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最悪で災厄なエルフの魔王物語  作者: ぐりーんなぽりたん
一章 魔王への道
3/12

『銀色と桃色』第二話 彼の村

二話です!

 

「……それはつい先日のことだ」


 ギンはついに観念したかの様に、目の前で不機嫌な表情を見せる少女へと話し出した。彼らの身に一体何があったのかを。


「俺達の村に、黒い獅子の獣人が現れたんだ」


「ほう、黒い獅子……か」


 ほんの少しだけ表情を和らげたミレディはその形のいい眉を寄せ、彼の言葉を反芻した。

 ギンはそんな彼女の様子を気にすることもなく言葉を続ける。


「ああ……で、その獣人はさっきの犬の群れを引き連れ、村の人々を襲い始めたんだ。もちろん俺達も抵抗し戦った……だがあいつの使う妙な技の前に手も足も出ず、戦える奴らはほとんど殺されてしまったんだ」


 ギンは特に表情を変えることなく、淡々と言葉を紡ぐ。

 その顔には悔しさや絶望といった類のものは無く、ただ単に過去の出来事を説明しているだけの様に見えた。

 だがその説明に、少女の表情は一変する。


「妙な技だと!? おい、それはどんな力だったんだ?」


「た、確か……八列斬とか言って、大剣での一回の斬りつけが八つに増えるっていう技だったな。そのせいで盾とかで大剣を防御しても、その他の斬撃で斬られるんだ」


 突然身を乗り出し、食い気味に問いかけるミレディ。

 ギンはそんな彼女の姿に一瞬だけ訝しそうな視線を向けたが、すぐになんでもなかったかの様に言葉を返す。


「ああ……そうか、わかった。悪いな、話を遮って」


 落ち着きを取り戻しそう言った彼女のその顔には、新しい玩具を与えられた子供の様な笑みが浮かんでいた。無邪気だがどこか狂気を含んだその表情に、ギンは思わず息を飲む。


「……ああ、大丈夫だ。それから奴は戦える奴らをほとんど殺した後、残りの村のみんなにこう言ったんだ……『お前ら全員が今から俺の奴隷になるなら、命だけは助けてやろう。だが、一人でも逆らったら皆殺しだ』ってな」


「……」


 目の前の少女は特に驚いた反応も見せずに、彼の話を聞いている。彼女にはある程度この展開が予想できていたのだろうかと、ギンは思案した。

 だがその話を黙って聞いていた少女は突然何かを思いついたかの様に目を細めると、彼に問いかける。


「……おい、その話が本当なら、一体なぜお前はここにいるんだ?」


 そう言って険しい顔のままこくんと小首を傾げるミレディ。

 彼女の可愛らしいその仕草に、ギンは一瞬目を奪われる。


「ああ、それは村の奴らに人間の街に行って、傭兵を連れてきてほしいって頼まれたからなんだ。なにせ俺が村で一番走るのが速いからな」


 ギンは得意げに彼女の質問に答える。足が速いということが、彼の何よりの自慢だったからだ。

 だがそれを聞いたミレディの反応は彼が期待していたものとは大きく違った。


「違う、私が聞いているのはそういうことじゃない。その黒獅子とやらは『一人でも逆らったら皆殺し』と言ったんだろ? じゃあお前は何故ここにいるんだ。それは反逆行為ではないのか?」


「へっ……?」


 彼もその周りの人々も、全く気づいていなかった。

 長年平和な環境で過ごしてきた彼らは、黒獅子と言う名の侵略者の言葉の重みを理解していなかったのだ。

 自分達は大丈夫だという無責任な想い。彼らの心に残ったその感情が、取り返しのつかない自体を引き起こす。

 誰もそんなことを想像していなかったのだ。


「……そ、そんなっ! 今すぐ……今すぐ傭兵を連れて村に行かなっぎゃいんッ!」


 取るものも取り敢えず走り出そうとしたギン。だが彼のとっさの行動は、不意に現れた小さな足によって妨げられる。つまり立ち上がった彼はミレディに足を掛けられたのだ。

 かなりの勢いで自慢の鼻を地面にぶつけたギン。彼は当然怒り、目の前で踏ん反り返る少女に思い切り怒鳴りつけた。


「なにするんだッ! 俺は今すぐ……」


「私を今すぐお前の村に連れて行け。私もその黒い獣人に用があるからな」


 だがミレディにはそんな彼の様子など知ったことではない。

 少女はその話を遮り怒りを露わにするギンへ命じる。その姿には彼への配慮などは一切見当たらない。

 その傲慢な態度の少女に、ギンの怒りは更に激しくなる。


「ふざけないでくれ! 俺は今すぐ傭兵ギルドに依頼しに行かなきゃいけないんだよ!」


「ふざけているのは貴様だろう?」


 だがそんな彼の怒りの叫びを、少女は一蹴した。そして馬鹿にするかの様な冷たい視線を彼に向けると、再びその口を開く。


「街中ならともかく、こんな森の奥の獣人の村などに傭兵共が来るわけないであろうが」


「……ッ!」


 そうだ……こんな森の中に、それになんの準備も無しに今すぐ来る傭兵など、いるわけがない。

 そのうえ相手は未知の力を使う獣人なのだ。普通の傭兵なら、こんな旨味の少ない依頼など受けるはずがない。

 彼は気づいてしまったのだ。

 だが少女は追い打ちをかける様に、世間知らずな青年へ厳しい現実を突きつける。


「もし仮に依頼を受けてくれる奴がいたとしても、お前の村に着くのは二、三日後になるだろうな。それに、そいつが勝てるとは限らない。つまりお前が村を出た時点で、どうにもならなくなっていたんだよ」


「そんな……」


 少女に突きつけられた残酷な現実。彼女のその言葉を聞き、彼は自分の甘さを嘆く。

 ギンは表情に絶望の色を浮かべながら、固く閉じられた口内から悲痛な呻き声を漏らす。


「ぐうぅ……みんなごめん……俺は……どうしたら……」


 膝から崩れ落ちた彼は、ここにはいない誰かへの詫言を口走る。だがその言葉は当然届かない。

 もうだめだ……。彼の心は諦めによって支配され、もう立ち上がる気力さえ残ってはいなかった。

 だが……


「だが、お前は行動を起こした。何もせずにただ奴隷のままでいるような奴らよりは……よっぽど好感が持てると私は思うぞ」


 ミレディはそう言って表情を和らげ、笑みを浮かべた。

 だがそれでも彼女はあくまで傲慢で、上からの姿勢を崩そうとはしない。

 少女はそのまま言葉を続ける。


「もう一度言う……私を、お前の村に連れて行け。お前の村の者たちが生きてようが死んでようが、私がその黒い獣人を殺してどうにかしてやろう」


「ああ……」


 自信ありげに言い放った少女。その口調からは、自分が負けるなんてことは一切ないという考えがひしひしと伝わってくる。

 おそらく彼女は本当に自身が負けるなんてことは考えていないのだろう。

 だがギンには彼女の纏うその根拠のない自身が、逆に不安要素となる。


「わかった……だが本当に、大丈夫なのか? 確かに君の魔法は強かった。だけど奴は強い……勝てるかどうかなんてわからないじゃないか」


「勝てるさ」


 不安がるギンにミレディは杞憂だと笑い、言い放った。


「なぜなら私は、『魔王』になる者だからな」


――遂にギンの村へと脅威が迫るっ! 彼らは間に合うのか! そして謎の少女の自信の根拠とは一体!


次回『少女の実力』! お楽しみに!

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