【第二章】第三十八部分
『ツカ・、ツカ・、ツカ・。』
ゆっくりとした靴音が聞こえてきた。
「布切れ王子が帰ってきたわ。さあ、この特等席から間近に見える風景を堪能するのよ。驚異のイチャイチャワールドが幕を開けるわ。あーははは。」
「こんなに好き好きオーラを振り撒いているのに、御台君への好意を否定するとか、あり得ないにゃ。」
「アタシの顔に何か『憑り』ついてる?」
「憑りは余計にゃ。別にお化けとかいないにゃ。なんでもないにゃ。」
電話の完了した御台がグレーな空気を伴って入室してきた。
「あっ!渡心御台か。副将軍になったらしいけど、校則にない、そんなポジション、アタシは認めないんだからねっ。」
「これは将軍吉宗。いつの間に戻ったんだ。それに将軍綱吉も一緒か。徳田さんと、徳本さんは教室に戻ったのか?せっかく仲良くしてもらおうと思ったのに。」
「そ、そうね。徳田さんには、ネコアレルギー超強化防御マスクをしてもらって教室に帰ってもらったわ。」
不本意ながら十二単では将軍モードをとらざるを得ない吉宗。
結局、特等席でのイチャイチャはバーチャルで終わった。
「そうか。ここでゆっくりしてもらおうと思ったけど、ちょっと残念だな。」
入室する前から御台は浮かぬ顔を継続したままである。
「渡心御台、どうかしたの?」
「い、いや、別に。何でもないよ。徳田さんたちがいないなら、授業もあるし、ボクも教室に戻るよ。」
足取り重く、生徒会長室を立ち去っていく御台。吉宗は自分の気持ちも沈みそうになってきた。
「何か変だわ。布切れ王子に何かあったに違いないわ。ねえ、おたすけえ。」
「モミモミ。う~ん。この十二単の上からでは全然わからない左乳もいいなあ~。」
吉宗の背後に回ってセクハラ中のH前。指の動きが背中を這うアシタカグモのようである。
「やめてよ~!」
「渡心御台、待ちなさいよ。どうしたのか、話を聞きたいわ!」
「ここを出ちゃダメだよ、上様!」
「そうだにゃ、吉宗にはツナの用事があるにゃ!」
「上様のビミョーな感触、堪能~、モミモミ。」
「こらぁ、セクハラしてる場合じゃないわよ!」
「吉宗、ツナの靴を舐めるにゃ。」
しなるような足を見せた綱吉。きらりと光沢が走った。
「いきなり何なのよ。そんなこと言うなら、まずはあんたから舐めなさいよ。」
「わかったにゃ。ペロペロ。」
「あ~。上様の靴を舐めたな~。それはあたしの権益だよ、人権侵害だよ~!」
「人権侵害されてるのはアタシの方よ!」
「これはなんか違うにゃ!じゃあ、こうするにゃ。研ぎ澄まされた爪で黒板をギーってするにゃ。」
「うわあ~、耳が痛いわ、鼓膜が破れそうだわ!」
H前も同時に耳を押さえており、戦闘不能状態である。




