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第二王女の食道楽紀行  作者: 虹色橋
6/6

06 ドラゴン

ロゼと別れて街の北側へと向かう。あの子供たちは森で卵を見つけたって言っていたはず。それに、子供の行動範囲ならそこまで深い場所には行けないだろう。わかりやすい痕跡が残っていれば楽なんだけど。

 森の中へと入って、痕跡を探す。踏みつけられた草木や、子供が通り抜けられそうな穴を見つけては繋がっている先を調べる。

 だけど、一向にそれらしいものは見当たらない。やっぱり、私の考えすぎなのだろうか。


「ん?」


 森の中を歩いていると、突然正面の茂みが揺れ始めた。剣を取り出して臨戦態勢に入る。


「なんだ、ただの狸――って、えぇ!?」


 茂みの中から飛び出してきたのは小さな狸だった。後に続くように、狐や豚、シカなどの動物が次々と茂みか飛び出して、私の脇を抜けて一目散に走り抜けていく。

 まるで、何かから逃げているかのように。


「――ッ!」


 一瞬、地面が揺れたかと間違う程の振動と共に耳をつんざくような咆哮が轟く。どうやら危惧していたことが起きてしまったみたいだ。

 急いで動物たちが逃げてきた方向へと走る。進んでいくにつれ、荒々しい爪痕や抉られた地面などが多くなっていた。


「これはちょっとやばいかも……」


 想像していたよりも暴れ方が激しい。ただ、爪痕の大きさから察するにそこまでサイズは大きくない。


「っとと、危ない」


 森の奥へと走り続けていると、少し開けている場所で目的のドラゴンを発見した。ドラゴンは嗅覚が鋭いので、ばれないように少し遠回りをしながら風上に回り込む。

 よしよし、バレてないみたいね。

 あの子供が拾ってきた卵がまだドラゴンものだと確認出来たわけじゃないけど、あの荒れ狂い方はおそらく間違いないだろう。


「さて、どうしましょうか」


 子供たちから卵を回収して返すことが出来れば一番良いんだけど、この状態のドラゴンを放置して街に戻るわけにもいかないし。こんなことになるなら、ロゼに卵の回収を頼めば良かった。私の伝え方が足りなかったせいで、卵のことなんてわからないだろうしなあ。


「悪いけど、街の人たちのことを考えるとやるしかない、か」


 このドラゴン自体が何か悪いことをしたわけじゃない。だから、あんまり気は乗らないけど、このまま放置していたらどれだけ街に被害が出るかわからない。


「ふぅ」


 一息ついてから、剣を構えて集中する。レルヴァンさんの所で試し切りしたとはいえ、実際にこの剣でドラゴンの皮膚を切ったことがあるわけではない。シュレリアが褒めていたことを考えると、その切れ味はお墨付きなんだろうけど。


「大丈夫。私ならやれる」


 自分に言い聞かせるように言葉を口にする。大丈夫、前にもドラゴンを倒したことがあるし、その時に比べるとサイズも随分と小さい。


「よし」


 もう一度、大きく深呼吸をしてから剣を構え、ゆっくりと茂みを利用して前進していく。狙うのは目の一点集中。いつも使ってる斧があれば羽を叩き追っている場面だけど、今回は初めて実戦で使う剣だし、私の実力だと羽を切り落とせるかどうかも怪しい。

 それだったら、確実に剣が通るであろう目玉を潰した方が早く体力を消耗させることが出来るだろう。

 地面を這いずりながらも、ちょっとずつ前へ進んでいく。ドラゴンまで約十メートルの距離まで辿り着いた所で、身を隠すための茂みが無くなってしまった。


「ようやくここまでこれたわね」


 暴れまわっているドラゴンの隙をついて距離を詰め、一撃で目玉にこの剣を突き刺す。その一瞬の隙が出来るまで、息を殺してひたすら待ち続ける。

 隙が出来るまでいつまでも待ち続けるつもりだったが、以外にも早くその瞬間は訪れた。


「今っ!」


 ドラゴンが飛び立とうとして、羽を大きく広げたその瞬間を見計らって茂みから飛び出す。抉れた地面に注意をしながら最短距離でドラゴンとの間合いを詰めていく。


「ここだっ!」


 宙に浮いたドラゴンの下を掻い潜るように抜け、握っていた剣をドラゴンの目玉に突き刺した。


「やっ――」


 もう少し押し込むことが出来れば致命傷を与えられる。その瞬間、自らの危険を察知したのか、ドラゴンは大きく口を開いて咆哮を轟かせた。

 全身を衝撃が駆け抜けていく。


「っ――はぁっ!」


 手足の先が痺れて感覚がほとんどない。剣は握ってる。ドラゴンも飛び去ってない。よし、まだ大丈夫。致命傷は与えられなかったけど、ドラゴンの右目に確かに剣が刺さった感触があった。


「ふぅ、集中」

「ぐるるるるるるるるるる」


 私を警戒しているのか、正面から喉を鳴らしているだけで攻撃をする素振りは見えない。この状況は私にとって好都合だと、そう思っていた。


「……何の音?」


 咆哮のせいで耳がおかしくなったのか、前方から何かを打ち鳴らすような音が聞こえてくる。ぼやけた視界でドラゴンをよく見てみると、口が動いているような気がした。


「って、マズい!」


 この感じは絶対にアレが来る!

 いまだ感覚の戻っていない足を無理やり動かして、横に飛びのく。無様に地面を転がりながら、這いつくばる。さっきまで私が立っていた場所には、ドラゴンの口から吐き出された火炎の息によって焼かれていた。

 今回はたまたま運よく木には燃え移らなかったけど、時間をかけすぎてしまうと辺り一帯が焼け野原になる可能性もある。

 手足の痺れも大分取れてきたし、速攻で片をつけないと。


「っと、やっぱ切れないか」


 カチカチ、と。ドラゴンが牙を打ち鳴らしている隙に潰れた右目の方から接近して首元に剣を振り下ろす。けど、やっぱり私の実力だとこの剣で鱗を切断することは出来ずにはじかれてしまった。


「それならっ!」

「グギャァ!」


 ドラゴンの懐に滑り込むように潜り込み、柔らかな腹の部分を剣先で突き刺すが、これも致命傷には至らない。

 暴れ狂うドラゴンの攻撃を躱し、剣で受け止め、弾きながらちくちくと同じ場所を突き刺して攻撃を重ねていく。目玉を狙った方が確実なんだけど、学習したのか懐に顔の付近に近づこうとすると暴れ方が激しくなってしまった。


「ああ、もう! 早く死んでよね!」


 剣でドラゴンの攻撃を受け続けるのも、大概しんどくなってくる。小柄とはいえ、流石ドラゴン族。一撃一撃の重さが半端ない。既に左手の感覚なんてほとんど残っていない。

 ただ、疲労が蓄積しているのは私だけじゃない。同じように攻撃を受け続けているドラゴンも血を流しすぎたのか、さっきから攻撃に勢いが無くなってきていた。


「これで、どうだぁ!」


 動きが鈍くなったドラゴンの突進を横に避け、握っていた剣を左目に目掛けて突き刺した。手ごたえが浅かったから、剣の底を拳で叩きつける。ずぶずぶと奥深くに突き刺ささり、小さな鳴き声を上げながらドラゴンはその場に倒れて動かなくなる。


「はぁっ……はぁっ……」


 目玉に突き刺さった剣を引き抜く。あれだけ激しくドラゴンの攻撃を受けたというのに、刀身には刃毀れ一つ見当たらない。

 完全に息の根が止まったことを確認してから、私はその場に倒れ込んでしまった。


「お嬢様?」

「シュレリア……? もう、遅いわよ」


 ロゼが呼んで来てくれたのだろか、みっともなく寝転ぶ私の顔を覗き込むようにシュレリアが立っていた。それにしては随分とタイミングがいいような気もするけど……いや、シュレリアの事だし私がドラゴンを倒すまで何処かに隠れていた可能性の方が高いか。


「……ここで、何をしていらっしゃるのですか?」

「見てわからない? ビンゴブックに載ってたドラゴンを倒し終わった所なんだけど。え、ていうか、アンタ見てたんじゃないの?」


 倒れたまま、竜の死体を指差す。シュレリアは何も言わずに、ドラゴンの方へ向かって行ってしまった。上体を起こすと、死体を調べて居るのが見える。

 しばらくドラゴンを観察していたシュレリアだったが、気まずそうな顔をしながらこちらへと戻ってきた。


「その、お嬢様? 非常に言い難いのですが……」

「なに? もしかして倒したら不味かった……?」

「いえ、そういうわけではありません。このまま放置しておくと、街に被害が出ていたかもしれません。その観点から言えば、むしろお嬢様の行動は正しかったと言えます。あそこまで苦戦するとは予想外でしたが」


 やっぱり見てたんじゃない! 苦戦してるってわかってるんならさっさと助けなさいよ!

 けれど、シュレリアはいまだにばつの悪そうな表情をしている。


「まだ何か問題でもあるの?」

「達成感に満たされ、やり切った表情のお嬢様には非常に言い難いのですが……」

「私とアンタの仲でしょうが。今更遠慮してんじゃないわよ」

「では単刀直入に。あのドラゴンはビンゴブックに記載されているモンスターとは別です」

「……は?」


 彼女が口にした言葉に思わず思考が停止する。

 え? なに? どういうこと?


「先程あの竜を少し調べさせて貰いました。首元や腹の傷に関しては置いておくとして」


 私の攻撃が通用しなかったことまでしっかりとバレてるし。


「あの竜には半陰茎がありました」

「……?」


 シュレリアの話を聞いてもいまいちピンと来ない。半陰茎……って何だっけ?


「ビンゴブックに記載されている竜は、産卵期を迎えている場合の竜です」

「……ああ! なるほど!」


 戦闘での疲労が溜まっているのか、そこまで説明されてやっと理解する。確かに、そもそも私がここに来たのは街で大きな卵を見つけたという話を聞いたからだ。

 つまり、そこで死んでいる雄のドラゴンは全く関係が無かったことになる。


「じゃあ、ビンゴブックに記載されてるドラゴンは間違いってことだったのね……」


 その話を聞いて、一気に疲れが押し寄せてきた。結局それって私の早とちりって事じゃん。


「いえ、そうとは限りません」


 しかし、以外にもシュレリアは私の言葉を否定した。


「この竜種で、大きさがこれくらいとなると成体ではなくおそらく幼体ですね。ですが、幼体の竜が単体で行動することは極稀です」


 え、それってもしかして。


「まだこの周辺に成体のドラゴンが居るってこと?」

「ええ、そういうことになりますね。というか、既に見つけています」


 なんで最初からそう言わないのよ。


「倒したの?」

「いえ、お嬢様の仕事ですので呼びに戻っている最中に偶然見かけたので、つい声を書けてしまいました」


 そういう気遣いはいらないから普通に倒してよ。私の仕事って言ってるけど、元はと言えばあんたの仕事でしょうに。


「それで、今から討伐に向かうの? 出来ればちょっと休みたいんだけど」


 ドラゴンとの連戦は正直言って厳しい。ここまで自分の身体が鈍っているとは思わなかったし、使い慣れない武器で戦ったせいで肉体的にも精神的にも疲弊しすぎている。


「元々はそのつもりでしたが、ここまでお嬢様が弱っちくなっていると思いませんでしたので今回だけは私が一人で討伐致しましょう」

「そんな面と向かって弱いって言わなくてもいいじゃない」

「今のお嬢様では、討伐するどころか成体の竜に傷をつけることすら難しいと思いますよ」


 自分でも弱くなっていることくらいわかっているつもりだけど、ここまでハッキリ言われると結構自信を無くしてしまう。


「というわけで、行きましょうか」

「え? 何処に?」

「決まっているでしょう。竜の巣ですよ」


 え。それって私もついて行かないとダメなの? とは言い出せる雰囲気じゃなかった。

 シュレリアが護衛という名目のお目付け役である以上、旅を続けたいなら彼女に従うしかない。


「お嬢様、早く行きますよ」

「わかったから急かさないでよ」


 重い腰を上げ、息を整える。うん、ある程度動けるくらいは回復したみたい。

 既に私を置いて先へと進んでいるシュレリアの後に続く。

 道中、言葉を交わすこともなく、シュレリアに案内されるがまま、竜の巣があるという山の麓にある巨大な洞窟に辿り着いた。


「本当にここなの?」

「ええ、確認したので間違いありません」


 多少奥まった所にあるとはいえアルキタニアからそう距離は離れていない。この距離であれば、十分子供たちの行動範囲内だろう。


「お嬢様、一つお願いがあるのですが」

「どうしたの? まさか、今更私に討伐しろだなんて言わないよね?」

「どうしても、というのであればお嬢様に譲ることもやぶさかではありませんが」

「丁重にお断りするわ。それで、お願いってなに?」

「レルヴァン老に打ってもらった剣を貸していただけませんでしょうか」


 シュレリアが真剣な表情で、私の目を見ている。

 わざわざ自分の武器を、それも大量に持ち運んでいるはずなのに、どうしてこの剣を借りる必要があるのだろう。


「理由は?」


 別にどんな理由でも貸すつもりだけど、なんとなく気になったので聞いてみる。


「お嬢様がレルヴァン老の一振りを使いこなせてないようでしたので、お手本を見せて差し上げようと思いまして。竜の幼体の鱗は成体に比べて非常に柔らかく、お嬢様程度でも問題なく切断出来るはずだと思ったのですが」

「私の使い方が悪かったってこと?」

「そう、ですね。剣を信じ切れていなかった、と言ったほうが正しいでしょうか。剣を使い慣れてないお嬢様では仕方のないことかも知れませんが」

「……そうね」


 実際、シュレリアの言う通りだ。私はこの剣を信じていなかった。でも、心構えでそんなに変わるものなのだろうか。


「まあいいわ。折らないように気を付けてね」

「ありがとうございます。レルヴァン老の打った剣はよっぽどのことがない限り折れることはありませんよ。それでは行きましょう。私の後ろを離れないようにしてください」

「わかったわ」


 持っていた剣をシュレリアに手渡して、洞窟の中へと進んでいく。奥に進んでいくにつれて、反響して聞こえてくる唸り声が大きくなってくる。


「お嬢様。そろそろ辿り着きますのでこれを耳に詰めてください」

「耳栓? こんなもの何処で用意してきたのよ」

「どんな状況でも対処出来るように準備をしていますので」

「もしかして、アンタのお古だったりする?」

「新品です」


 若干食い気味に返事をされてしまった。

 言われた通り、耳栓をして再度進みだす。耳栓の質がいいのか、ほとんど音が聞こえなくなった。


「                      」


 突然、シュレリアこちらを振り向いて口を動かし始めた。耳栓のせいで何て言っているのか全く分からないけど。


「え?」

「                      」


 あ、ダメだこれ。全然聞こえないわ。


「ごめん、もう一回言ってくれる?」


 耳栓を外してから、再度シュレリアの言葉を聞きなおす。


「すぐそこの空間に竜が居るので、お嬢様はここで見ていてください。あと、読唇術は習得しておくと便利ですよ」

「読唇術を使う機会なんて滅多にないでしょ」


 シュレリアの耳にはちゃんと耳栓が詰まっている。多芸にも程があるわよ。

 耳栓を付けなおしてから中を覗き込むと、単身で竜の元に乗り込むシュレリアの背中越しに巨大なドラゴンの姿があった。私がさっき戦っていたドラゴンより、一回りも二回りも大きい。

 近づいてくるシュレリアを警戒しているのか、ドラゴンが大きく口を開けると同時に洞窟ごと私の身体が震え、天井からぱらぱらと小さな岩粒が落ちてきていた。

 シュレリアは足の動きを一切止めることなくドラゴンの方へ近づいていく。

 対するドラゴンはカチカチ、と歯を打ち鳴らす動作を見せ、口の中から勢いよく火炎を噴出した。シュレリアは動じることもなく、握っていた剣を振り下ろし吐き出された火炎を切り裂いた。

魔法を使った様子はない。単純に振り下ろした時の風圧で竜の火炎を両断するとか、人間がやっていい領域を超えてると思うんだけど。

 そして、次に目にした光景に私は言葉を失った。

 懐に入ったシュレリアを噛みつきに向かったドラゴンの頭が、一瞬にして地面へと落ちる。瞬きをしてしまうと見逃してしまうような、刹那の出来事だった。

 真っすぐに伸びてきたドラゴンの攻撃を、最小限の動きで回避して側面に回り込んだシュレリア。流れるように、握っていた剣を上から下に振り下ろすと、まるで豆腐を切るかのように、何の抵抗もなく強靭な鱗ごと首を両断した。

 あの動きは、私がドラゴンの幼体に対して取った動きとよく似ている。だけど、私とシュレリアの間には、決定的に違う何かがあった。

耳栓を外して、シュレリアの元へと駆け寄っていく。


「おつかれさま。ねぇ、今の、どうやったの?」

「わかりませんか?」

「……どんな動きをしたのかは見えた。でも、なんで私が弾かれてシュレリアは弾かれなかったのかがわからない」

「まず一つは単純に実力の違いです。ですが、それはさほど重要なことではありません。そしてもう一つ、私とお嬢様には決定的な違いがあります」

「違い?」


 なんだろう。経験の差とか?


「ええ。お嬢様が武器を武器として考えている限りは、私に追いつくことは出来ません」

「武器を武器として見ている?」


 シュレリアの言っている意味がイマイチ良く分からない。武器っていうのは、それ以下でもそれ以上でもないはずだ。


「人剣一体。武器を武器として扱うのではなく、自分の身体の一部だと思うのです」

「自分と武器を一つに……」

「とまあ、偉そうに講釈を垂れてしまいましたが、これはあくまで私の持論ですのであまりお気になさらず」

「いや、なんかちょっとだけわかったような気がする」


 気がするだけでもしかしたら全然わかってないかもしれないけど。


「では、剣をお返ししておきますね」

「あ、ありがと」


 シュレリアから剣を受け取って、地面に横たわるドラゴンを眺める。


「問題はこれの処理よね……。解体するにはちょっと大きすぎるし」

「先程お嬢様が殺した竜もいますからね」

「あ、そうだ。シュレリアが武器を収納してるポーチに入ったりしないの?」

「これのことですか?」


 そう言って、エプロンドレスについている小さなポーチを指した。

 アイテムボックスというのは、単純に言ってしまえば持ち運べる収納箱みたいなものだ。容量の小さいものであれば、普通に街でも購入することが出来る。旅をするにあたって必須級な存在だと言っても過言ではない。

 その中でも、シュレリアが身に着けている奴は、現存する中でも最高級の収納数を誇るものだ。数えきれない程の武器を治めているシュレリアのボックスなら、おそらくこのサイズのドラゴンでも入りきるだろう。


「生モノを収納すると武器が臭くなるので、出来れば勘弁してほしいのですが……」

「かといって他に方法もないでしょう?」

「お嬢様もアイテムボックス持ってるはずじゃないですか。確か、お嬢様が授かったものは私のよりも容量が大きかったはずですよね?」

「いや、持ってきてないけど? お爺様から持ち出し禁止って言われちゃったし。普通の護衛が国宝級

のアイテムボックスを持てるわけないじゃない」


 国宝級というか、実際国宝なんだけど。

 今回、旅に出る当たって私は城の中にあった財をほとんど持ちだしていない。だって、それだとロゼのためにならないし。


「はぁ……。仕方ありません。今回だけですよ? 次からはお嬢様もきちんと自分で処理するように」

「はぁーい」


 適当に返事をすると、シュレリアはやれやれといった様子でポーチをドラゴンに近づけた。すると、巨大なドラゴンは瞬く間にポーチの中へと吸い込まれて消えた。

 いつ見ても意味が分からないわね……。どういう理屈で収納されてるんだろう。昔、シュレリアが家庭教師をしていた頃に何か言っていたような


「お嬢様。こちらはこれで良いですが、もう一匹はどうするつもりですか? 流石に私のアイテムボックスが大きいとはいえ、もう一匹は入れられませんよ?」

「使わない武器を整理すれば入るんじゃない? 使わない癖に余計な武器を持ちすぎなのよ」

「武器を使うというより、集めることが好きなので無理ですね。希少品は自分の手元に置いておきたくなるじゃないですか。いわゆる一種のコレクターみたいなものですよ」

「武器は使って初めて意味を成すと思うんだけどねえ……。まあ、シュレリアがそれでいいなら良いんだけどさ。一応大丈夫よ。もう一匹については考えがあるから」

「考え……ですか?」

「うん、そう。それで、悪いんだけどさ、ロゼを呼んできてくれない?」


 アルキタニアの屋台通りと、ドラゴンの肉。

 こんな美味しい状況が揃ってるのに、使わない理由がないでしょう?

 


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