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7 続・時雨双子の3時間クッキング

 

 燕尾服を華麗に着こなす1人の男が、夜へ移り変わろうとしている空の下で気配を消しながら1人の女子生徒を見つめる。

 途端に彼女に変化が起きた。影が揺らめき、明らかに自宅とは別の方向へと歩き始める。その目は虚ろ。まるで何かに操られているようだ。

 男は、物陰から彼女を追いかける。辿り着く先は廃墟。禍々しい空気が充満している。とても、女性が1人で足を踏み入れるような場所とは思えない。


「(ここか。人間の姿では少々面倒だ)」


 男は彼女に勘付かれない様に魔法を唱え、梟に姿を変えて廃墟の中へと飛んでいく。彼の目に映るものは、虚ろな瞳の生徒とその側に座る男。

 彼の手には、糸が巻き付けられており、それは生徒の影へと伸びている。ここで梟の男は察するだろう。彼が彼女を操り、自身の主人を怪我させた犯人であることを。彼が用いている魔法の正体と彼の正体を。


 主人に知らせるべく飛んでいく。

 廃墟の2人は、まだ気づいてはいない。


 ─────────────────



 バタバタと暴れるバタフィライ。

 なんで暴れてるかって、水の玉の中に閉じ込められているからだ。

 バタフィライは水が嫌い。何故か、理由は鱗粉が流れてしまうから。

 なので、鱗粉を食らわないためには一度水魔法で鱗粉をバタフィライの羽根から流してしまうのが良い。

 だが、流した後は時間との勝負になる。あれの鱗粉は3分で再生するのだ。


「お兄ちゃん、準備はいい?」

「あぁ、3分以内にクッキングしてやる!」


 冬歌の水魔法が解除された。水の玉は消え去り、バタフィライが空中でもがき苦しむ。

 急いで接近し、宙へ飛び上がった。

 水が嫌いなんだ。大嫌いな水魔法で終わらせてやるよ!


「水刃一閃!!」


 水の刃がバタフィライを切り裂いた。カチンッと鞘の中に刃を収める。切り裂かれたそれは3枚におろされ地面へと堕ち、徐々に朽ち果てていった。サラサラと灰になり、風に流され消えていく。


「よし、調理完了。カスタード作りに戻ろうか」

「その前にお兄ちゃんはエプロン変えないとね」

「ははっ、そうだな」


 細雪を消し、朱里に頼んで新しいエプロンを持ってきてもらう。着用し直してカスタード作りを始めた。


 まず初めに、牛乳とバニラビーンズを銅鍋の中へ入れて沸騰させる。その間に卵黄とグラニュー糖を合わしてブランシール。ブランシールしたらそこに薄力粉とコンスターチを入れて混ぜ、混ざったら沸騰した牛乳を入れる。

 入れて軽く混ぜたら、一度漉して銅鍋の中へ入れて火にかける。急いで軍手をはめて、ホイッパーを手にひたすら混ぜる。

 徐々に固くなり、中心まで沸々してきて再度柔らかくなってきたら火を止め、バッドに移す。移した後は、カスタードに密着させるようにラップをして、氷水で熱を取る。

 今回は面倒だから、冷やす時間を短くするために氷魔法を使った。冬歌がやってくれたんだがな。


「冬歌、生クリーム立ったか?」

「うん、バッチリ8分立て!」


 作ったカスタードの半分をボウルに入れて少し解す。冷やすと少し固くなるからな。解せたら、そこに生クリームを入れてしっかり混ぜる。

 出来たクリームを絞り袋に入れて、シュー生地を半分よりちょい上くらいで切り、中に普通のカスタード、上に生クリームと合わせたカスタードを絞る。

 絞り終わったら、切ったシュー生地を帽子みたいに乗せたら完成だ。お好みで上に粉糖をかけたり、間に苺を挟んでもいいぞ。


「出来たー!」


 シュークリームは完成。チーズケーキもカスタードを作っている間に焼き終わった。

 これなら陣も喜んでくれるだろう。

 だが、陣のために作ったとわかっているのに、味見したい。美味しそうなのだ。


「冬歌ー、1個食べちゃダメかー……?」


 冬歌を後ろから抱き締めて強請る。

 あー、お菓子作ってたからか冬歌から甘い匂いがする。


「ダメだよー、これ陣のなんだから。それにもうすぐ夕飯だよ?」

「どうしても?」

「どうしても」


 じゃあ、冬歌抱き締めて我慢しとくと伝えたら、そうしといてと笑って言われた。

 ちょっと冷たいよー。でもそんなところも可愛いよー。


 冷蔵庫にチーズケーキとシュークリームを入れておく。ちゃんと陣用と書かれたカードを添えて。

 朱里が、夕食が出来たと呼びに来た。エプロンを彼女に渡して、食堂へと足を進める。

 冬歌と2人で夕飯を頂き、お腹を休めていると陣が帰宅したという情報が耳に入ってきたので、食堂から飛び出して玄関へと向かった。

 そこには朱里と話をしている陣。彼はこちらに気がつくと、パアァッと表情を明るくし、俺達をムギュッと抱き締める。


「あぁ!冬夜様、お嬢様!お会いしとうございました!!」

「たった数時間しか離れてないのに……」

「陣、お帰りなさい」

「……それで、陣。報告を」


 陣は、俺達を離すと軽く頭を下げながら、持ってきた情報を伝える。

 山の近くにある廃墟に男が鎮座していること。男の手には糸が巻き付けられており、それが幸村歌音の影へと伸びていること。しかし、その男は人間であること。


「恐らく、マリオネットユーザーかと」

「……マリオネットユーザーってことは、人間に憑依する傀儡魔法使いの魔物か」


 正直いうなら面倒くさい相手だ。

 なんせ、あの魔物は人間に取り憑き、傀儡魔法を使用して人形を使役する。つまり、取り憑かれた人間と引き離さない限り、魔物を倒すことはできない。

 まずは、その人間を助けることが先決だな。そして、魔物が次の人間に取り憑く前に叩きのめす。


「冬歌、今すぐに生徒会召集メールを送信してくれるか?」

「了解」


 冬歌がポケットからリンゴフォンを取り出して、タタタタッと通話メールアプリのグループトークで陣から得た情報と共に召集をかける。


「朱里、幸村雪音を連れて廃墟にこい。傀儡魔法は親しい者の声で解ける事がある」

「仰せのままに」

「陣、行くぞ」

「かしこまりました。我が主」


 今、助けてやるから待ってろよ。幸村。


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