見送る背中4
道端に咲いていた花を、アッシュが採取して来た。
話は聞いていたので、それをアッシュがなんのために持って来たのかはわかっている。
別に、マイカちゃんにプレゼントしようってことではないらしい。
「これが、アッシュの言う……ええと、コンパニオンプランツか?」
「図鑑の特徴と一致するので、そうではないかと」
俺が首を傾げると、アッシュも首を傾げた。
「畑の守り神じゃねえか」
「はい、昔に父さんからそう教わりました」
畑仕事の合間に、猿神様が魔法をかけた花だって話はしたことがある。
それを覚えているなんて、感心じゃないか、アッシュ。
俺が感心して頷いていると、アッシュも何事か頷いている。
「ふうむ、なるほど? 経験的にか言い伝えからか、この植物の有用性は今でも知られていたみたいですね」
「そんじゃあ、今さら知ってもあんまり意味はねえか」
「いえいえ、父さん。コンパニオンプランツには効果的な使い方というものがあるようです。今みたいに畑の近くにまばらに生えているだけでは、真の力を発揮しているとは言えません」
「なるほど、わからんけどお前が言うならそうなんだろう」
「本に書いてあるからきっとそうなんです」
俺が頷くと、アッシュも頷く。
すると、奥の方で繕い物をしていたシェバが、一人で楽しそうに笑う。
なんだなんだとアッシュと二人で視線を送ると、だって、とシェバが肩を震わせる。
「さっきから二人して同じ動きしているんだもの。そっくりねぇ」
そりゃお前……。
「親子だから」
「親子ですし」
シェバがまた笑いだす。
なんだ一体、こっちは真面目な話をしているんだぞ。
ええい、アッシュ、あっちは無視だ、無視。
男同士、しっかり仕事をするんだ。
アッシュがパラパラと教会から借りて来た本をめくって、植え方をあーだこーだと何個も提案する。
「待て待て、そんな一度に試すだけの畑の広さなんてないぞ!」
「そうなんですよねぇ。どこかよその畑をやらせてもらえませんかね?」
「う~ん、難しいな」
そりゃ頼めばやらせてくれるだろうが、良い顔はされない。
できるだけ自分が責任を取れる範囲で、こういうのはやらないとな。
とはいえ、うちの畑を新しく拓くってのもすぐにはできねえし……。
「あ、そういや、ターニャのところの畑が空くらしいな」
「そうなのですか?」
「ああ、養蜂をやるから、畑の世話の時間が取れなくなるから、どう分担するかって話になったんだよ」
「父さん、お願いがあるのですけど」
ほほう? この父親に、お前からお願いだと?
ふ、ふふふ……!
言ってみろ言ってみろ!
できるだけ叶えてやろう。俺はお前の父親だからな!
「その畑をうちで押さえることはできませんか?」
「そんなもん簡単だ。その気になればできるに決まってるだろ」
いざとなったらこっそり買った蜂蜜酒をあいつ等に飲ませりゃ楽勝よ。
「もちろん、増えた負担分は私もしっかり働きます」
「そんな余計なことは考えなくていい。お前の力を借りなくても、ターニャのとこの畑分なんざ俺一人でもしっかり面倒見てやらぁ」
「おぉ、流石父さん! 頼もしいですね!」
ふははは、そうだろう、そうだろう!
お前と比べたら頭はよくないが、力じゃまだまだ負けないからな!
むふーっ、実にいい気分だ!
自慢の息子に褒められていい気分になっていると、シェバも同意してきた。
「本当に頼もしいわね。でも、本当にターニャちゃんの畑を引き受けるなら、忙しくなるでしょうし、朝の水汲みはしなくていいわ」
「お、おう!」
とうとう、シェバのお許しが出た! な、長かった……!
早朝の重労働は特別きついんだ。
とはいえ、俺がやらなくなったらシェバかアッシュがやることになるわけで、やっぱりこの家族の中じゃ、俺が一番力持ちだ。
「まあ、ありがたいけど、このまま俺がやるよ。本当に忙しい時だけ、アッシュに代わりを頼むかな」
「ええ、その時はお任せください」
うむ、頼んだぞ、息子よ。




