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都市の翳りに踊るモノたち ~The Black Box ~  作者: 仙洞 庵
第4章 要塞の悪夢
24/34

デストリンの実行部隊

『――会談中、失礼。そろそろ到着です』


 ふいに運転手からの車内アナウンスが響いて、会話が中断される。

 この近距離で、わざわざインターホンによる呼びかけを行っているのは、商売柄、密談すべき事案が多々あるため、運転席側とは完全遮断された造りとなっているからだ。

 当然、今のアナウンスも運転席側から一方的に音声出力されるだけで、デストリンが応答したとしても向こうのスピーカーに出力されることはない。

 目的地が近いことを知らされたことで、デストリンの興味がディランとの会話から別のことに切り替わる。


「いいものを見せてやる」


 デストリンが言うなり、車内の中空に極彩色のノイズが走り、次の瞬間には何も無いはずの眼前にブルーの文字列がずらりと描き出された。

 三次元立体映像ホログラム――レーザー光線を多角的に照射させ、狙った空間に映像を結像させる技術だが、最近のマフィアはオタク系の技術にも興味を示すものらしい。

 ちなみに眼前に展開する描画はあくまで二次元表示でしかなく、その内容は多少の知識がある者ならば、パソコンの“システム起動画面”であると察すれるはずだ。


「面白い玩具だろう」


 見た目無表情なディランの顔に何を読み取ったのか、愉快げな笑みをみせるデストリンが、空中に映し出されたディスプレイへ手を伸ばす。


「ソルトレイクで『家庭用AI』の普及に向けた専用デバイスの開発をしてる連中と偶然知り合ってな。第一世代の実証試験をやりたいというから、モニターをやらせてほしくて資金を弾んでやった。いずれ『ホログラムの執事・秘書』が一家に一人いる時代がくる――真っ先に体験してみたくなるのが人情てもんだろ?」


 とはいえ、肝心の妙齢の美女が現れなければ、音声認識入力もできず、ホログラムの接触入力までが試験段階のようだ。

 デストリンの手の動きに合わせて大画面から小さな画面に6分割されていく。続けて“コマンド”のウインドウ画面を表示させ、“コネクト”のアイコンに触れると待ち受けアイコンがすべてのディスプレイに展開され、数秒後には、一斉に何かの動画がスタートした。

 それぞれの画面には、どこかの壁や誰かが手に持つ銃のアップ、あるいは戦闘服タクティカル・ベストの一部やカメラ付きヘルメット、ゴーグルを付けた誰かの顔のアップなど、恐らく室内にいる戦闘チームの状況が、5つの視点で克明に映し出されていた。ちなみに残り1つは何かのモニタリング画面だ。


「“実行部隊”を所有しているのがお前達だけだと思ったか?」

「いや」

「ソマリア、シリア、チェチェン……『PMC(民間軍事会社)』を利用するのも悪くはないが、世界中に戦闘員の供給源は確保されている。それを俺たちのような顧客が金に飽かせて集めるわけだ」


 淡々とデストリンが言葉を並べ、酒瓶を傾ける。


「あんたが人マネをするとは思わなかった」

「やりもするさ。“実行部隊”の有用性はお前達が証明してくれたからな」


 ディランの皮肉をデストリンは軽くいなす。正直、デストリンが部隊を創設した情報は掴んでいなかったため、驚きが無いかといえば嘘になる。癪なので、決して表情に出すつもりはなかったが。


「いつからだ?」

「1年前」

「兵士が一人前になるのに、どれだけの労力と金が必要だと思う?」


 ディランの問いかけに黒人の上品な笑みが悠然と応じる。先ほどの発言を思い返せば、実戦慣れした兵士はすぐにでも確保可能な世の中だ。それを組織の意向に添えるチームとして実用可能なレベルに鍛え抜くのも、手段さえ選ばなければやりようはある。


「候補者は32名――そこから俺たち流に(・・・・・)絞り込んだ5名の第1陣が彼らだ。『廃掃班ザ・クリーナー』との手合わせはいずれの機会に譲るとして、今回はデビュー戦を一緒に観てもらおうか」


 恐らく貨物トラックの荷台に乗っているのだろう。安いベンチにすし詰めで腰掛ける戦闘員達は、両膝の上に短機関銃を置き、誰とも会話することなく車に揺られている。

 戦闘服タクティカル・ベストにみっしりと付着された弾倉袋に手榴弾、軍用ナイフのフル装備を目にするまでもなく、画面越しの佇まいだけで彼らの練度が窺い知れる。

 脱落した他27名の安否がディランの想像通りならば、生き残りである彼らは、画面から伝わる空気感に相応しい個人の力量があるのは間違いない。

 さらに彼らが“チーム戦術”にも熟練していれば、『廃掃班』とて苦戦は必死だ。

 負けるとは思わないが。

 だが、人的な消耗戦にもつれ込めば、組織の視点からすると“人材の生産性”が高いデストリン側が圧倒的に有利だとディランは気づいていた。


「武装に関しては、世界中の司法機関に属する戦術チームを参考にした。ある意味、軍隊よりも彼らの方が市街戦のプロであり、我々が想定する戦闘状況に適した存在だと思ったからだ。さらに、各戦闘員の『生命徴候バイタル・サイン』もモニタリングできるようにした」

「……これで“衛星支援戦術管理システム”も導入すれば米軍と一緒だな」

「無論、検討している」


 当然のように答えが返ってきて、ディランが思わず顔を向ける。

 そこまでするのか、と。


「――それが俺の、お前達に対する評価(・・・・・・・・・)だ」


 何に対抗すべく創設したかは明らかだったはずだが、面と向かって評価されるとさすがのディランも言葉が出ない。だが、些か過剰すぎると思える評価も“もうひとつの理由”があればこそ、と気づけば納得もできる。

 「それに――」とデストリンが言いかけて閉ざした口調の余韻でディランには十分推し量ることができた。


 来たるべき“奴ら(・・)との闘争”を想定しているのは間違いない。


 いずれ“赤き国”あるいは世界のいずこかの国との戦いがあるやも知れぬと備える連邦政府と同じように、LAの大組織は、『ヤクザ』との抗争を予期して備えてきたのだ。

 たかが極東の小国に巣くう組織にすぎぬはずが。

 その昔、どれほどの畏怖を当時のLAに与えたというのか。


 もしかすると、マルコ達も――


 そのまま、ディランの思考が何かの結論を導き出すことなく中断される。わずかな慣性の働きで、リムジンが停車したことを感じ取ったからだ。ディランも知らないエリンの避難場所――『要塞フォートレス』とやらの近くに到着したのだろう。


「事前に調査させたが、『要塞』といっても、驚くような仕掛けに溢れ、たくさんの護衛が駐留しているわけではない。最も肝心なのは、隠れ部屋の出入りとなる扉が『バンク・オブ・アメリカ』の金庫扉並に頑丈だということだ」

「なら“自慢のチーム”も見せ場がないな。むしろ、“金庫破りのプロ”を連れてくるべきだった」

「そうでもない。排除すべき護衛は少なからずいるだろうし、扉はノックすればいい(・・・・・・・・)

「…………」

 

 ディランの沈黙に非難を感じたのだろう。「勘違いするな」とデストリンが前置きする。


「何も力尽くで奪う必要はあるまい? 今となっては、エリンが確保しているものは手放すに手放せない疫病神でしかない。素直に渡すなら守ってやると言えば、乗ってくると思わないか?」

「…………」

「無論、最初から言っても素直になるまい。こちらの“力”を十分に見せつけた後なら、交渉に応じるだろう」

「……そういうところが苦手だ」

「褒め言葉ととらせてもらう」


 デストリンがにやりと笑う。それでも厭らしく見えないのがこの男らしい。

 二人が会話してる間に、空中ディスプレイの画像は外の景色に移り変わっており、そのまま5つの視点映像を総合的に分析すると、ある建物へと近づいているのが分かる。

 視点映像がブレないのは、画像補正ソフトが優秀なだけでなく、カメラの土台となる戦闘員の上半身が安定しているからだろう。普通は上下に微動してしまうものだ。

 歩行移動ひとつとっても練度の高さを窺わせる画像をディランは表情一つ変えずに注視し続ける。


「ひとついいか」


 チームが建物入口にあたる警備役を速やかに排除していくのを見つめながら、ディランが口を開く。


「この件に関わるなら、あの装備ではダメだ」

「聞かせてもらおうか」


 手酌で続けていたデストリンが、グラスを差し出してくるのをディランは一瞥しただけで手を出さずに話を続ける。


「H&KのMP5――短機関銃の傑作であることは認めるが、何十発ぶち込んでも9ミリ弾じゃ奴らは止められない」

「よく知っている」


 その昔、相対したと語っているのだ。性癖さえ知り尽くした悪友のように、デストリンが対処法を考えていたとしても、むしろ当然のことだろう。


「昔は“警官殺し(コップ・キラー)”と謳われた貫通弾ピアシングで対処した。それも一定の効果があったのはマグナム弾を使用する拳銃に限られたが。さすがに街中で自動小銃アサルトライフルを振り回すわけにもいかなくてな。だが、今回は炸裂弾エクスプロードを別途所持させている」

「あれは不良作動ファンブルし易い」

「まあな。だからこそ、メーカーに特注で“俺の弾薬”だけ作業工程を独立させ、精度を高めさせた逸品のみを支給している」

「どれだけ金を掛けるんだ?」


 ディランの呆れが含まれる声にデストリンは事も無げに応じる。


「負ければすべて失う。そう思えば、金に糸目をつけるわけにいくまい。それに、高精度作業の工程最適化に関する知見が積み上がれば、通常工程にフィードバックされ、結果的にメーカーも潤う。成果が上がれば金をもらう取り決めになっている」

「……そのヘンは見習うべきなんだろうな」


 どことなく、しみじみとしたディランの口調とは不似合いな画像が、ディスプレイでは展開し続けていた。

 やはりエリンも警戒を厳にしているのか、警備役の人員がそれなりにいるのだが、何の障害にもならずに淡々と処理されていく。

 特にCQB(近接戦闘)の力量差は明らかで、忍び寄られた時点で警備側に抗戦の余地はない。銃声に反応して近づいていくのでなく、地の利を活かした待ち伏せ(アンブッシュ)に戦術を切り替えないと警備側に勝利はあるまい。

 チームの腕なら、拳銃だけで対処できそうだが、先のデストリンの言葉通り、示威行為も兼ねているのだろう。画像からも気づける監視カメラを沈黙させることなく放置し、あくまで短機関銃を主力にした過剰戦力で派手に各ポイントを制圧していた。

 奥に潜んでいるエリンに対しては、十分なパフォーマンスであり、カメラ越しに震えているのは間違いない。


「廃墟なら遠慮はいらんな」


 デストリンの笑みが深まる。

 画像をみるに、何かの施設の廃墟を利用しているらしい。まるで複数の建物をつなぎ合わせて、強制的に今の複合施設モールのような形態を産み出したかのようで、非常に入り組んだ造りとなっている。

 場馴れした者が見れば、“隠蔽仕掛ブービー・トラップ”と挟撃戦術の連携で、侵入者を迎撃するのは容易い構造だと気づくはずだ。

 事実、ディランはその事に気づきながら警告を発せず黙っていたし、視点映像のひとつも常に後方確認をしながら移動していた。

 当然、何かに気づいた先導者ポイント・マンの合図でチームが停止した一拍後、後方から数名の人影が襲撃してきたが、奇襲とならずに後方担当によって冷静に迎撃される。その後、やはり仕掛けられていたらしい前方の罠もきっちり無力化処理された。


「順当だが、少し物足りないな」

「それくらいの力を付けるのが理想だ」


 それがディランの褒め言葉と気づいたかどうか、デストリンは軽く視線だけを向けて、すぐに画像へと戻る。


「そろそろ後半戦か。情報以上に警備が厳重なのは、むしろ嬉しい誤算ではあったが、結局はこのまま歯応えなくクリアしそうだな」


 デストリンが画面を操作して、建物の見取り図らしいものを表示させながら感想を洩らす。それを注視していたディランが呟く。


「図面と合わないな」

「建築当時の竣工図を入手したから、完成後に繰り返された増改築までは反映してない。そのせいだろう」

「それでエリンの居場所が分かるのか?」

「知っている人間を買収して位置だけは把握している」


 ここだ、と赤点表示を指さすデストリンにディランは渋く唸る。不安材料であることに変わりないからだ。


「事前の準備にも限界はある。むしろ、この対『要塞』戦において、ここまで準備できる方が贅沢じゃないか?」

「確かに」

「どのみち――ん?」


 視点映像のひとつが、かき回したようにぐるぐる回り、激しく揺れたと思ったら、おそらく天井だろうを向いてぴたりと止まった。

 仰向け――転んだのか? いや。

 突然の出来事にデストリンやディランが口を閉ざし、画面を食い入るように見ていると、映像は天井を向いたまま、一定速度で景色が流れ始める。

 仰向けに転んだ戦闘員を何者かが引っ張っている――即座に見極めたのはディランだけでなく、おそらくデストリンもだろう。そうだとしても。


「おい、どうなって――」

「こっちから通信できるか?」


 ディランに言われて、初めて気づいたらしい。頬を緊張させるデストリンが、真剣な表情で“コマンド”画面を操作して音声通信をオンにする。

 途端に、激しい銃声が車内に溢れかえった。

 ディスプレイ上ではすべての画面で発砲光マズルフラッシュが閃き、暗がりの廊下を無数の火線が疾駆している。

 そのうち4つの視点映像はこれまでと打って変わって乱れまくり、戦闘員達の動揺を如実に表していた。廊下に響き渡る足音は、何かを追いかけているからだ。


『キューザック! くそっ』


『右だっ。右に折れた』


『急げ、まだ間に合うっ』


『不用意に――馬鹿野郎が!』


 制止の声も上がっているが、引きずられていく仲間の姿でも視認できているせいなのか、戦闘行動の手順も何もなく、隊員達は統制を乱したまま駆けずり回る。

 映像や音声から隊員が拉致されたのは間違いなく、そうなると問題は連れ去った者の意図なのだが、その前に確認すべきことがある。

 ディランが人差し指を向けた。


「この画像がキューザックだ。『生命徴候バイタル』は?」

「5番の画像――まだ生きてる」


 デストリンの口調は淡々としているが、その眼差しは真剣だ。バイタルは安定しているものの、いつの間にか静止した画像はぴくりとも動かず、キューザックが気絶している可能性は高く、それは即ち襲撃者に対し無防備な状態であることを示している。


「相手が見えない」


 ディランの指摘を受けてデストリンが冷静に状況をチームへ伝える。


「落ち着け。キューザックの動きが止まってる。囮にして狙い撃ちするつもりかもしれん」


 待ち伏せの可能性を指摘され、さすがにチームも状況の危険さを認識したようだ。隊長らしい男の指示で全員の動きが慌ただしい速歩から慎重な歩みに切り替わる。

 乱れた隊列を整えつつ、チームで状況を確認し合うのが音声通信を通して聞こえてきた。


『誰か敵を見たか?』

『いや。俺はすぐ前にいたが、足音どころか何の気配も感じなかった』

『どういうことだ? ここにそんなレベルの手練れがいるとは思えん』

『いや。一人くらいいても不思議じゃない』

『本気でそう思ってるのか?』


 その一言で全員が黙り込む。それは画面を通して見ているディラン達にとっても同じ気持ちだった。


『とにかく連れ去った奴がいるのは間違いない。俺はキューザックの両足が廊下の角向こうに消えるのをこの目で見たんだ』

『疑っちゃいないさ。問題はそいつの実力だ(・・・・・・・)。むしろ、何かのトリックであってほしいがな』


 気づけば、先ほどまでは続々と現れた警備員たちの姿はなく、異様な静けさが、リムジン内で見守るディラン達にも音声通信を通して伝わってくる。


『警備員の物量戦に紛れさすのが狙いだったか?』

『まさか――』


 思わず息を呑むチーム全員に、リムジン内で発せられた声が入ってくる。


「2番はどうした?」


 ディランの指摘が何を意味するのかチームにも伝わった。


『――嘘だろ』


 呆然とした呟きは、つい今し方まで一緒に追跡していたはずの仲間の姿が見えなくなっているのに気づいた隊員のものであった。


『たった今、並んで走ってたぞ……』

『ヘンな冗談はやめろよ、ジェコビッチ』


 消えた隊員にかけた声は、ぼんやりとした照明しかない廊下に空しく響くだけだ。


『マズイぞ――囲まれてるかもしれん』

『冗談じゃない。さっきまで――』

『いいから、互いに背を守れっ。シュルツとベンは右に備えろ、俺は左だ』


 有無を言わせぬ隊長の命令に反応して視点映像がそれぞれの方角に切り替わる。


『そこの角にいるんじゃないか?』

『よせっ。下手に動くんじゃない』


 これまでと違った隊員達の荒い呼吸が音声通信に乗って生々しく車内にも響いてくる。当然、バイタル表示は黄色から赤色に変化し、極度の興奮状態に陥っていることが窺える。


『――ボス。ジェコビッチのモニターではどうなってる?』


 あくまで冷静な隊長の声に問われるまでもなく、ディランの指摘と同時に、デストリンは既に対象のバイタル・チェックを終えている。

 2番の画像は全員の気持ちを代弁するかのように真っ暗で、何のデータも送られてきてないのが一目で分かった。問題はむしろバイタルの方だ。


「画像は壊れたらしい。バイタルは――無反応」


 見たままを口にするデストリンも内心は相当動揺しているのだろう。どういうことだ、と詰問してくる隊員達に今度こそはっきりと告げる。


「脈拍も血圧も0――ジェコビッチは死んでる」


 体温が29度でなお下降中の表示をみるに、計測器が壊れてないのは間違いあるまい。

 口々に罵り声が振りまかれるのを耳にして、ディランが動き出す。セルビア人が身構え、すかさずデストリンが鋭く詰問した。


「何をするつもりだ?」

「俺に行かせろ」


 デストリンの眉がひそめられる。


「あんたのチームは悪くない。だが、奴らを相手にするには力不足だ」

あれ(・・)が奴らの仕業だというのか?」

「他に誰がいる?」


 つい先ほどまで、実行部隊と警備員達との戦闘力の差が明らかだったものが、一転して、瞬く間に二人も無力化されてしまった。それもディランが認める手練れの戦闘員が為す術もなく一瞬で。

 誰が考えても不自然すぎる展開だ。

 一介の貿易会社の社長が使う駒としてはあまりに優秀すぎるし、これまでの経緯を考えれば、答えは一つしかないだろう。

 はっきりと告げるディランを数秒睨んで、デストリンは軽く息をついた。


「銃を返してやれ」

「ついでに無線装備も頼む。連絡を取り合えるようにすべきだろう」


 図々しい奴めとデストリンが睨むも文句は口にしない。セルビア人護衛に準備させて、さらに弾倉も二本手渡してくる。


「45ACPの炸裂弾だ」

「あんたも“口径信者”か」

「誰がそんな古臭い弾薬を使うか」


 即座に吐き捨てる黒人にディランは不思議そうな目を向けるも無言で弾倉を受け取る。どうやら、始めからそのつもり(・・・・・)で用意していたのだと気づいたからだ。


「……素直に言えばいいものを」

「何だと?」


 眉間を怒らせるデストリンを無視してリムジンのドアを開ける。


「チームに室内への撤退を促せ。敵の侵入路を限定させ、護りに入れば生き延びれる。それと――」

「ダメだ」


 ディランが振り向きざまに口を開けば、皆まで言わせず遮られる。


「お前一人で行け」

「それでは助けられる保障はできない」

最初ハナからそんなものはないだろう?」


 仲間を連れて行きたいという望みを察してデストリンに機先を制せられる。断固とした意志は交渉さえ拒絶した。


「奴らを相手にするなら、常に最大戦力で事に当たるべきだ。それはあんたが一番知っているはずだ」

「……」

「――よく考えてくれ」


 それだけを言い残してディランはリムジンの外に出た。

 手に持つ愛銃の重さで装弾された弾薬の量も把握できる。炸裂弾がどこまで通用するかは分からないが、これまでで最高の弾薬であるのは間違いない。

 防弾着も身に着けたままだし、奴らとの戦闘に不安はない。一対一であるならば。正直、仲間がいるにこしたことはなかった。

 静かに、だが素早く建物へと駆けていく黒影をデストリンは窓越しに見続ける。


「――最強の助っ人を送った。それまでは持ちこたえてみせろ」


 音声通信で指示を出しながら、チームの第二陣を準備する必要があるとデストリンは非情な双眸の奥で計算を始めていた。

お疲れ様です。仙洞 庵です❗

緊張感を出したいシーンだったのですが、正直書き上げるだけで手一杯でした。ちょっと仕事で追い込まれすぎて、思考力がなくなってます。もうちょっとデストリンの実行部隊の実力を描写したかったですねぇ。章も名前倒れになるとマズイといいますか……。推敲はまた今度で。

ではまた。


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