表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/65

5 王子のフリした魔王様

 

 見た目がいかにも儚い系で、王子様のような扱いを受けている奴には大抵裏の顔がある。うん、俺達学んだ。そして、こいつだけは敵に回しちゃいけないということも学んだ。


 それは40分ほど前に遡る。幸村歌音の情報をもらおうと、幸村弟のクラスに向かった。幸いにも、幸村弟は左と同じクラスだったようで、教室の中にいた幸村弟を呼び出してくれたのだ。

 やってきたのは、見目麗しい美少年。まるで消えてしまいそうな儚い笑みを浮かべる彼に向けて、周りから放たれる言葉は王子様。

 ヤバい、次元が違う。女装とかしたら、似合いそうなくらい美人だ。一瞬、本当に弟か?と疑問に思ったぞ。


「生徒会執行部の先輩方が、僕に何の御用ですか?」

「あぁ、君が幸村歌音さんの弟、幸村雪音(ゆきね)くんだね?」

「えぇ、そうですが」

「急に押しかけて悪かったね。ちょっと君のお姉さんに関して聞きたいことがあるんだけどいいかな?」


 会長の言葉に、二つ返事で了承してくれる幸村くん。そして、流石にここでは人が多くて話しにくいということで、俺達は人気の少ない場所に彼を連れて行く。


「姉さんが、先輩達に何か迷惑でもかけましたか?姉さんはそんなことするような人じゃないと思いますけど」

「うん、そんなんじゃないんだけどね?幸村くん、昨日の歌音ちゃんの様子を教えて欲しいの。些細なことでもいいから」


 幸村くんは、首を傾げながらも昨日の幸村について話してくれた。


「そういえば、昨日夜遅くに帰ってきました。でも、学校を出てから家に帰ってくるまでの記憶がないみたいなんです」


 記憶がない。それは幸村歌音本人も言っていた言葉だ。そして、彼が言った夜遅くという単語。間違いなく、俺を襲った後だろう。これで、俺達を襲ってきたのは幸村本人で確定した。

 その他にも、彼女の行動に関して何かないか幸村くんに聞くのだが、彼の首は横に振られ、これ以上の情報は出そうにないということが判明してしまう。

 肝心の幸村歌音を操っている魔物に繋がりそうな情報は出なかったか……。


「あの、姉さんに何か……」


 幸村くんが何かを聞こうとして、俺達に声をかけてくるのだが、途端に警報が鳴り響く。

 チッ!こんな時に限って魔物かよ!と、思いながら冬歌に探知魔法を使用して居場所を探してもらおうと思ったのだが、探知魔法なんかしなくてもすぐ近くまで魔物が迫ってきていた。

 バサリと羽を羽ばたかせる音が聞こえる。その姿は巨大なカラス。アビスクロウ。

 魔物の姿を目撃すると共に、後ろから不機嫌そうな舌打ちが聞こえてきて驚く。後ろにいたのは幸村くんだったからだ。

 え、今、このゆるふわ儚い系男子舌打ちした!?


「はははははっ、なんで()が大事な用を済ませようとしている時に限って、魔物なんか出てくるのかな」

「え、ゆ、幸村くん?」

「本当、雑魚のくせに何警報鳴らして出しゃばってくれちゃってんのさ。まぁ、いいや。一瞬で凍らせてあげるよ」


 いきなりの彼の豹変ぶりに、戸惑う俺達。

 彼は、一冊の本を懐から取り出しバラバラバラッとページを捲ると、自身を上下で挟むように二つの魔法陣を展開させた。


「我は幸村雪音。契約の下、今ここに姿を現し、我の助けとなれ。いでよ!フリージングドラゴン!」


 上の魔法陣に冷気が漂い、氷をその身に纏うドラゴンが召喚された。ドラゴンが咆哮する。その声がビリビリと全身に襲いかかり、足が竦んだ。一瞬、恐怖を覚える。

 確か、ドラゴンは召喚魔法の最難召喚獣に指定されていたはず。召喚魔法を使える者は多いが、ドラゴンを召喚・使役出来る奴なんて初めて見た。


「この俺の邪魔をしたこと、後悔させてやる。いけ」


 幸村くんの命令と共に、ドラゴンは羽を広げ宙に舞い上がる。竜の咆哮と共に、その口に冷気が集まり始めた。ドラゴンが最も得意とするブレスの攻撃。それは、吹雪のようにアビスクロウに襲いかかる。

 アビスクロウは反撃の余地もなく、氷漬けになり地面へと墜ちた。いや、アビスクロウどころではない、その後ろにあったグラウンドの表面まで氷漬けになっていたのだ。

 ドラゴンは氷漬けにしたそれを器用に前脚で掴み、その口で噛み砕く。アビスクロウは、灰となり消えていった。


 ドラゴンこえぇ!!二階建ての建物ぐらい大きかったアビスクロウを一撃で仕留めるとか、怖すぎんだろ!!

 あのアビスクロウ、俺達が相手にしたら間違いなく誰かが軽傷になるくらい強いのに!!


「お疲れ様、でも……やり過ぎかな。確か、二時間目体育だったと思うんだけど、どうしてくれるのかな」


 そう笑顔で呟く幸村に、ドラゴンが何やら焦り始めた。グラウンドに降り立ち、氷をどうにかしようと何かを始める。どうやらグラウンドの氷を食べているようだ。

 10分後、グラウンドは水分を含んで湿っているものの、氷は跡形もなく消えていた。グラウンド上の氷を全て食べきったせいなのか、それとも違う理由なのか、氷のドラゴンなのに表情が若干青ざめているように見える。


「うんうん、ちゃんと後片付け出来たね。でも、次また同じようなことやったら、許さないからね」


 彼は笑みを浮かべる。それは、一見美麗の笑みに見えるのだが、目が笑っていない。こ、怖い!怖いよ幸村くん!

 ドラゴンはコクコクと頭を縦に動かすと、逃げるように魔法陣の中へと消えていく。

 あの最高難易度のドラゴン召喚をやってのけるだけではなく、ドラゴンに有無を言わさないなんて。ドラゴンなのにビビってたよ!

 それにしても、王子様と言われていた幸村くんにあんな一面があるとは思わなんだ。まさに、王子の皮を被った魔王。ドラゴンをビビらせるほどだ。逆らっちゃ、ダメ、絶対。


「あーあ、雑魚のせいで要らない魔力消費した……。さて、先輩、話の続きしましょうか」

「あ、あぁ……」


 あまりの出来事に、会長の伊達眼鏡にピシッとヒビが入る。そして、会長が背中からぶっ倒れた。


「か、会長ー!!」

「御影くーん!!」

「い……胃がっ……胃があああ……!!」

「ああぁ!!会長の胃が、あまりの出来事に耐えきれなかった!!」

「蛍!!胃薬!!保健室の胃薬!!ありったけ持ってきて!!」

「お、おう!!」


 蛍が猛ダッシュで保健室へと向かう。

 樹は、会長に近付くと彼の手を握りしめた。


「大丈夫だよ、会長。後は俺に任せて」

「天道……。………お前なんかに任せられるかああああああああ!!」

「樹、今の会長に追い打ちかけないで……いや、本当に」


 どうしよう。ツッコミ不在だ。

 ……こういう時は、向こうは向こうに任せておいて、放置しようそうしよう。


「話の続きだったな」

「いや、自分とこの筆頭放置ですか」

「大丈夫大丈夫!あれくらいじゃ殴っても会長は死なない死なない」

「わー!会長の口からなんか出てる!!」

「これ、会長にそっくりだよ……っていうか、これ会長の魂!抜けてる!!抜けてるから!!樹、鈴音ちゃん、押し込んで!!戻して!!」


 訂正、今の会長なら殴っても死にそうだ。

 あまりにも悲惨な状況だったので、俺は会長のために救急車を呼び、陣が変わりに幸村くんに事情説明をしてくれた。


「冬歌ちゃん……鈴音……君達だけが、俺の良心だった……ガクッ」

「御影くーん!!」


 この日、会長の胃に穴が開いた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ