はじまりは
初めまして。日代ミズキです。初投稿です。まったり投稿です。
楽しんで読んでいただけたら嬉しいな。
「おいおい…。どこだよここは…。」
木製の扉を開けると、そこには見慣れない景色が広がっていた。街を行く人々は皮生地や布でできた服をまとい、時には防具のようなものを着ている人さえいた。それだけではない。街の建物も、その周囲も見慣れた景色ではなかった。俺、進藤瑞樹の生きてきた16年間には体験しえない衝撃がそこにはあった。地面は大体アスファルトで整備されており、家や建物は木造、ときにコンクリートというのが彼の知る世界だった。今はどうだろう。地面は整備されておらず砂利や砂が敷き詰められ、建物はレンガ造りが大半を占めている。
「あの…どうかなさいましたか?」
赤い目で、栗色の髪を後ろで一つに結んだ女性が遠慮がちに問いかける。おそらく彼女はここの店の店員であろう。
「ここはいったいどこなんだ」
状況がうまく呑み込めないまま、俺は先ほどの問いを繰り返す。
「ここは私の両親が経営している『酒屋リンベル』です。うちの両親ったらお店の名前に娘の名前を付けるだなんて、少し恥ずかしいわ」
なるほど、彼女の名前はリンベルで、ここは居酒屋のようなものか。ちがう。聞きたいのはここの店の名前ではなく、この世界がどこであるかということだ。
「質問を少し変えよう。この世界はどこなんだ」
「世界だなんて大袈裟ですけど、ここはバルドル王国の城下町、っていう答えでいいのかしら。ふふ、おかしな人ですね。この王国は、三大王国の一つですよ。知らない方が珍しいわ。あなた、どこから来られた方なの?」
「…日本から」
「二ホン…聞いたことのない国ですね。どこにあるのでしょう?」
「いや、何でもない。ただの妄言だ」
「…?」
リンベルという少女は、不思議そうに首をかしげ、思い出したように仕事へ戻っていった。
ひとつ、理解したことがある。それは、これが夢であるということ。いや、明らかにおかしいだろ。なぜ、昨晩、友人たちと勉強会をした後、自室で就寝したはずなのに、見慣れない場所で起き、見慣れない世界にいなければならないのか。答えはおのずと出てくる。というか一つしかない。
「疲れてんのかなぁ、俺」
青く澄み切った空を見上げ、このリアルすぎる夢はいつ終わるのかなと考えながら、出入り口付近の階段に腰を下ろした。
さかのぼること昨日。9月1日、長いようで短い夏休みが終わり、始業式がはじまる。残暑が厳しい9月上旬は、正直学校へ行きたくない。9月下旬でも涼しくなかったら行きたくない。俺が通う高校、公立猿渡高校は、愛知県のわりと田舎にある高校で全生徒360人(一学年4クラス30人)の進学校である。田舎ではあるが、進学率がいいことや、先生の評判も良好で、通いたい学校ランキングでは上位に位置している。そのため、生徒の数は田舎にしては多い方だ。俺の家から徒歩一〇分と、さほど登校に不便がないのがこの高校を選んだ決め手でもある。そんな猿渡高校2年である俺は、長い夏休みを終え、今日から二学期の始まりだ。早めに課題を終わらせ、ゲーム天国だった夏休みが愛おしい。戻らない過去を嘆きながら学校へ行く支度を終える。ちなみに朝は食べない派。食べている時間を睡眠に回すのだ。睡眠大事。いや、朝食も大切なのはわかってるよ。いつも睡魔に負けてしまう。睡魔最強。
「行ってきまーす」
両親は共働き、高1の妹はもう学校へ行ってしまって誰もいない家ではあるが、この挨拶だけは毎日の日課だ。誰かいようがいまいが関係ない。
家のドアを開けるとそこには、茶色の短髪、制服姿の見慣れた少女が立っていた。幼馴染の早乙女一葉だ。幼稚園からの知り合いで、親同士の仲が良く、よく一緒に遊ばされていた仲だ。生まれたのは一葉の方が半年早いが同学年だ。そのため一葉は俺に対していつもお姉さんぶっている。まあ、性格的に姉御肌なので、あっているといえばあっているのだが。
「遅いし」
一葉がふくれっ面で迫る。
「別に一緒に行くとか聞いてないし。てか陸上部の朝練は?副主将様がさぼりですか?」
「いいじゃん、どーせ行くとこ一緒なんだし。それとも、こんなか弱い女子一人で登校させるっていうの?」
「どこがか弱いんだよ」
「何か言った?」
にこっと微笑みながら、一歩距離を詰める一葉。こえーよ。
「いえ何でもありません僕が悪かったですすみませんでした。ってか、部活は、部活」
話題を切り替えよう。というか本題はこっち。
「今日は始業式だから、朝練はないの。先生忙しくって出れないから、だって」
「なるほど」
「早く行くよ。あんたとくだらないこと喋ってたら学校に遅れちゃう」
「あんたが原因だけどな」
「…何か言った?」
「何も言ってません」
ニコニコとこぶしを握りながらこちらを見ている。危ない、危ないよ。これ以上は鉄拳制裁が来るのでおとなしく一葉に従っておこう。暴力で解決しようとするのはよくないと思いますよ一葉さん。ともあれ、夏休み前に交わしていた懐かしいやりとりを終え、同じ高校へ向かうべく歩き出すのであった。騒がしい二学期になりそうだ。というか、今のやりとりに俺が悪い要素があっただろうか。理不尽だ。
校門をくぐると傾斜の緩やかな坂が昇降口へとまっすぐに続いている。校門から見て、向かって右にはテニスコート、左には野球部とサッカー部が使用するグラウンド、正面には昇降口という構成になっている。校門から校舎まで道がまっすぐに伸びているため、見ていて気持ちがいい。何度見てもスカッとするな。などと思いながら坂を上り、昇降口で上靴に履き替える。すると、ふいに軽く肩をたたく感触があった。
「おはよ、瑞樹。相変わらず一葉さんと瑞樹は仲がいいね」
「おはよう、瑞樹くん。それに早乙女さんもおはようございます」
肩をたたいた正体は、小学校からの同級生の友達で、俺のよき理解者でもある、吉見優希だ。親友といっても過言ではないだろう。俺だけが親友と思っている可能性はあるが。いやないよね、吉見くん。大丈夫だよね。そして、優希の隣にいるのが、同じく俺の同級生にして吉見とは幼馴染の、木村望だ。木村とは、吉見を通して知り合い、今では何かと頼りにさせてもらっている一人でもある。俺が頼れるのはこの2人だけだ。一葉は頼りにならん。なんでも暴力で解決しようとするし。ちなみに、親友の優希の発言のうち、間違いが一か所あるな。訂正しておこう。
「優希、俺と一葉は仲良しではない。俺は一葉の保護者としているだけだ。人様に迷惑をかけないかどうか見張っているんだ」
「誰が人に迷惑かけるってぇ?」
「いたっ!ほら、またそうやって人に暴力をふるう。人に迷惑かけてるよ」
「正義のための暴力は仕方ないのよ。それに瑞樹だし」
「俺は人ではないとおっしゃるのですか」
「んー、ヒトに近い何か」
「ひどい!」
「やっぱり仲良しだね」
吉見がなにぼそっと言った気がするがもういいや。それにしてもグーパンチはだめでしょ。仮にも女の子だよ、あの子。
「一通り終わりましたか?では教室に行きましょう」
「相変わらずそっけないなー、木村は」
「下の名前でいいといったのに」
「なんか言ったか?」
「いえ、急ぎますよ」
相変わらず木村の思っていることはわからんな。理解できる日が来るのだろうか。
久しぶりに学校へ来た人が大半で、その大半の人が久しぶりに学友と会う。自然と会話が弾むのも無理はない。始業式が始まるまでは、各クラス、お友達と夏の思い出について雑談タイムを楽しんでいる。あなたはどんな夏休みを過ごしただろうか。俺は課題とネットゲームに追われる夏休みだったよ。思い出も何もあったもんじゃない。夏休み前の期末テストの成績があまりによくなかったため、担任からはスペシャルプレゼント(五教科テキスト)を頂き、課題とプレゼントを終えるのに夏休みの3分の2を使った。残りの3分の1は、今熱中しているネットゲームと休息に費やした。夏休みは、休みと謳っているだけに、ちゃんと休まないとね。それにしても、まじであの担任は許さない。担任への怒りをふつふつと沸き立たせ、その張本人である俺らの担任、若松恵美は今日もしっかり先生をやっていた。
「おはよう、みんな。夏休みはしっかり遊んだか?今日から2学期が始まるが,いつまでも休み気分じゃだめだぞ。切り替えをしっかりな」
若松先生は,遊び大好き人間でありながら,しっかりするところはしっかりするというメリハリがしっかりしたしっかり人間でもあるので,生徒からの人気はもちろん,先生からの信頼も厚いしっかり先生なのだ。しっかりが多いが,それぐらいしっかりしているのだ。しっかり。
「あんたのせいで遊ぶ時間減ったんですけどね」
と,小声で不満を漏らす。
「私からのプレゼント,喜んでもらえたみたいで何よりだ」
目と声が怖いよ先生。言ってることと態度が違う気がするよ。これ以上は生死に関わりそうだ。身を引いておこう。てか,俺の小声拾うとか地獄耳にもほどがあるだろ。怖いよ。
「さて,夏休みが終わるともれなくセットでついてくるのが,課題テストだ。休みに入る前,事前に予告しておいたから大丈夫だな」
「え,聞いてないし」
そんなこと言ってたっけ?いやほんとに記憶にない。
「進藤にはいってないぞ。だってお前,言ったら暗記してくるだろ。まあ,サプライズプレゼントだと思ってくれ」
「こんなうれしくないサプライズプレゼント初めてだよ…」
「ごちゃごちゃ言ってると追加でプレゼントしちゃうぞー。あきらめろ」
「あんまりだ…」
横暴だよ。課題という凶器で生徒を無抵抗に屈服させる暴君だよこの人。
「先生には勝てないよ,瑞樹。あきらめよ」
優希までもあきらめ宣言するのか。俺は屈しないぞ。断固暴力反対。ただ,この場は引くけどね…。戦略的撤退だ。屈してないよ。ほんとだよ。
「案の定,散々だったね。お疲れ様。」
「昔からバカだったからねー,瑞樹は」
「頭が悪くても生きていけるよ。大丈夫だよ,進藤君」
お三方から一言ずつもらう俺。
「励ましの言葉,ありがとう。一人違うけどな。突っ込む余裕すらないわ。ただ,別の一人からの言葉は胸に突き刺さったけどね」
「「望だね」」
「えぇ,わたし?私はそんなつもりで言ったわけじゃないよ,進藤君」
「わかってるよ。ちょっとからかっただけ」
「もう」
「で,この後時間ある?近場に新しいカフェがオープンしたからみんなで行かない?」
「賛成!瑞樹は?」
「俺は若松先生から特別課題を出されて,それやんねーといけないからパス。ついでに明日課題テストもう一回受けなきゃならんらしい」
「あらら,お気の毒に」
「若松先生に気に入られてるね,進藤君」
「バカだからしょうがないよね」
「お前さっきからバカバカ言いすぎだからな。泣くぞ」
実際,優希は学年3位,木村は9位,一葉に至っては学年1位なので3人から見れば俺はバカなのでい返せない。ちなみに俺は学年100位あたりをうろうろしている。1学年120人だから,下から数えた方が早いね。おバカさんです俺は。
「じゃあ,そのカフェはまた今度にしようか」
「お前らだけで行けばいいのに」
「僕はそれでもかまわないんだけどね。まあでも,みんなで行った方が楽しいからってことで納得してくれないかな」
「「…」」
「お前らがそれでいいならいいけど」
俺をのけ者にしない気遣いかな。流石,モテる男は気遣いもさりげないね。勉強になります。使う場所ないけど。
「じゃあ今日はお開きだね」
「おう,また明日な」
「また明日,進藤君,一葉ちゃん」
「またね,望,吉見」
優希・木村組と別れ,俺らは帰路に就いた。
「何であんたは昔っから勉強ダメダメなんだろね」
「逆にお前みたいな猪女が勉強できるのが疑問だっつーの」
「誰が猪突猛進で脳筋な猪女だ。勉強教えてやんないぞ」
「そこまでは言ってねーよ。それと,勉強は教えてくださいお願いします,俺が悪かったですごめんなさい」
「しょうがないなー。瑞樹は私がいないとダメなんだから」
「一葉さんがいてくれてタスカッタヨー」
「素直でよろしい」
こんな棒読みのお世辞に気づかんとは,やはりバカだな。
「けどごめんね。今日はこの後用事があるから勉強教えられないわー」
「なん…だと…」
じゃあ俺は明日の課題(再)確認テストにどう挑めばいいんだ…。
「絶望してるとこ悪いけど,こればっかりは外せない用事なんだ。一人で頑張って」
残念ながらどうにもならないらしいな。さて,課題(再々)確認テストを受ける準備でもしますか…。
現実世界が続きます。果たして夢世界へはいつ行くのやら。
あらすじ詐欺かな。大目に見てください。