【第二章】第三十部分
「待て!」
吉宗の拳は、白い男子制服に触れたところで急ブレーキがかかり振動しながら停止した。
『ヌ、ヌノキレ!?』
吉宗の瞠目した先には、両腕を広げて止めに入った御台の姿があった。いつもの柔和な御台とは似ても似つかぬ顔である。
御台の姿を見た吉宗の体から『シュ~』という音と共に白い煙が出て、全身を覆った。やがて煙が解けると、十二単が見えてきた。
「布切れ王子、い、いや渡心御台!?うわあ~!」
吉宗は、横になって右腕に頭を乗せたリラックスモードのH前を小脇に抱えて、生徒会棟に逃げるように走り去った。
そのまま生徒会室に入った吉宗は荒げた息で部屋の空気を入れ換えた。
「はあはあはあ。ヤバかったわ。また何かに変身してたみたいだわ。それにあんなところに布切れ王子がいたなんて。あられもない姿を布切れ王子に見られたわね、確実に。もうお嫁にいけないわ。」
「上様。嫁を取る方針がいつからお嫁に行く気に変更されてたんだ~?ミイラ取りがミイラになったってはこういうことだよ~。」
「こ、言葉のアヤよ、謝りよ!」
「謝ってほしいのか~?」
「違うわよ!」
こうしてふたりの会話がうやむやになる一方、御台はネコ将軍を介抱していた。
ネコ将軍の体は制服を着た幕附高校の一般生徒になっていた。
「大丈夫かい?生徒会長にイジメられてたのかな。保健室に連れて行ってあげようか?」
「ううう。ここはどこ?あれ、ツナはいったい何をしてたにゃ。」
しばらく考えて思い出した綱吉。
「そうだにゃ。将軍辞任を宣言して、その後、放浪しようとしたにゃ。その後は記憶がないにゃ。」
「それは大変だね。保健室に連れて行こうか?」
「そ、それはベッドインを誘ってるのかにゃ?まだ深夜の寝台列車に乗るには早いにゃ。」
急に恥ずかし気に体を縮こまらせた綱吉。瞳がうるうるとしてかわいい。
「はあ?何を言ってるんだ?」
「冗談にゃ。連れて行ってほしいのは、保健室ではなく、理事長室にゃ。」




