【第二章】第一部分
『ピピピ!』
目覚まし時計が適度な音量で朝を告げる。
「ふあああ。もう朝ね。変な夢を見たような気がするわ。ショウグンがどうとか、言ってたような気がするけど、もう忘れたわ。夢なんて見るだけのもので語るものじゃないし。それよりも転校初日だから、早くホテルを出なくちゃ。」
白を基調として全体に赤く縁取りされた真新しいブレザーをきっちり纏い、赤と白いが交互に並ぶプリーツスカートを軽く翻す。
「まるで紅白の幕みたいな制服だわ。デザイナーのセンスを疑いたくなるわね。」
黒いロングヘアーを大きなリボン型の髪留めでくくったポニーテールの美少女。揺れる電車に乗って、窓の外のビル群を見つめている。その髪留めは、金色で縁取りされ、まるで大相撲の軍配のような形状であり、表には三ツ葉クローバーの家紋がデザインされている。
目元は愛らしくも鋭さを兼ね備えて、凛々しさを感じさせる。ほんのりピンクがかった白い頬に、まっすぐな前髪で隠された額は気の強さを秘めている。鼻筋は定規で測ったようにまっすぐだが、小ぶりで美少女らしさを演出している。
美少女は電車を降りて、まだ暖かい秋風に当たりながら、左右を睥睨した後、目的地へ足を向けた。
すぐに天守閣のような巨大建造物が美少女の前に聳え立った。
「ここがアタシの学校ね。親の仕事の関係で、和歌山県から千葉県に引っ越して来たんだけど、手違いで転入する幕張大学附属学校が幕張の本校じゃなく、附属江戸高校になっちゃったんだよね。おかげで家から通うことが難しくなって、女子寮入りになったんだけど、まあ、こっちの方が都心にあって、移動の交通費が倹約できるから、こちらの方がいいわね。倹約、う~ん、実にいい響きだわ。何百年も前からこんな言葉があったなんて、すごく懐かしい感じがするわ。それにしても、この学校、豪華過ぎて、倹約のかけらも感じられないわね。わざわざ天守閣まで作るなんて、必要あるのかしら。」
10メートルは優にある校門には、『幕張大学附属江戸高校』と楷書の文字が縦に並んでいる。
お城型校舎は五列に並び、奥に行くに従い、高く大きくなっている。奇妙でかつ不合理な設計である。
「こんな建て方って、ムダじゃないの。東京は地価が高いんだから、もっと土地を倹約しないといけないのに。設計者にムカつくわ。」