【第二章】第二十二部分
H前の予想通り、犯人らしき者は現れず、代わりに校内では想定外の事態が発生していた。
メイク道具を取られて、メイクができなくなると、顔がすっかり変わってしまい、お互いが認識できなくなる。個人が識別できなくなり、遅刻生徒の取り締まりができなくなったり、学校がパニックになった。
御台はみんなの顔が変わることにびっくりしていた。パニックのせいで、吉宗の壁がなくなっていたので、御台と吉宗の日常会話は復活していた。
「徳田さんは変わらないんだね。メイクはしないんだ?」
「そ、そうだけど、悪い?」
「そんなことはないさ。メイクがいらないほど肌がきれいなんだな。」
素直に誉められて、吉宗は真っ赤になった。
「渡心君、いつか殺意の池で満たしてやる~!」
苦虫を噛み潰して、罰ゲームのように口の中で苦味を味わうH前であった。
「スイーツクーポンを配信してる犯人を探し出さないといけないわ。それをどうやって調べるかよね。おたすけえに何かアイデアある?」
「あるけど~。ガタガタ、ブルブル。」
H前はなぜか全身に悪寒を感じて、目の色が虚ろい気味に白濁していた。
「風邪でもひいたの?」
「そ、んなことはないよ~。でもなんだか、体が震えるんだよ~。」
「風邪じゃないなら武者震いなのかしら。」
「配信クーポンのキャッチコピーは、これなんだよ~。」
『食券なんか、スイーツクーポンの前にひれ伏すにゃ。』
「ひれ伏すにゃ?奇妙な語尾ね。やっぱり変人に違いないわ。でもそんな相手なら、こうすればいいわ。」
即日、生徒会から対抗メールが生徒たちに配信された。
「上様、こんなの、トラップにも値しないような罠だよ~。これで、のこのこやってくる者っているかな~?」
「大丈夫よ。相手はおそらくけもの。だったら、古来から脈々と伝わるレガシィトラップがいちばん効果的なのよ。」




