プロローグ 弱肉強食の果てで
初投稿です…
――弱ければ食われる。それが蹲る少女が今日一日で会得した考えだった。
少女の目の前で両親の命は貪られた。それは彼らが弱かったから。
少女の目の前で大勢の村人の命が食い尽くされた。それもみんなが弱かったから。
隠れる少女の目の前で、大切だった人達の命は飲み込まれた。貪られ、咀嚼され、飲み込まれたのだ。
瓦礫の中に隠れる少女は、全身を噛み砕かれるかの様な恐怖を堪え、じっと息を潜め続けていた。
彼女もまた、弱かったのだ。
嫌だ死にたくない。まだ食べられたくない。少女は涙を流すことも忘れ、ただひたすらに堪え続ける。
……だが、その飢えを抑えられない貪欲な存在達は、遂に少女の姿を捉えた。
そのおぞましく醜い姿に、少女の小さな口からか細い悲鳴が漏れる。
逃げ場などなかった。守ってくれる人などいなかった。
少女にはもう何もなかったのだから。
彼女には、抵抗することも慈悲を乞うことも許されてはいない。ただ一つ許されたのは、その理不尽な運命を受け入れ……それらの糧となることだけだった。
……ついに堪えていた涙が流れる。
――だがその溢れた涙が、少女の運命を大きく変えるのだった。
弱ければ食われる……だが、強ければどうなるのか。
全てを食い尽くした少女。だがそれでも激しい飢えを訴えるお腹をさすりながら、ふとそんなことを考える。
我慢できないほどの飢えと渇き。その耐え難い苦痛は、段々と少女の心を蝕んでいく。
彼女は濁った瞳を空へ向けると、ゆっくりと立ち上がる。
そして……その口から言葉が溢れた。
「お腹……空いたなぁ」
決して満たされることはない。だが少女は未だズキズキと痛むその欲を満たすために、その足を踏み出した。
散らばった食べかす達を踏みつけながら彼女は歩く。
目的はない。ただその『飢え』という欲望を満たすためだけに、少女の旅は始まったのだ。