理想の恋人
【灰の底 マイカの断章】
物語が始まる、少し前の話。
「とりゃあ!」
繰り出した一撃は、逃げようとした盗人をばっちり捉えた。
チューと悲鳴をあげた盗人は、その小さな体を弾ませて倉庫の入り口から転がり出る。
「ふっ、ネズミ小僧、仕留めたり」
悪者の血を吸った魔剣を、ゆっくりと腰元に納めて、前髪をかきあげながら笑う。
ばっちり決まったね。今のあたしは立派な騎士様だ。
たとえ、魔剣のつもりで腰に当てているのが古ぼけたホウキであったとしても。
「いや、マイカちゃん、殺してはないから。どっかに逃げてったよ、あのネズミ」
サミーお姉さんが、ネズミ小僧――そのまんま本当にネズミ(ひょっとしたら小僧じゃなくてお爺さんかもしれないけど)――が叩き出された地面を指さして口にする。
そこにはホウキに打たれて倒れたはずのネズミの姿は、もうない。
すたこら逃げたみたい。むむむ、敵ながらあっぱれなしぶとさと逃げ足。
「あやつの方が一枚うわて……いや、魔剣ソウコノホウキの力を使うには、あたしの腕がミジュクだったか」
「うーん、マイカちゃんのホウキの使い方がどうっていうより、ホウキでネズミを倒すのはかなり難しいと思うけどね。てか、あんな早いネズミによく当てたよね」
「マイカ姉、すごい!」
サミーお姉さんに続いて、ルカちゃんも褒めてくれる。
「えへへ、お父さんが剣を教えてくれるからね!」
身を守るために少しだけってね。これが中々楽しくて良い感じ。
男子と騎士ごっこして勝てるからね、ふふん。
あたしが胸を張っていると、お母さんが後ろから手を伸ばしてホウキを取り上げてしまう。
ああ、なんかいい感じに手に馴染む魔剣だったのに!
「マイカ、ネズミを退治したのは偉いけれど、ホウキを振り回すのは色々と……気をつけなさい?」
「大丈夫! ちゃんと倉庫の中のものにぶつからないように、こう、振る方向は考えてたから!」
流石に、大事な村の食料も一杯の倉庫の中身をひっくり返すような真似はしないよ。
……前に倉庫で遊んだ時にやらかして、お母さんにめちゃくちゃ怒られたからね。あんな恐い目には二度と遭いたくない。
「そこに思い至っているのは、良いことだわ。あと、実際に剣……じゃなくて、ホウキを振って大丈夫だったこともすごい。流石はあの人の娘」
お母さんが、あたしのことを褒めながらも困ったように頬に手を当てる。
「でもね、お母さんとしてはそういう物質面の問題より、お行儀とか人目の問題で、もうちょっとお淑やかにして欲しいのだけれど?」
「えー? だって、ネズミが出て来たんだよ? やっつけなきゃ!」
「まあ、それは正しい反応なのだけれど……でも、マイカは普段からそうなのでしょう? やんちゃが過ぎるから心配なのよ」
「そんなことないよ! あたしだって普段はお上品なんだから!」
「あら、どんな風に?」
「なんかこう、良い感じに!」
あたしは拳を振り上げ、お母さんに力一杯言い返す。でも、お母さんはあたしの言葉なんか全然信じてくれなかった。
サミーお姉さんとルカちゃんが、あたしの後ろで首を振っていたから。
「マイカちゃんはよく男子にやり返して泣かせてる。あれをお淑やかとか上品とは言わないんじゃないかな。ねえ、ルカ?」
「マイカ姉、意地悪な男の子をよく追い返してくれるの!」
振り上げた拳から、力が消えた。
抜けるんじゃなくて、消えたの。
お母さんに言い返すあたしのやる気は、蝋燭の火に息を吹きかけるみたいに、二人の言葉に消されてしまった。
「え、えっと、あの、その、それはね? つ、つよきをたすけ、よわきをくじくっていうキシドーのなんかあれで……」
「マイカ。それは逆よ、逆。弱きを助け、強きを挫くのが正しい騎士道。マイカの言い方だと、とんだ外道になってしまうわ」
お母さんが、なんか酸っぱいのと苦いのを混ぜ合わせたような溜息をついてしまう。
「まあ、それは良しとしましょう。いえ、教養的には全然よくはないのだけれど……男の子達の意地悪から女の子を守っているのなら、やんちゃではあるけれど、ひとまず良しとします」
「良しとされました!」
消えたパワーが戻って来た。
両手を握って振り上げるほどのパワー!
「あくまで、意地悪から守るためなら、ですからね? そこのところは勘違いしないように」
「はぁい!」
「暴力は、お母さんもお父さんも好きではありません。お父さんから剣を習っているからと言って、無暗に振るったらお説教ですからね?」
「は、はぁい……」
騎士ごっこで遊んでいて、ついうっかり強く叩いちゃったとかは、大丈夫だよね?
わ、わざとじゃないし、ちゃんと謝って仲直りしてるし……。
「……マイカ、本当に気をつけなさい? いざという時に凛々しく振る舞えることは偉いけれど、普段は淑やかで優雅な方が良いのですからね」
お母さんが顔を寄せて念押ししてくる。
これは危ない。後もうちょっと変なこと言うと、お母さんがコンコンとお説教してくる時のやつだ。
お説教回避のため、あたしは背筋を伸ばして、目はそらさず、コクコク頷く。
「おしとやかで、ゆうが……マイカ姉、それってどういうの?」
おっとっと、ここでルカちゃんからの質問が来た。
うーん、そうだね、あたしより小さい子には難しかったね。
お淑やかで優雅って言うのは………………なんと、お淑やかで優雅ってことだよ!
って言えたら楽なんだけど、これじゃ答えにならないよね。
でも、お淑やかってどういうものかって聞かれると、すっごく答えづらいよ。なんかそういう感じのもの、としか言えない。
「え、えーっとぉ……お淑やかって言うのは、上品とか、静かとか、おっとり? とか? そういう、なんかとっても良い雰囲気? みたいなのなんだよ?」
「ふぇ~? そう、なんだぁ?」
「そ、そーなんだよっ」
よし、ルカちゃんがなんとか納得してくれた。
ふぃ~、なんとかマイカ姉としての面目を保てたと思う。
これ以上は聞かないでくれると、マイカ姉は嬉しいなっ、ルカちゃん!
「じゃあ、ゆうがってなに?」
聞かないでくれると、マイカ姉は嬉しかったなっ、ルカちゃん!
優雅とは? お淑やか以上の難問が来ちゃった……。
っていうか、あたしも優雅はよくわかんなぁい!
お淑やかと似ているなんかこう良さげな何かでしょ? もうそれでよくない!?
よくないよね、それはわかる!
あたしが助けを求めてマイカ姉よりさらなるお姉さん、サミーお姉さんに視線を向けたら、思いっきり横を向かれていた!
それはひどいよサミーお姉さーん!
か、かくなる上は――あたしは、物語後半の追い詰められた悪者みたいな顔で、お母さんを見上げる。
「ゆ、優雅って、なんですか、お母さん?」
「優雅とは……こういう時に何一つ慌てないことよ、マイカ」
そう微笑むお母さんは、とっても優雅だった。
な、なるほど、これが優雅……! わかる、あたしにもわかるよ、お母さんの優雅さが!
「でも、それをルカちゃんにわかるような言葉にはしづらいよ、お母さん……」
「そうかしら?」
お母さんは、人差し指を顎に当てて、軽く首を傾げた。
う、可愛い。あたしのお母さんは時々、娘もびっくりするほど可愛い。
そんな可愛い仕草の後、お母さんは腰をかがめてルカちゃんに尋ねた。
「ルカちゃん、アッシュ君ってどんな人?」
「え? アッシュ兄?」
問われて、ルカちゃんの小さい口から出て来る声がちょっと高くなった。
「アッシュ兄はね、とっても優しいの! 困ってるといつも声かけてくれてね、お話もたくさん聞いてくれて、あとあと、後ろをついて行くとゆっくり歩いてくれるの! 他の男の子達はすぐ走って行っちゃうけど、アッシュ兄だけは一緒に歩いてくれて、手も繋いでくれるよ!」
「うんうん。流石はアッシュ君、とっても紳士ね。そういうアッシュ君のことを、わたしはお淑やかで優雅だと思うわ」
「そうなの?」
「そうよ。アッシュ君は思いやりがあって、挨拶もしっかりできて、身なりも清潔、言葉遣いも丁寧でしょう? そういう素敵な人のことを、お淑やかとか、優雅と言って褒めるのよ」
「本当だ! アッシュ兄はおしとやかでゆうが!」
よくできました、とお母さんがルカちゃんの頭を撫でる。
あたしの隣で、サミーお姉さんが呟いた。
「これ、お淑やかと優雅を説明しているユイカ様が一番お淑やかで優雅なんじゃないの?」
あたしもそう思う。間違いなくお母さんが一番だよ。
今の説明で自分を見本として使わなかったところも、なんかとってもお淑やかだった気がする。
でも、お母さんがアッシュ君を説明に使ったのもわかる。
この村で一番がお母さんだとして、次にお淑やかで優雅なのは誰かと聞かれたら……アッシュ君が来ちゃうかもしれない。
他には、シェバおばさんやターニャさんも良いとこ行きそう。
あたしは……こ、これから成長するんだよ。お母さんの娘だから、多分、大丈夫……。
あと、お父さんとか? 村長だし、騎士だから、姿勢とか礼儀がしっかりしている。
ちょっとお淑やかっていう言葉には当てはめにくいけど。剣を持つとお父さん、熊よりすごいからね……。
そんなことを考えていたら、そのお父さんがやって来た。
「あら、あなた。どうしたの?」
お父さんを見てすぐ、お母さんが髪を手で直しながら微笑む。
声が、さっきのルカちゃんみたいにちょっと高くなった。
「倉庫整理の手伝いに来てくれたの? あらあら、手が空いたなら休んでいても良いのに。こんな埃っぽい姿をあなたに見られたら恥ずかしいわ。ふふ、もちろん、あなたと会える時間が増えるのはとても嬉しいけれど」
う、これはいけない。お母さんとお父さんの甘々モードだ。
あたしは甘い物がとっても好きだけど、それでも甘さにも好みくらいはある。
お父さんとお母さんが大好きな甘いのは、あたしはちょっと苦手なのです。
「おかーさーん、あたし達は疲れたから、休憩して良いよねー!」
「ええ、良いわよ。クライン――お父さんが手伝ってくれるから、あなた達は遊んでらっしゃい」
あっさりと自由にして良いって言われちゃう。
遊んでたあたしに、お仕事を手伝ってと命令して来たのはお母さんなのに。だったら最初から呼ばないでよ、もう!
「ルカちゃん、サミーお姉さん、行こう!」
二人の手を取って、さっさと倉庫から走り去る。
「あっ、こら、マイカちゃん! 速すぎ! ルカが転ぶでしょ!」
「アッシュ兄とちが~う! マイカ姉、おしとやかでもゆうがでもな~い!」
はっ、しまった!
うぅ、アッシュ君のレベルが高すぎてあたしのダメダメなところが目立っちゃう!
「ごめんごめん。早く遊びたくって、えへへ」
すぐに二人の手を放して、とりあえず謝る。
「あたしは良いけど……ルカ、平気?」
「うん、これくらい全然平気だよ。引っ張られたら速く走れるの、楽しかった!」
そう? じゃあ、今度もうちょっとやってみよっか。
中々強いルカちゃんを笑って誘うと、目を輝かせて勢いよく頷いて――サミーお姉さんに頬っぺたを両手で挟まれて返事を潰された。
「やめて。調子に乗って転んで泥だらけで泣いてるところが目に浮かぶから」
言われて、あたしもありありとその光景が思い浮かんだ。
泣いているのがルカちゃんで、あたしはその隣でおろおろして慌ててるの。
それからルカちゃんの家に謝りに行って、あたしはお母さんにお説教されるんだ。
半べそかくあたしを、お父さんが「これもお母さんの愛情だから」って慰めてくれて、頭を撫でる感触まではっきりとわかるような……これは幻?
まあ、今まで何回かやらかしたことあるから、幻じゃなくて思い出なんだけど。
あれー?
なんかあたし、本当にやんちゃすぎる気がして来たんだけど、気のせいだよね?
こ、これくらい普通だし?
サミーお姉さんだって、よく男子がちょっかい出したりはしゃぎすぎると大声で叱ったり、場合によっては拳骨食らわせたりしてるし?
大丈夫。大丈夫?
うっ、考えすぎて頭が……。
「それにしても、マイカちゃんのところは、父さん母さん仲が良いわね。新婚さんみたい」
あたしが謎の頭痛に襲われていると、サミーお姉さんとルカちゃんが二人で話し始める。
「パパとママも言ってたよ。マイカ姉のパパとママはとっても仲良し、素敵な夫婦だって」
「うちでもよく聞くよ。あの二人、喧嘩とかするのかな。想像つかないんだけど、マイカちゃん?」
たずねられて、えーあーまーと口ごもる。
そんなにお父さんとお母さんのこと知りたい?
べ、別に楽しいお話にならないと思うけどなぁ……。
あたしはいつもそう思うけれど、周りの人からすると楽しい話題みたいで、言って欲しそうに見つめられる。
なので、観念して溜息交じりに頷く。
「……喧嘩とか、見たことないよ」
「わあ、マイカちゃんでも二人の喧嘩を見たことないんだ? うちなんかしょっちゅうよ。服を汚しすぎとか、小言うるさいとか……」
「うちもパパがお酒飲みすぎってママがねぇ、なんか怒ってた」
村長家の場合、お父さんがお母さんの言うことに逆らったところを見たことがない。
喧嘩が起きるわけがないって言うかね。
「いいなぁ、将来結婚するなら、ああいう風になりたいよ」
サミーお姉さんがそう言って、あたしの唇を尖らせる。
こういう風に言われるのが嫌だから、さっさとお父さんとお母さんの前から逃げ出したのに、あの二人はもう一瞬でべた甘になっちゃって……。
いやまあ、お父さんとお母さんも、どっちも自慢の家族なんだけどね?
なんていうかこう、ダメなの!
仲良し夫婦とか、憧れの恋人とか、なんかお父さんとお母さんをそういう風に言われるのは恥ずかしいんだよ!
悪いことじゃない。
悪いことじゃないんだよね。
わかるよ、それは! でも、なんか全身が痒くなった気になっちゃってダメ!
腕とか背中とかをなんとなくかいているうちに、サミーお姉さんとルカちゃんがお喋りモードになっていた。
「ねえ、ルカはさ、どういう人が好き?」
「あたしはね、アッシュ兄みたいにおしとやかでゆうがな人が良い!」
「あぁ、はは……。ルカはやっぱりアッシュかぁ」
サミーお姉さんの目が泳いだ。
アッシュ君はモッテモテだからね。多分、今のお年頃の男の子だと一番人気じゃないかな。
子供達のまとめ役のサミーお姉さんは、アッシュ君狙いの女の子が誰々なのかわかっているのだろう。
そのうちアッシュ君を巡ってソーゼツな戦いが起きると思う。
「うん、アッシュ兄はカッコイイもん!」
「そ、そうねぇ」
サミーお姉さんが、ちらっとあたしを見て来る。
「マイカちゃんは、アッシュのことどう思う?」
「あたしは、うんまあ、顔は良いと思うけど……」
あの大人びた笑い方が思い浮かぶ。
頼りになる、っていうのはわかる。
色んなことを知っているアッシュ君は、ルカちゃんがお腹を空かせていた時も、お魚取りが難しいことをわかっているのに、ルカちゃんのために一人で動いてくれた。
優しくて、とても素敵だと思う。
でも、あの仮面みたいな笑顔を見るのが、あたしには時々つらいよ。
いつか、アッシュ君が笑えなくなっちゃった時、あの笑顔の仮面の奥から、暗くて冷たい、恐いものがあふれ出して来ちゃうんじゃないかって、思ってしまう。
「あたしにアッシュ君は無理かなぁ、あはは」
パタパタと手を振ると、サミーお姉さんが胸を撫で下ろす。
「ああ、よかった。これにマイカちゃんまで入って来たらどうなることかと……いや、逆に落ち着くかもだけど」
あたしが入ると落ち着くの? なんで?
首を傾げたあたしに、サミーお姉さんは弱々しく笑う。
「マイカちゃんと同じ子を取り合おうとするのは、かなり勇気がいると思うよ。あたしは少なくともごめんかな。絶対負けるってわかってるし、負けてもいいからって思えるほど、カッコつけられないしね」
サミーお姉さんが、自信なさそうに頭をかく。
「ルカはどう? マイカちゃんがアッシュのことを好きって言い出したらどうする?」
「ん~? マイカ姉になら、アッシュ兄をあげてもいいよ!」
えっ、いいの? そんなあっさり?
「ルカちゃん、アッシュ君のこと好きなんじゃないの?」
「アッシュ兄と同じくらいマイカ姉も好きだから、いいよ! マイカ姉もアッシュ兄と同じくらいカッコイイから、好き!」
「あ、ありがとう?」
あたし、カッコイイの?
可愛いじゃなくて?
ルカちゃんの眩しい笑顔が胸に突き刺さるのはなんでだろう。
ちょっとショックを受けて、サミーお姉さんに顔を向けると肩を叩かれてはげまされた。
「多分、可愛いのも合わせてのカッコイイだから大丈夫だって。あたしはマイカちゃんの可愛さがうらやましいもの。マイカちゃんは棒っ切れ振り回して泥で汚れてても可愛いわよ」
「そ、そう? よかったぁ」
ちゃんと可愛いって思われてるならいいんだよ。あたしも女の子だからね。
マイカ、レディですから。
ん?
泥で汚れても可愛い、っていうのはレディなのかな?
あたしが心に引っかかるものを感じているうちに、ルカちゃんが話を進める。
「ねえねえ、サミーお姉ちゃんは? お姉ちゃんはどんな人が好きー?」
「あたし? あたしは……あー? あれは、そう、だなぁ……頼りになる人? がいいなぁ」
んん~? サミーお姉さん、ちょっと恥ずかしそうにしてるの、怪しいね。
今考えこんだの、本当は誰かの顔が思い浮かんだんじゃない?
それを誤魔化して、頼りになる人とか言い直したんじゃない?
口元が緩むのを感じると、ルカちゃんが真っ直ぐに言葉を投げつける。
「たよりになる人って、アッシュ兄みたいな?」
「ア、アッシュ? ま、まあ、そうね? 別に、アッシュのこと言ってたつもりはないけどさ、うん、頼りにはなるかな?」
おぉ、サミーお姉さんの顔が見る見る赤くなった!
へえ! サミーお姉さんもアッシュ君狙いだったんだ!
珍しいお姉さん役の表情に、口元が緩んでしまう。
それに気づいたサミーお姉さんが、慌てて言葉を付け足す。
「ほら、チビッ子どもの面倒を見てる時、助けてくれるし? うん、そういうの、確かにアッシュは助かるなぁってね? いやいや、そういうのじゃないからね! ほんっと、違うから!」
「サミーお姉ちゃん、照れなくて良いのに~」
まったくルカちゃんの言う通りだよ!
普段強気なサミーお姉さんが照れてわたわたしてるところはすっごく可愛いね!
「あーもう! 次! 次の番! マイカちゃんは? どんな人が好き!?」
「う~ん、好きな人かぁ……。あんまりこう、パッと来ないんだよねぇ」
好きな人の話、聞くのは嫌いじゃないんだけど、答えるのは苦手なんだよね。
顔とか見た目は、アッシュ君みたいな子はカッコイイなぁって感じたりするんだけど、こういう人と結婚したいなぁって思ったことなくて……。
「マイカちゃんだけ言わないのずるいでしょ。なんかないの?」
「別に隠してるわけじゃないってば。答えたいけど、うーん、これって言うのが……」
「優しい人とか、逞しい人とか……後は、ほら、ユイカ様と村長さんみたいに、強い騎士が良いとか?」
「えぇ、お父さん?」
「そう。ユイカ様と村長さん、やっぱり素敵な夫婦だもん」
この手のお話しになると、お父さんとお母さんみたいなの良いでしょ、って絶対言われるから苦手なんだよ……。
恥ずかしいんだってば。
お父さんが素敵って言われても、お母さんの言うことをニコニコして聞くだけのところを見てるから、あんまり素敵って感じもしないし。
いやお父さんは好きなんだけどね、お父さんとしてはだけど。
あたしはもっとこう、男の子にはぐいぐい来て欲しい――
「あっ、あたし、引っ張って行ってくれる人が良いかも」
うんうん。村ってやっぱり色々大変なこととか、退屈なことが多いから、そういうのを吹き飛ばしてくれるような人が良いな!
「あたし、楽しいこと好きだから、楽しいこととか新しいことをたくさん教えてくれる人が良いと思う!」
「楽しいこととか新しいことねえ。それって、どんな?」
「わかんない!」
なんたって楽しいことも新しいことも、この村には少ないからね。
だから、そういうことをたくさん知りたい。
できれば、知るだけじゃなくて、実際に見て、触ってみたい。
「なるほど……。中々、難しそうな好みね?」
あたしもそう思う。
少なくとも、この村だと期待できないかなぁ。
「あ、あとね、底抜けに明るい人が良い。お日様くらい。これは絶対かな」
あたし、暗いの嫌いだからね。
世界中の夜を吹き飛ばすくらい明るい人じゃないとやだな。
いつか、あたしの理想の人と出会えたとしたら、それはどんな男の子なのかなぁ。




