【第二章】第十七部分
『ツカツカツカ。』
やや大きめの靴音を響かせながら、御台は吉宗の隣の席に近づいた。そして、『はあ』、という溜め息を掻き消すような音で、椅子を引いて腰掛けた。
「ど、どうしよう。アタシが生徒会棟で、ほんのちょっとだけ突き放すようなことを言ったから、布切れ王子が不機嫌になったのかしら。もうちょっと遠回しな物言いにすべきだったのかしら。」
不安感が大脳の大半を占めてきた吉宗。大脳キャパの小さな吉宗には苦痛である。
「ふう。あげまんの制に対して、何か策はないのかなあ。」
(そ、そうだわ。こっちのアタシは、将軍吉宗じゃないんだから、徳田吉音として行動すればいいんじゃ?)
そう考えた吉宗は落ち着いて、御台の目をしっかりと見つめた。吉宗の真剣な表情に、御台も深呼吸して応じる。
「あのね、御台くん。ちょっとお話があるんだけど、いいかな?」
「ああ、構わないよ。今のボクは思考停止状態だから。」
「そう、それならばお話するわ。あげまんの制は、恋愛マンガの取り上げ、没収のならびに家庭での閲覧も禁止だわね。それにスマホでもダメと来てるわ。しかも将軍には、お触れ内容を変える気がないってところよね。」
「そうだね。さっきの生徒相談室ではそんな感じだったよ。恋愛マンガ禁止は、図書館などの公共施設での閲覧も含まれてるから、手の打ちようがないよ。」
「たしかに、虫の入る隙間もなさげだわ。でも禁止できない場所があるわ。」
「えっ?一般生徒が自由に出入りできるところなんて、後はコンビニぐらいだよ。そこも生徒会が監視してるって話なんだけど。」
「コンビニじゃ、目立ちってダメだわ。」
「それはそうだろう。」
「もっと目立つ場所じゃないと。」
「え?言ってる意味がわからないけど。」
「誰にでも目立つ場所、しかも生徒会の規制が及ばない場所、それは繁華街のビルの巨大スクリーンよ。」
「うっ。たしかにそれはビル所有者のものだろうから、生徒会は出だしができないね。これで街まで行けばマンガがスクリーンで見れるね。」
「でもそれは序の口。真の作戦はこれよ。ジャーン。」
「そんなやり方でいいのかい?」
「大丈夫よ。御台くんが取り巻き女子たちを有効活用すれば必ずできるわ。」
それから一週間経過して、生徒会は突然取り締まりを停止した。
生徒たちは再び取り戻した自由を謳歌した。さらに功労者である御台に惜しみない賛辞を送る者が後を断たなかった。




