だ、だれよ、あんた。いきなりセクハラって、いい度胸してるわね。」

「あたしは大岡H前 忠助平(おおおかえっちぜんたすけへ)だよ~。『へ』は『え』と読むのがチャームポイントだよ~!モミモミ。」

 再びH前は吉宗の左胸を揉んだ。ふたりの体格差なのか、H前は吉宗の右胸には届かない。

「何なのよ、その公然ワイセツな長い名前は!」

「だから、『おたすけえ』と呼んでほしいよ~!モミモミ。」

「ま、まあ、どうでもいいわ。」

「そうそう、忘れてたよ~。あたしがここに来たのは、吉宗ちゃんを理事長のところに案内するためだよ~。」

「それなりから先にそれを言いなさいよ。・・・。で、いつになったら、マッサージは停止するのかしら?」

「え~?ここがかなり凝ってるからモミモミしてるのに~。」

 H前はやはり左胸を揉んでいる。

「やめんか!ボコ!」

吉宗が軍配型リボンでH前の頭を叩いて、ようやく引き剥がした。リボンはかなり硬い素材でできているのである。H前は頭を抱えて、わざとらしく顔を顰めて痛がっていた。


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