勉強会
こんにちは。日代ミズキです。
あいにくですが,まだファンタジー要素は出てきません,日常です。ご了承ください。
それでは,今回も楽しんで読んでいただけると私が喜びます。
家につき,俺はひとまずソファーに腰かけた。さて,どうしたものか。
「勉強のことはひとまず置いといて,とりあえず日課のやつをやりますか」
俺の家,進藤家は由緒正しき武家の家柄で先祖代々行ってきたものがある。朝起きたらまず道場で座禅一時間と道場の掃除。その後,朝の支度諸々をして学校へ。学校から帰ってきたら,道場で進藤流剣術の型を行い,座禅一時間,その後掃除をする,というのが日課になっている。ちなみに剣は模擬刀です。これらの日課は,精神を統一し,己の内にある悪と向き合い,打ち勝つことを目的としているらしい。
というわけで,道場へ行って棒振りと座禅に行ってきます。ちゃんと掃除もしますよ。
「あれ,おにぃ帰ってきてたんだ。おかえり」
道場に入るとそこには,俺の一つ下の妹,進藤小鳥が座禅を組んで精神統一している最中だった。
「座禅組んでるときは喋るなってじいちゃんから言われなかったか。ただいま」
「誰もいないからいいの。それにこれ暇だし」
「お兄ちゃんも我慢してるんだから,文句言わないの」
「これ意味あるの?座禅は百歩譲ってわかるけど,剣のやつ意味なくない?何かと戦うの?」
「それは俺も知らん」
そんなことを話しつつ,座禅の準備をする。
「おにぃ今からだよね。しょうがないから小鳥もおにぃに合わせてやってあげる」
「頼んでないけど」
「おにぃ思いのかわいい妹でしょ?」
「本音は?」
「一人だとつまんないし暇なんだもん」
「だと思ったよ。さっさと始めるぞ」
「はーい」
さて,座禅の時間を使って今後の予定でも考えますか。
「座禅終了」
きっちり一時間座禅を行い,体を解すように伸びをする。この一時間考えた結果,今から行うべき予定の順番は決まった。隣を見ると小鳥はまだ座禅を組んだままだった。
「小鳥,終わったぞー」
「Zzz…」
「寝てんのかい」
相変わらず退屈には耐えられない体質らしいな。しかし寝ていながらも座禅の体勢は崩れていない。流石だな。
「起きろ小鳥。終わったぞ」
「ふぇ?ここどこ?巨大なたい焼きは?」
「ここは道場だし,巨大なたい焼きなんてものはありません。寝ぼけてないで,ちゃっちゃと型やるぞ」
「あぁそうか,夢か。たい焼きぃ…」
名残惜しそうな小鳥にかまわず型に移る俺。
「ねえ,久しぶりに勝負しようよ」
「しない」
唐突に何言いだすんだこの子は。
「即答しないでよー。前はしてたじゃん」
「そん時はまだ剣道部で現役バリバリだったからな。今は全く動けんから無理」
「一回だけ。お願い」
「そもそも勝負にならんだろ。おまえ,全国大会優勝してんじゃん。一瞬でやられるわ」
「そんなこといったら,おにぃだって中一で中学大会一位とってたよね」
「中一までしかやってないけどな。動き方なんて覚えてないっつうの」
「いざ尋常に勝負しろ!」
「模擬刀で殴り掛かってくんな。わかったよ。ただし一回きりな」
「イェーイ!」
「勝負内容は?」
「前やってたやつで」
「オーケー」
説明しよう。前に行った勝負とは,剣道の胴,小手,竹刀を装備し,先に相手の胴を打つ,もしくは,相手を無力化した方の勝ちという簡単お手頃なルール内容となっている。ただし,足払いや投げ技等なんでもありなので,剣道と比較するとかなりアグレッシブなルールである。
「あ,おにぃは剣術以外禁止ね」
「なんでだよ」
「ハンデだよ,ハンデ」
「俺がハンデをもらうべきではないだろうか」
「なんでおにぃにあげなくちゃいけないの?バカなの?」
「もうなんでもいいです…」
「じゃあはじめよっか」
両者,竹刀を構え戦闘態勢に入る。さて,どのくらい現役剣道優勝者にあらがえるかな。
「はじめ!」
合図と同時にものすごい勢いで突っ込んでくる小鳥。真上から振り下ろされる竹刀をステップでかわす。
「あぶねっ。おまえ,今面狙っただろ」
「慈悲も容赦も持ち合わせてないわー!」
怒涛の追撃を何とかかわしながら反撃の手を模索する。
「セァァァ!」
「おらっ!」
右下からの切り上げをかわしつつ左から水平にカウンターを入れる。
「獲った!」
「うらぁぁ!」
入ったと思われた剣筋は小鳥の左足の裏によって防がれた。てか,どんな防ぎ方してるんだよ。男前すぎるだろ。痛くねぇの?
「脇ががら空き!」
「くっ!」
体を回転させながら無理やり剣の軌道から逃れる。
「よいしょぉぉ!」
「のわぁっ!」
剣をよけ,体制の崩れた俺に体当たりをかましてくる小鳥。これには耐えられず転倒してしまう。
「いててて…」
「勝負ありだね,おにぃ」
倒れた体制のまま顔を上げると,俺の竹刀を片足で抑え,竹刀の先を俺の胴に向け,勝ち誇った顔の小鳥がいた。
「もう少しできると思ったんだけどなぁ。残念,降参だ」
「しょうがないよ。小鳥は剣道優勝者だからね」
「剣道優勝者の割には剣道離れしたことやってたんですが,その点についてプライド的にはどうよ」
「勝てば何の問題もなし!」
「そうですか」
もう少し動けるつもりだったんだけどな。相手の体術ありだとしても,流石に現役には勝てないか。
「でも,おにぃもブランクあるって言ってたけど,まだまだ強いね。今からでも剣道に復帰したら優勝狙えるんじゃない?」
「バカ言え。上には上がいるんだ。流石に無理だよ」
「ふーん」
「さて,今から型なんてやるつもりはないので,ちゃっちゃと着替えて,道場の掃除しますか」
「そうだね」
こうして,兄対妹―一夜限りの復刻マッチ―は妹の圧勝で幕を閉じた。
「あー疲れた。久しぶりに試合っぽいものをしたけど,こんな疲れたっけ」
「瑞樹」
自室に戻る途中,母に呼ばれる。
「あんたが道場にいる間に,一葉ちゃん達が来てくれたからあんたの部屋に案内しておいたから」
「へー,了解」
結構いい時間だけど,こんな時間に何の用だろう。時刻は6時を回っている。急ぎの連絡かな,などと思いつつ自分の部屋のふすまを開ける。
「やっほー。お邪魔してるよー」
「さっきぶりだね」
「こんばんは,進藤君」
「なんで全員集合してんの?一葉は予定あったんじゃなかったの?」
「予定が思ったより早く終わったんだー」
「そっか。んで何の用?」
「なんの用とはご挨拶だね。ちょっと遅いけど,試験勉強のお手伝いに来たよ」
「進藤君大変そうだったから,何か手伝えないかなって」
「おまえら…」
やっぱり,持つべきものは親友だな。うぅ…俺はこんなに素晴らしい友人に囲まれていたなんて…。
「瑞樹は再試験の準備,なにもしてないだろうなーて思ったから,早めに予定切り上げてあげたんだよ」
あたりです。何にもせずに,明後日来るであろう再々試験の準備をしていました。さすが幼馴染,俺の行動は予測済みってわけですか。
「それに,試験が長引いたら吉見がお勧めしてくれたカフェに,いつまでたってもいけないでしょ」
「そうだよ」
「二人とも優しいな。俺なんかほっといて3人で行けばいいのに」
「鈍感な瑞樹を相手にするお二人は大変だね。さて,さっそくだけど,勉強会を始めてもいいかい」
「あぁ。よろしくお願いします,先生方」
「よし。じゃあ最初は国語から行こうか。最初の問題は…」
こうして,みんなの粋な計らいによって進藤瑞樹のめざせ再試験突破・勉強会が始まった。
「ちがーう!そこは作者の気持ちであって,あんたの感想じゃないの」
「えっとね,ここに書いてあるからこの答えが解けるのであって,決して勘やなんとなくで解いてるわけじゃないんだよ?」
「漢字は全部できるんだね…逆にすごいや…」
気を取り直して数学へ…。
「あんた小学校からやり直した方がいいんじゃないの。四則演算ボロボロじゃない」
「そこはね,ここのtanθを求めてからじゃないと解けないから…。え,tanθって何かって?えぇっと…習ったはずなんだけどな…」
「四則演算ボロボロなのに微分積分は間違えずに解けてるんだ…」
…次は得意な社会だから大丈夫…。
「なんで岩倉使節団に杉田玄白がいるのよ。杉田玄白は江戸時代で解体新書を書いた人!真ん中の人は岩倉具視!」
「あのね,埼玉県は内陸県だから漁獲量日本一ではないよ。むしろ最下位じゃないかな。それと,横浜県はないよ。あるのは神奈川県横浜市だよ。」
「なんで内閣や政治活動の仕組みは完璧なんだ…基準がわからない…」
…泣きたくなってきたけど頑張ります,理科へ…。
「何で球がぶつかっただけなのに,おもりが1kmも動くのよ。摩擦抵抗どこ行った」
「質量保存の法則ってわかる?これがあるから,反応前と反応後の質量は変わらないの。だから,反応後に増えるのはおかしいの」
「動植物は全然ダメなのに,体内の仕組みについては詳しく知ってるんだ…。生物学に詳しいってわけではないんだね…」
……もう正直帰りたい。しかし残念,俺の家だった。逃げ道はない。最後は一番不得意な英語です…。
「スペルミス多すぎ!ラブのつづりもわかんないの?L・O・V・E ラブでしょうが。ちなみにlaveは洗うだよ」
「このwhoは誰って意味で使ってるんじゃなくて,関係代名詞で使ってるから,whoはthe boyを意味してるんだよ。ちなみに,whoは人の場合、whichは人以外で使うよ。そして、thatは人と人以外のどっちでもつかえるよ。便利だね,that」
「文型もぐちゃぐちゃで何が何だかわからないな。英語は得意なものはなかったんだね。なぜか安心したよ…」
「このぐらいやれば明日の再試験は突破できるんじゃない?」
「お疲れさま,進藤君」
「僕は君という人間がますますわからなくなったよ…」
「ありがとう…みんな……。おかげで…突破…できそうだ…」
進藤は知識を得た。進藤はこころに傷を得た。これが何かを手に入れるということか…。辛かった。だが,そのおかげで明日の課題確認テストは何とかなりそうだ。
みんなの帰宅を見送り一息つくと,時計の針は11時を回っていた。
「今日は疲れたし,早めに寝るか」
いつもは12時過ぎまでゲームをやるなどして起きているのだが,今日はテストやら妹との勝負,勉強会などで頭を使いすぎた。もう回らん。
明日の支度をすませベッドに入る。よほど疲れていたのか,途端に睡魔が襲いかかってくる。今日のように頭を使うのもたまにはいいな。そう思いながら,睡魔に身を任せ,進藤瑞樹は意識を手放した。
ありがとうございました。
ついに進藤瑞樹が眠りましたね。ふふふ…物語が動き出します…。安心です。
次回から一話冒頭の話につながります。次回をお楽しみに!