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【第一章】第二部分

こんな日々の繰り返しで、吉宗は他の姉たちとも折り合いが悪かった。

ワガママは家系なのか、姉たちは親と折り合いが悪く、家を出て行ってしまった。

「別にお姉ちゃんたちにイジワルするつもりなんてなかったのに。単にもったいないことができないだけなのに。ぐすん。」

ひとりぼっちになり、寂しくなって吉宗はいつも泣いていた。軍配が濡れて汚れていたのがひどく悲しかった。


飼いネコと屋敷の縁側にいることが多くなっていた吉宗。足をぶらぶらさせているのが幼女らしい愛らしさを表現している。

「ミケ。アタシの心の泉は、あんただけよ。タダで癒やしてくれるのが嬉しいのよ。ハ、ハクション!鼻がムズムズするわ。」

倹約好きな吉宗はネコ好きだが、不幸にもアレルギー体質だった。

ネコ以外に友達もおらず、吉宗は泣きながらくしゃみばかりする日々を送っていた。散らかった鼻紙を片付けるのが嫌いな吉宗であった。片付けると不思議と負けた気分になるからである。


時は過ぎて、姉たちが不在の中、父親はやむを得ず、十五歳の吉宗に家督を継がせ、当主となった。吉宗は好んで後継者となったわけではなく、面倒なだけだった。

幸か不幸か、この時代の徳川将軍家に跡継ぎがおらず、親族間で権力争いが起こり、紀伊徳川家が尾張徳川家に勝利した。その結果、吉宗は次期将軍候補になった。本来ならばとんとん拍子の出世を喜ぶべきであるが、それは当人の価値観次第である。価値観の多様性があるからこそ、どんな人生でも享楽することができる。それが唯一、万人に公平に与えられた天からの授かりものである。それ以外はすべて格差を生み出すのが、神という不完全なものである。


将軍宣下を迎えようとしていた当日。天守閣の大客間で、吉宗を含めた一族が公家風の黒い正装で勅使を待っていた。

独特の緊張感で空気が冷たく感じられていたが、吉宗は退屈な茶番劇を待つ身を暑くうっとおしく思うだけだった。

「もうすぐ武家伝奏が来るのよね。こうして待つのは時間の無駄使いだわ。あ~あ、めんどくさいわ。」

しばらくして、小柄で痩せ型の武家伝奏が遅れてやって来た。どうやらもったい付けてやってきたらしい。将軍の任命権は幕府側にあり、朝廷は追認するだけだから面白くない。勅使の任務に力が入らないのも当然である。生産性を高める決め手は、いつの時代もモチベーションである。

勅使が上座に着いて、恭しく将軍宣下の詔を読み上げていたその時。

『ニャア、ニャア~。』

ネコのミケが、何食わぬ顔で入って来た。本来なら従者が止めるはずだが、まんまとスルーし、闖入してきたらしい。

「おかしいわね。ミケが入って来ないように、襖をちゃんと閉めてたのに。それにここはお城の五階よ。どうしてこんなところにミケが。ハ、ハ、ハクション!ハクション、ハクション!」

吉宗がクシャミ三連発をして、風とともに大量の唾を飛ばしたため、勅書がズタズタになってしまった。吉宗に緊張感があれば被害は最小限に食い止められたかもしれない。吉宗のやる気のなさを原因のひとつに加える可能性は否定できない。

武家伝奏は怒りを露わにして、吉宗を激しく非難した。眉間のシワは整形外科手術でも取れないほどの深さを見せていた。

「勅書を台無しにしたことは、帝の権威を汚し、仇なすに同じ。大逆罪じゃ、紀伊徳川家は逆賊じゃ!」

「ミケには責任ないわ。ということは、まさか、アタシが悪いってこと?」

吉宗の父親は血相を変えて吉宗を睨みつけた。

「当たり前じゃ!このままでは、紀伊徳川家は取り潰しされる。吉宗、貴様、生首晒して帝に詫びるんじゃ。観念してそこに直れ!」

父親は、控えの間にいた近従から大太刀を受け取ると、即座に鞘を抜いて、頭から吉宗を斬りつけた。

「きゃあああ~!」



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