4 襲われるシスコン
夜、課題をこなしているとノートのページがなくなった。新しいノートを探すがそれもないことに気がつく。
しまったー。無くなってたのすっかり忘れていた。仕方ない冬歌に貰うか。きっとあるはず。
……と意気込んで冬歌に聞いたら、さっき自分も新しいノートを開けてしまって1冊も残ってないと言われてしまった。
「ごめんね、お兄ちゃん…」
「いや、いいさ、買い置きし忘れてた俺が悪いんだからな」
今の時間、デパートや文房具屋は空いていない。こうなれば、コンビニに行って買うか。
財布を持って、玄関へと向かうのだが……後ろから止められる。声の主はまごう事なき俺達の専属執事だ。
「冬夜様、このようなお時間にどちらへ?」
「ノート無くなったからコンビニに行ってくる」
「冬夜様がコンビニになど……!それくらいでしたら私が」
「いいよ。せっかくだから、散歩したいし」
「……かしこまりました。お気を付けていってらっしゃいませ、冬夜様」
頭を下げながら扉を開いてくれる。
行ってくると伝え、玄関及び門を潜りコンビニまで歩いていく。
やはり風と星の都と呼ばれるだけある。風は気持ちいし空を見上げれば満天の星空。月が明るく照らしてくれるからか暗闇への怖さもない。夜を歩くのも楽しくなる街だ。最近は、魔物魔物で物騒だけどな。
空をちょくちょく見上げながら歩くこと7分、コンビニに辿り着いたので、目当てのノート1冊だけ購入し退店する。
自宅へ向けてしばらく歩いていると、フードを深く被った奴が目の前に現れ立ち塞がった。首を傾げながら横を素通りしようとするのだが、次の瞬間に殺気を感じ、咄嗟に後ろへと飛び退く。
目の前を白刃が横切った。間違いない、刀だ。刀の使い手であるこの俺が見間違うはずない。二撃目が襲いかかる。
「細雪!!」
フッと右手に現れる愛刀の鞘で斬撃を受け止める。くっそ……、顕現するのが一歩遅かったら袈裟懸けに斬られてた。もしかしたら、あの世に行っていたかもしれないと考えると、冬歌に会えなくなるという恐怖で冷や汗が流れる。
ここで会長の話を思い出した。確か会長も昨日コンビニの帰りに何者かに襲われたと……、そして、会長を襲ったのはフードを被った刀を持った奴……。
「なーるほど。会長を襲ったの、お前か」
刀を弾き、一度後ろへ飛んで距離をおくと、鞘を投げ捨て接近する。独特の金属音は夜の街路に響く。ガチリガチリ。
戦況は拮抗状態。油断したら劣勢に変わるだろう。魔法を使えば状況は変わって優勢になるかもしれないが、こんな夜に魔法なんか使ったらご近所迷惑になるし、相手を殺しかねない。だが、相手の動きを封じる拘束魔法なんて俺は使えない。打つ手なしだ。
仕方ない、こういう時は逃走あるのみだ。なんとか相手の隙をついて逃げる、よしそれでいこう。
距離を置き、投げ捨てた鞘を拾い上げ相手を見据える。そこで今目の前の奴がしている構えに見覚えがあった。
顔の横で水平に刀を持っている。霞の構え……それに、刀装である桜型の鍔……見覚えがあるどころか知っている。いや知っていて当然だ。
「お前、まさか!」
接近してくる刃をかわして、懐へと潜り込む。刃がちょっと頬を掠めたせいで痛みが走るが、なんとかそのフードを取り去ることができた。
そこにいたのは、つい数時間前に同じような戦いをしていた幸村歌音。なんでお前がこんなことしてんだと思ったが、その瞳が虚ろだということに気がつく。
何かが彼女の身に起こっている。今の状況では、そう考えるしかない。
幸村が俺から離れると足元の影が大きく広がって彼女を包み込み、そのまま姿を消した。
あー、くそっ!なんだってんだよ。なんで、幸村に襲われなくちゃいけねぇんだよ。
それに、あの影……どう見たっておかしい、不気味さを感じた。考えられるのはただ一つ、魔物の仕業。
「……今悩んでも仕方ねぇか」
明日問い詰めればいい。とりあえず、会長には連絡しておこう。被害者だからな。
よし、考えるの止め。こういう時は冬歌に抱き締めるに限る。
いや、その前に頬の傷だけは手当しないと……、冬歌にだけは見せるわけにはいかないからな。
双子はシンクロするという。俺達もこの口だ。ただし、俺達の場合はどちらかの傷を見たらその傷のある場所が痛くなるパターンが主だ。
大きい怪我はあの日一回きり、それ以来傷を冬歌に見せないようにしている。冬歌に痛い思いだけはさせたくない。
家に帰り、陣に傷の経緯を説明すると手当をしてくれた。若干発狂しかけてたけど。
そして、案の定冬歌に怪我のことを聞かれたが、心配かけないように頭を撫でて、ちょっと切っただけだと伝える。冬歌もそれ以上は何も聞いてこなかった。
翌日、教室入ると真っ先に会長が飛んできた。いや、飛んできたというより、迫ってきたという表現の方が正しいな。すごい形相だ。
「冬夜、あれどういうことだ」
「そのまんまの意味だ。……幸村は?」
「あそこだ」
会長が指差す方向には、楽しそうに女子生徒と会話している幸村がいた。しかし、昨日のように虚ろな瞳ではない、光がある。
会長と目で合図すると、昨日のことを聞いてみるために彼女へ近付く。
「幸村、ちょっといいか?昨日の晩、何をしていた?」
「え?昨日の晩ですか?それが、覚えていないんです。昨日部活を終えた後、気が付いたら自室にいました。5日前くらいからこんなことが頻繁に続いていまして……」
「そうか、あまり長く続くようなら病院に行くことをお勧めするぞ」
「はい、お気遣いありがとうございます」
幸村から離れて、会長と頭を捻らせる。
幸村は、自身が俺と会長を襲ったことを全く覚えていない。それに影を見たところ、いたって普通の影で、昨日のような不気味さを感じない。どういうことだろうか。
「お兄ちゃん、会長、どうしたの?特にお兄ちゃん、昨日帰ってきてから眉間に皺が寄ったまんまだよ……?」
「悪い、ちょっと考え事」
「冬夜、鈴音や冬歌ちゃん達に話しても問題ないと思うぞ。どうせ、うちの学園の生徒が関わっている事件なら、生徒会執行部に回ってくる」
「……そうだな」
生徒を守り、助けるのも俺達生徒会執行部の仕事だ。今回の事件に、生徒が巻き込まれているならば俺達が動かざるを得ない。
会長の提案で、生徒会役員全員を生徒会室に集めて今回の事件の話をする。書記である冬歌が、ホワイトボードに詳細を書き込んでまとめてくれた。
「つまり、幸村歌音が会長や冬夜に攻撃を仕掛けたが、そのことを本人は覚えていないってことでいいんだよね?」
「そういうことだ。記憶も飛んでるみたいだし、情報も少ない」
「ってことはや、情報収集から入らなあかんってことやろ?」
ただ、有益な情報が手に入るかどうかだ。学校での幸村は至って普通、どこにも異常を感じられない。生徒達に情報収集してもあまり集まらないだろう。
どうしようかと、頭を抱えていると鈴音が発言した。
「……そういえば、歌音ちゃんって……弟……いたよね?1年生で……、その子に話……聞いてみたら……?」
なるほど、確かに名案だ。一緒の家に住んでいるんだから、幸村が自宅に帰った後の様子なども知っているはずだ。何かしらの情報は出るだろう。
鈴音の案に賛同するように、蛍が勢いよく立ち上がる。
「よっしゃ、ほな、昼休みにでも幸村弟に話を聞きに行こうや!」
次の行動が決まった。まずは、幸村弟に接触だ。