煉理の火翼13
王都では、他領の領主やその代理人クラスが集まっているので、社交も盛んだ。
質素を旨とするサキュラ辺境伯家の王都屋敷にも、社交用の談話室くらいはある。
今回はそこに、サキュラ辺境伯閣下・スクナ子爵閣下の連名で、暇な奴集まれーと声がけをした結果、暇な方々が集まった。
「ゲントウ殿、お招きに与り参りました。スクナ子爵領で例の不死鳥とお会いしたのでしょう? ぜひ、面白いお話を聞かせてください」
「わたしも、ぜひ、お聞きしたいですわ。閣下が王都を離れてから、それが楽しみで楽しみで」
「考えることはどなたも一緒ですな。かくいう自分も、閣下が帰って来たと聞いて、お会いできる機会を今か今かとお待ちしておりましたぞ」
老若男女様々そろっているが、前もって聞かされた話によると、いずれも王都から遠い地方の貴族であるらしい。
つまり、ゲントウ氏がさんざんに飛行機やらアルコールランプやらを見せびらかした人々だ。
押し寄せるように話しかけて来る参加者に、ゲントウ氏はちやほやされて楽しそうである。
「はっはっは、各々方、土産ならとびきりのものがあるので、楽しみにしていて頂こう。まずは舌の滑りを良くするために一杯やるとしましょう」
ゲントウ氏の合図で、給仕が参加者の面々にグラスを手渡し、陶器の瓶からお酒を注ぐ。
薄い琥珀色の液体が、透明なガラスの底に当たると、香しい風味を放ちながら踊る。
「おや、この酒は……? どうも私が知らないもののようだ」
「瓶はクイド商会のものですね」
「とすると、サキュラ辺境伯領のもの。しかし、この香りは……もしや?」
参加者の指摘に、ゲントウ氏は、まずは一杯お試しあれ、ともったいつける。
しかし、そのにやにやした口元が、如実に参加者の指摘が正確であることを伝えてしまっている。サプライズが台無しだ。
半ば予想しながらも、参加者達は主催であるゲントウ氏に気を遣って、グラスに口をつける。
「おぉ、間違いない、火酒だ!」
「やはり! とうとうサキュラ辺境伯領は火酒の技術まで開発したのですね!」
「やった! これで好きなだけ火酒が飲めるわ!」
王都にいるだけあり、参加者達は今世では珍しい火酒――蒸留酒を咽ることなく味わう。
どれだけこのお酒が珍しいかというと、辺境伯領では領主館でも出ないくらい珍しい。
もっとも、辺境伯領で見ないのは、それだけ高いということもあるが、生産方法を独占しているのが中央貴族であるため、仲が悪い領地に金を落としてたまるか、という意地の部分も大きい。
それはこの場の他の面々も一緒なのだが、王都にいると社交の場で出されるため、味は知っているようだ。
もちろん、中には、醸造酒にはない強さと風味にやられてしまい、悔しい想いをしながらも常飲している人もいるだろう。
台詞からして、三十路ほどのキレ者風の女性――王国南部、海沿いの領地、ネプトン男爵領の王都駐留官は、そんな気がする。
「うむ、これは麦の火酒ですな。エールではありえない、この鮮烈な辛口が何とも心地いい」
「麦? こちらはブドウよ。うん、王都で出回っているバツカ伯爵領のものより若いようだけれど、これもまた一興だわ」
「ほう、二種類も出してくるとは……。流石はゲントウ殿、いきなり楽しませてくれます」
自分達で開発したお酒を、美味しそうに飲んでもらえるのは嬉しいものだ。
しかも、舌の肥えた方々から賞賛されているのだから、初の酒造りとしては上々だろう。
「ふう……やっぱり、火酒は強いわね。でも、麦の方も試してみたいですわ」
よろしいかしら、と色っぽく赤らんだ頬を押さえて首を傾げる女性に、ゲントウ氏が頷く。
許可が出たので、給仕が新しいグラスと一緒に、水の入ったグラスを差し出す。
「まずはこちらのお水をどうぞ。酔いもゆるやかになりますし、お酒もまた鮮明に味わえますので」
「ありがとう。……あら、あなた、初めて見る顔ですわね」
「はい。今回、初めて王都に参りました」
「そう。長旅の後に給仕をさせてしまって、ごめんなさいね」
ご機嫌なネプトン駐留官は、給仕にも愛想よく微笑んで、お酒の方に意識を戻しかけ、慌てて振り返った。
世に言う二度見である。
何気なく給仕をしていた人物は、何を隠そう私である。
武名で鳴らすサキュラ辺境伯家の催しものでは、見習い騎士や新米騎士といった武官が給仕係に回ることも珍しくない。
その慣れのせいで、一同最初は見逃していたようだが、流石に銀功勲章をつけた給仕はおかしい。
特に、ネプトン男爵領の人間にとっては、自領の領主が授与する勲章を下げていたことは見逃せなかっただろう。
「そ、それは我が領の海嘯勲章ではありませんの! それも銀功!? サキュラ辺境伯家の人間で、それを持っているのは……!」
ネプトン駐留官が言わんとすることに、他の参加者も気づいて腰を浮かせる。
そこで、ゲントウ氏がしてやったり、と楽しそうに私を紹介する。
「最初に言った通り、とびきりの土産ですぞ。フェネクス卿、ご挨拶を」
「はい。サキュラ辺境伯家より、騎士位を賜りました、アッシュ・ジョルジュ・フェネクスと申します。この度は、皆様の前で名乗りを上げる機会を頂戴し、光栄であります」
一応言わせて頂きますが、今回のこのサプライズ、私は反対しましたからね。
「うおおおお!? 不死鳥! あ、あなたが、あの、不死鳥の少年なのか!」
「本物!? 本物なのか! げ、ゲントウ殿、彼は本物か!?」
「う、うちの海嘯勲章は本物だわ……。戦闘銀功が、三つもあるのね。文化銀功も二つって……え? それ、スクナ子爵領の湯煙勲章よね?」
だから、目の前の混沌をどうにかする義務が、閣下にはあると思うのですよ。
ご主君、大変恐縮ですが、一人で笑ってないで、この場を落ち着けろ。
****
「いやあ、笑った笑った」
満足そうに火酒をあおるゲントウ氏は、徹頭徹尾、騒ぎを眺めて楽しんでいるだけだった。ひどい主である。
立場上、文句を言いにくい私の代わりに、サプライズを喰らった参加者の皆様が反撃してくれる。
「ゲントウ殿、こういった悪戯はご勘弁願いたい」
「そうですわ、心臓が止まるかと思いました」
「おや、この土産ではご迷惑でしたかな。では、下げてしまった方が良いか」
「いいえ、全然!」
皆様、一瞬で文句を引っ込めてしまわれた。
その手腕を、さっきの大混乱中に発揮して欲しかったのですが。
「さて、フェネクス卿。場の空気も解れたことだ、土産話をしてくれ」
「閣下は人使いが荒い、と認識することになりそうですが、よろしいですか」
これについての返答は、「構わんぞ」と一言であった。
知ってた。
この手の精神的に防御力の高い人は、本当に扱いに困る。
周囲が苦労するので少しは打たれ弱くなって頂きたい。
人の言うことを全てスルーして自分のやりたいことばかりこなしていく人とか、周囲の方々が温厚な聖人思考でない限りぶっ殺されますよ。
辺境伯閣下は、私が聖人君子に見せかけた暴走特急で命拾いをしましたね。
いわば同類だから、優しくしてあげます。
「では、僭越ながら私から、お集りの皆様に我が領の成果と、今後の計画についていくらかお話をさせて頂きます」
ゲントウ氏のサプライズにあたふたしていた一同は、私の言葉の内容に、即座に雰囲気を引き締めた。
流石、王都の留守を任されている重鎮ばかりである。
「わかりやすい見本として、今回は蒸留酒……いわゆる火酒を皆様に振る舞わせて頂きました。皆様のご拝察の通り、こちらはサキュラ辺境伯領で試験的に製造したものです」
特に蒸留酒好きそうなネプトン駐留官には、二年モノですので味はまだまだですが、と微笑んでおく。
「この蒸留酒の製造方法は、簡単に言いますと、エールやワインといった醸造酒を、加熱して湯気として分離してくる濃い酒精を取り出すというものです」
「ちょぉ――!?」
それで、と次に進もうとした私に、ネプトン駐留官が理知的な美貌に見合わない声をあげる。
「バ、バツカ伯爵領の秘匿技術よ!? 一説には錬金術を使って、猿神様の加護で作られるとまで言われる秘伝を、そ、そんな無造作に……!」
この程度の技術を秘匿しているから、今世は古代文明の上げ底が全く活かされないのだ。
私はご主君の許可も頂戴したので、ばんばん公開していきますよ。
「構いません。閣下の許可は頂いておりますし、情報を明かした理由はこの後のお話を聞いて頂ければ、ご納得を頂けるかと。ですが、ご心配ありがとうございます。そのお心遣いは、決して忘れません」
ネプトン駐留官が良い人だということは、心の重要事項にメモしておこう。
ネプトン男爵領は海岸沿いの領地で、サキュラ辺境伯とも仲が良く、今後も良いお付き合いをしていきたいと思っている。
固形石鹸の実験に海藻を送ってくれたのはネプトン男爵領であるから、きっと彼女が交渉に乗ってくれたのだろう。
この様子なら、好意の等価交換ができそうだ。
「それで、蒸留酒を商業規模で製造するには、金属加工技術、窯などの火力調整技術が必要となります。醸造酒から蒸留酒を安定して生産するための大型装置を作るためですね」
領地改革推進室が誇る研究所では、これを可能とするだけの土台がすでにできている。
各領の重鎮でもある皆様は、技術が必要と聞いて、小さく頷く。簡単なやり方を知っただけではどうしようもないので、私が手札を明かしたと思ったのだろう。
「なお、現在我々が使用している蒸留装置は試作段階ですが、ここから商業化を試みた場合の販売価格はこちらになる予定です」
参加者の皆様に、領地改革推進室が作成したレポートを配布する。
元々はスクナ子爵領でだけ使う予定でレンゲ嬢が製作したものだが、王都行きが急きょ決まったので急いで複写した。手書き文化つらい。
「これは、本当に、このお値段ですの?」
ごくりと、生唾を飲んだのはネプトン駐留官だ。
「現在流通している火酒の半額なんて! こ、これでこの味が楽しめるなら、夢みたいだわ!」
やはりというか、お酒好きらしい。
一本分のお値段で二本と計算して、夢見るような眼をしていらっしゃる。
「バツカ伯爵は製造法を秘匿していますので、現在の価格の理由はわかりませんが……石鹸同様に、独占技術のために値をつり上げているか、蒸留装置の効率が私どものそれより悪いのでしょう」
両方の可能性もある。なお、ネプトン駐留官にはさらに良い報せがありますよ。
「この価格も、試作段階でのお話です。装置はさらに改良できますし、この技術を使って他の領でも製造が進めば、味は多様化し、お値段もさらにお求めやすいものが出て来るでしょう。特に、葡萄や麦の生産量が多いところでは、元になる醸造酒が大量に造られていますから」
他の領、と聞いて、ネプトン駐留官を始め、参加者がゲントウ氏の顔色をうかがう。
あれは、お宅の家臣はこんなこと言っているけど良いの? という確認だ。
ゲントウ氏が、話を止めず、一同の視線に軽く頷くことで、彼等は理解したようだった。
「つ、つまり……サキュラ辺境伯領では、その火酒を作る装置を、他領にも販売して下さると?」
「それをお望みであれば」
けれど、それには致命的な問題がある。
「ただ、蒸留装置を販売するのは構いませんが、その整備や管理にも相応の知識と技術が必要になります。故障する度に、他領の人間を呼ばなければならないというのは、現実的ではないでしょう?」
「そ、そうね。それはもっともですわ」
ネプトン駐留官は、残念そうに肩を落とす。
彼女はまずお酒好きとしての落胆を示してから、それならばなぜ今こんな話をしているのかと、外交官の疑問が浮かべる。
もちろん、解決策があるからだ。
「そこで、我が領では、他領からの留学生の受け入れを計画しています。皆様の領地に、才能と探求心にあふれた人材がいて、彼等が希望するのであれば、我が領で開発した技術を彼等が学ぶ機会を作ります」
技術を持つ人材がいないから、他領の人間に頼ることになる。
ならば、その技術を持った人材がその領地にいれば、問題は解決だ。
単純な話である。
「蒸留装置の販売ではなく、製造技術そのものを公開すると言うの?」
ネプトン駐留官の視線が、忙しなく私とゲントウ氏を行き来する。
石鹸豪商やバツカ伯爵領の例があるので、技術の公開は行われないというのが常識的な認識となっている。
だが、サキュラ辺境伯領は石鹸技術を公開したという特殊前例がある。一同の期待はいや高まるばかりだ。
「また、我が領では農業生産量向上の研究を行い、こちらも一定の成果をあげています。ブドウへの応用は実験が必要ですが、麦の収穫量は上昇したデータが得られました。火力に必要な木炭の製造についても、従来の製法とは別な方法を開発しており、今後の普及を図っているところです」
目の前に札束を積み上げる感覚で、サキュラ辺境伯領が持つ手札を提示していく。
参加者の方は、手札一つ一つの価値を計算するのに忙しそうだ。
口元に手を当てて無言の呟きを隠すもの、瞬きの回数が増えるもの、額にうっすらと汗が浮かぶもの、いずれも高速で思考を回していることがわかる。
「これらの技術も、留学生は学ぶ機会を得られるでしょう。場合によっては、その先の研究も、共にできるかもしれません」
そこは留学生の能力と事情次第でもあるが、優秀な人材であるならば、ぜひとも研究を手伝って頂きたいところだ。
「なるほど。それは大変、興味深いお話ですわ」
ネプトン駐留官が、個人的な嗜好を抑えて、慎重な口調で応える。
「それで、どのような条件で、その留学生を受け入れてくださるのかしら。ご予定はお決まりですの?」
「はい。まだ腹案の段階であり、今後の調整はありますが」
温泉につかっている間に、スクナ子爵と交渉しながら相談したので、大枠は決まっている。
「一つは、我々が研究開発に使った資金を回収するために、いくらか金銭的な負担をお願いすることになります。これは、留学生が学ぶ環境の維持費にも使われますので、ご了承を」
常識的な提案なので、当然という反応で頷かれる。
「次に、領地としての協力関係を、正式に結ばせて頂きたい。内容は、貿易の活発化と、災害時の救援について、この二点は最低限必要とします」
貿易については、各領地間での物資の共有化が目的である。各地で採れる資源が手に入るようにしたい。
災害時の救援については、魔物の襲撃による荒廃や飢饉の際に、衣食住の関連物資を、無償とは言わないが格安で提供するようなものを考えている。
つまり、どちらも言いたいことは同じだ。
何かが不足しているところへ、何かが余っているところから、物資を循環させたい。
特別に儲けたい、優位に立ちたいという内容は盛り込んでいない。
「破格の条件、と言って良いでしょうね……。もちろん、詳細をつめないといけないけれど」
ネプトン駐留官は、ちょっと警戒した表情だ。
条件が良すぎても怪しまれるなんて、殺伐とした社会である。
私は、辺境伯領だけでは色々と足りないので、他領に協力をしてもらえるだけで十分なのだが、中々これは信頼されないらしい。
しょうがないので、ご期待に応えて、少々腹黒いところをお見せしよう。
「ちなみに、留学生を一度に受け入れられる数は限られています。ですので、希望者の数が多い場合は、失礼ながらいくらかの選別をすることになるでしょう」
選別方法は秘匿しますが、公正を期すことをお約束します。
なお、銅貨一枚の出資者と金貨一枚の出資者が得られる特典が同じというのは、公正とは言わないと私は思う。
言わんとすることを察したのか、参加者の皆様が互いの顔を見合わせて、火花を散らす。
視線の鍔迫り合いに参加せず、いち早く返事をひねりだしたのは、ネプトン駐留官だった。
「我がネプトン男爵領としましては、前向きに検討するに値するご提案だと承りました。早速、領地の者とも相談させて頂きます」
にっこり笑顔のネプトン駐留官さんの背後、他の皆様が和やかな笑顔の下で無音の舌打ちをしているのがわかる。水面下での激闘がすごい。
「ところで、フェネクス卿はまだお若いけれど、婚約者などはいらっしゃるのかしら?」
「いえ、婚約者はおりませんが……」
奪う宣言をしてきた好きな女性、という複雑な関係の人はいます。
マイカ嬢のことをどう伝えようかと悩めば、なんとも言えなくて苦笑が出た。
それをどう思ったのか、ネプトン駐留官はわかっているという風に頷く。
「でしたら、一度、私の娘にお会いしてみません? 立場上、厳しく育てることになりましたが、良く応えてくれた自慢の娘ですの」
ネプトン駐留官の切った手に、今度は遅れてなるものかと他の皆さんも声を上げる。
「そういうことでしたら、我が領にも年頃の娘が良縁を探しておりましたな」
「フェネクス卿は、年下と年上と、どちらがお好みかな?」
水面下の激闘に、私も巻き込まれてしまった。
浮き輪でぷかぷか遊んでいたら、下から無数の腕に捕まれた気分である。
結婚願望があれば大いに喜ぶべき騒ぎなのだろうが、マイカ嬢を拒否した以上、受け入れるつもりはない。
適当な相手と結婚してお茶を濁す、という選択肢も、私にはもちろんある。
その場合、不幸に巻き込んでも気にやまない、どうでもいい相手だから夫婦になった、ということになる。
いくら私でも、そんな鬼畜な家庭を持ちたくない。それくらいなら最初から独身を貫いた方が精神衛生上、実に効果的だ。
とりあえず、皆さんが落ち着くまで、のらりくらりとかわそう。
差し当たりない台詞集で防壁を築こうとしたところで、さっきまで酒ばかり飲んでいた人物が、私の前に踏み出てくる。
「あー、あー、方々、少し落ち着いて頂けませんかな」
ゲントウ氏である。
どうしたのですか、ご主君。火酒が切れましたか? この後も使うのですから、今日はもうお代わりなしですよ。あなたちょっと飲みすぎです。
今さら助けてくれるとは思わなかったので、私は王都に持ち込んだ火酒の残量について考えていたのだが、ゲントウ氏の次の言動は助け船以外の何ものでもなかった。
「フェネクス卿が良縁であるのは、主家として私も保証するところではあるのだが、彼への縁談申し込みは、武芸王杯大会の後の方がよろしいでしょう」
ゲントウ氏の言葉に、ネプトン駐留官を始め、一同は残念そうに押し黙る。
しかし、それもわずかの間だった。
「なるほど。どなたか、目当ての方がすでにいらっしゃるのね。それを王杯大会で……」
ネプトン駐留官が、理知的な顔にどこか幼い興奮を浮かべる。
「とっても素敵なお話ですわね。これは、今年の大会ががぜん楽しみになりますわ!」
これは絶対に勘違いされている流れだ。
私が武芸王杯大会に出ると思われている。今の今まで、そんな大会があることを忘れていた私が出る?
そんなまさかである。
「まさに、まさに! 王杯大会の優勝者が望むモノは様々ですが、やはり情熱的な恋の望みほど見ていて胸が熱くなるものはありませんからな」
「三つ前の大会だったかな? あの時の優勝者以来……おや、彼の者もサキュラ辺境伯家の騎士ではなかったか」
「おお、首狩りクライン卿ですな! あの大会は盛り上がりましたな!」
「サキュラ辺境伯家の男児達は、情熱的なのですね。素敵ですわ」
男達は拳を握りしめて暑苦しく気焔を吐き、女達は憧れの展開に想いを馳せている。
そして、私は気がついた。
どうして、いきなり王都行きが決まったのか。
私は王都に来たのではない、連れて来られた――いや、美味い餌をちらつかされ、まんまと誘き出されたのだ。
私が、共犯者に違いないゲントウ氏を見上げると、今さら気づいたのか、と魔王みたいな笑みが待っていた。
「そういえば、フェネクス卿は武勇も秀でていると聞きましたな」
「この若さで戦闘銀功が三つというのは、すさまじいものだ」
「なら、十分に期待できますわね!」
盛り上がる皆様、誠に申し訳ございません。
大会で大暴れするのは、私ではなく、皆さんが来ていることも知らないであろう辺境伯閣下の孫である。
道理であの人、ジョルジュ卿を始め、屋敷の護衛戦力と毎日のように激しく撃ち合っていると思った。
私は、優勝賞品の役目です。




