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30 天秤にかけたら妹に傾く

いつもより長い。


 

「…………」

「身長高ーい!」

「足綺麗!」

「色白ーい!」


 調査のために聖エトワール女学院へ交換留学(潜入)したはずなのに、女の子達が囲んだため動くに動けない状況になっていた。


「聖アストラル学園の制服ってバリエーション多くて可愛いよね!いいなー!」


 お喋りな女子達にうんざりし始めるのだが、邪険に扱うわけにもいかない。情報の取りこぼしとかあったらこっちが困るからな。

 それに、俺一応紳士だし。女の子には優しくしないとだろ?冬歌が関われば別だけど。


「ところで、霧雨さんと冬歌さんって、双子?」

「え、あ、一応……」

「へー!頭一個分くらい身長が違うから、びっくりしちゃった!」


 そりゃ、俺、男だしな。

 ところで、早く解放してくんねぇかなぁ……。本当にあいつとエンカウントする前にここを立ち去りたいんだよ。裏声だって結構キツイし。

 なーんて、思っていると廊下の方からキャーキャーいう声が聞こえてきた。悲鳴というより、黄色い声だな。

 通り過ぎていく団体を見つめる。その中心に、絶対に会いたくない女がいた。急いで冬歌を抱き寄せ、鈴音を俺の前に立たせて隠れる。幸い、俺が座っているので、鈴音の後ろでも十分に隠れることができた。

 黄色い声は遠くに消え、そいつも廊下を通り過ぎる。


「……何、あれ」

「あぁ、あれ?なんて言えばいいかな?さっきの輪の中心にいた人、双葉茜(ふたばあかね)って言って、この女学院最強なんだけど、最近生徒の半数がなんかその人を神のように崇めたてているのよ」


 私達の神様って言ったら星の神なのにね、と言う女子生徒。その言葉に、反応する。

 俺、その星の神にこの間散々イジメられたけどな。ははは。

 ……それより、問題は、絶対会いたくなかったのに絶対会わなきゃいけなくなったってことだ。この件、十中八九あの女が関わってる。


「………ところで、冬子ちゃん。なんで……冬歌抱えて、私の後ろに隠れてるの……」

「……ちょっと、その最強様に会いたくなくてな」

「何……?女学院最強と、知り合い……?」

「……知り合い……つうか……」


 あまり周りには聞かれたくないので、鈴音の腕をグイッと引っ張り、耳元に口を近付ける。


「まぁ、所謂、元カノって奴だ」


 そう伝えた途端に、鈴音の叫び声が上がったのはいうまでもない。

 まぁ、あの途切れながら淡々と喋る鈴音だから叫んだところでこの教室に響くかどうかくらいの声量だったけど。


「…….い、いたの……?」

「一応、中学生の時にな」


 文武両道、眉目秀麗、財閥跡取り、評価SS、学園最強。むしろ、このスペックで今まで彼女がいたことないって方がおかしいと思う。

 一応、夜風市最大であり、聖アストラル学園を運営している時雨財閥の御曹司だし。


「しつこく強請られたから渋々付き合った、みたいな感じだ。あいつに愛なんざ1ミリもない」


 当たり前だが、1ヶ月も続かなかった。もちろん、別れを告げたのは俺から。

 そりゃそうだろ。俺シスコンだし、冬歌最優先だし、冬歌が関わったら別れる一択だわ。

 それを鈴音に伝えたら、シスコンと罵られた。シスコン上等、俺にとって命より大切なのは冬歌だ。冬歌がいなきゃ俺ダメになる。


「……それより、マズイな……」


 いつの間に女学院最強になってんだよ、あいつ……。くっそー!会わなきゃいけないってのがもう嫌だ。


「お兄ちゃん……大丈夫?」

「正直、めちゃくちゃ嫌だ。吐き気がする……が、こんなところに冬歌を置いていくのはもっと嫌だ」


 心配そうな顔をされる。あー!心配かけたくないけど、その表情もたまらん可愛い!!

 なんて思いながら、冬歌にスリスリしてたら周りに変な顔で見られた。


「……とりあえず、1番怪しい女学院最強様の情報を崇めている生徒から取りに行くか」


 椅子から立ち上がり冬歌と鈴音を引き連れて、教室を出る。

 女学院生徒に、どこに行くのかと聞かれたがお手洗いとだけ伝えて、そのまま廊下を進む。


「でも、冬夜くん……。誰がその生徒かわからなくない……?」

「何言ってんだ。1番手取り早い奴らがいるだろ?」

「手取り早い……?」


 鈴音の質問に答えず、ただ廊下を進む。

 そして、ある教室で立ち止まった。生徒会室と書かれたプレートが扉の上に飾られている。


「生徒会……、そうだ、理事長が……堕ちたって……言ってたね……」

「そういうこった」


 コンコンッとノックして、返事を待つ。

 中から、どうぞと招き入れる声が聞こえたので、ガラリと開けた。


「あら、その制服……交換留学生ね。生徒会に何か御用?」

「そうですの。ちょっと、お話が聞きたいのですけれどもよろしいでしょうか?」

「えぇ、構いませんよ」


 こちらにどうぞと、ソファーへ座るように催促される。

 俺達が、腰を下ろしたのを確認すると同時に、目の前にティーカップが並べられた。


「それで、どのような内容をお聞きで?」

「……単刀直入に、双葉茜さんについて、知ってること教えてくれないですかね?」


 そう聞くと、その場にいた生徒会役員と思わしき女達の目の色が変わった。


「茜様について聞きたいのね!!」

「いい心がけですわ!」

「茜様こそ、我らの神!星の神を上回るお力をお持ちですのよ!」


 最後の言葉に反応する。

 あの歌を上回る力を持っているだと?ありえない。というか、そんなこと不可能だろ。何を吹き込まれたんだ、この生徒会共は。


「そのお話、詳しくお聞かせ下さいませんか?」

「茜様はね、私達や星の神ですら使えない魔法を使えるのよ」

「その魔法とは?」

「そうね、言葉ではとても表せないわ」


 例えるならば、引き摺り込まれそうなほどの深い黒……、まるで夜みたいな魔法よ。

 うっとりとした表情を浮かべながらそう言う女子に、体が震える。恐ろしいとかそういうものではなく、怒りのせいで震えているのだ。

 わかってしまった。双葉茜だけが使えるという魔法の正体も、神のように崇めてるって話の真相も、この生徒会役員共及び生徒の半数にかけられた(・・・・・)魔法も全て、その一言だけで。


「そういうことかよ……」

「おに、お姉ちゃん?」


 ダンッと拳を叩きつけた。木製のローテーブルがすごい音を立てて、真っ二つに割れる。

 今、自分が女装していることも忘れ、唸るような低い声で目の前の女子を睨みつけた。


「おい、双葉茜のところに案内しろ」

「まぁ、乱暴な方!…ですが、あなたもきっと茜様に会ってあの黒を見せてもらえば、変わりますわ」


 生徒会役員である信者に連れられて、双葉茜の元へと赴く。

 あいつがいた場所は、星の神を祀っているはずの教会。重々しい扉を開け、中へ入ると会いたくもなかった奴が星の神の像を前に佇んでいた。周りに何人か、信者らしき生徒がいる。


「茜様!この交換留学生達が茜様の魔法に興味があるとのことです!」

「交換留学生……?」


 ようやく、こちらへと振り向く双葉茜は、俺達の姿を捉えると嬉しそうな表情を浮かべた。


「あら、まさか、あなたから来てくれるなんて。会いたかったわ、冬夜」

「俺としては、お前の顔なんざ2度と見たくなかったよ、茜」

「それにしても、可愛い格好してるわねぇ」

「うるせぇ。好き好んでこんな格好してるわけじゃねぇんだよ」


 ギラリと睨み付ける。

 しかし、キャーこわーいと言いながら嬉しそうにされた。反吐が出そうだ。


「冬夜、戻ってこない?やりなおしましょうよ」

「はっ!誰がテメェみたいな女のところに戻るかよ。忘れたのか?自分のしたこと。俺の愛しい妹を道具みたいに扱いやがって」


 冬歌の姿を見れば、あれやれだのこれしとけだの、あれ持ってこいだの……。俺の妹は召使いじゃねぇんだよ。ふざけんな。

 そう伝えると、茜は嬉々としていた表情を歪ませた。


「口を開けば、妹妹……この私がいるというのに。そーんなに妹がいいなら冬歌ちゃんと結婚すれば?このシスコン!」

「……そうだな。よし」


 くるっと後ろの冬歌へ向き、跪くと軽く手を取った。


「冬歌、結婚しようか」

「は、ちょ、何言って」


 後ろで茜がなんか言ってるが、全力で無視して冬歌に求婚する。

 求婚って言っても、半分冗談だけどな。半分本気だけど。

 むしろ、冬歌になら結婚せずとも俺の人生全部捧げてもいい。妹万歳、妹最高。冬歌マジ可愛い。


「お兄ちゃん、待って。一応双子、結婚出来ない。それに、お兄ちゃんにはお兄ちゃんでいてほしい……な……」


 最後の方の言葉が小さくなっていた辺り、恥ずかしかったのだろう。少しだけ頬を赤く染めていた。


「冬歌、それ反則。くそ可愛い。大好き愛してる」


 もう、冬歌が可愛いすぎて、心の中では収まりきらない。今すぐ大声で叫びたい。この冬歌の可愛さを全力で知らしめたい。

 うん、可愛いから叫ぼう、そうしよう。

 立ち上がって、ムギューッと冬歌を抱き締めると、スゥゥッと空気を吸い込んだ。


「冬歌ってば、マジ天使!!」


 教会に声が響く。まだ、叫び足りないがとりあえず落ち着いた。

 後ろの鈴音は呆れたようにため息を吐き、茜とその信者達はポカーンと放心している。


「お、お兄ちゃん、また何言ってるの!」

「可愛い冬歌を可愛いって言って何が悪いんだ?ん?言ってみろ」

「は、恥ずかしいって言ってるの!!」


 ポカポカと叩かれるが、そんな様子も可愛くてたまらない。頬が緩む。あー、本当に可愛すぎるだろー!食べてやろうか、この野郎!!


「……私を無視するなんて許さないわ!!」


 俺の横を、何かが飛んでいった。ピリッとした痛みが頬に走り、血液が流れていく感触がする。

 そちらを見てみると、狂気に満ちた瞳をしている茜と、その瞳を赤く光らせている信者共。茜の周りには針のようなものがいくつも浮いていた。

 あーあー、せっかく冬歌でいい気分だったのに台無しじゃねぇかよ。しかも、傷付けてくれやがって……、冬歌にシンクロするだろうが。


「冬夜、私は最強なのよ!それを思い知らせてあげるわ!!いきなさい、私の可愛い手下達!」

「はい、茜様!」


 茜の命令に従い、俺達に襲いかかってくる信者共。だがしかし、俺の目の前で攻撃が止まった。光の輪が動きを封じている。


「よっ、仕事が早い。流石俺の妹」

「お兄ちゃんこそ、悠長に立ってる場合じゃないよ」

「大丈夫だって。……それよか、茜さぁ。こいつらにかけてんの、催眠魔法だろ?……てめぇ、誰かを生贄にして悪魔に魂売りやがったな……!!」


 催眠魔法は傀儡魔法と同じ闇魔法の一種。傀儡魔法よりも質が悪い。

 催眠魔法には2通りの使い方がある。1つは眠らせる、もう1つは暗示をかけるだ。

 今回の場合は、後者の暗示をかけるにあたる。生徒の半数が、双葉茜は神という暗示にかかってるということだ。


 更に、闇魔法は人間には使えない。……ただし、それを使えるようになる方法が1つだけある。

 それは、禁忌の召喚魔法。誰かを生贄にして悪魔を召喚し、己が死んだ後に魂を捧げると契約することだ。


「……そんなに相手してほしいなら、してやるよ。ただし……」


 ポケットにねじ込んでいた星の腕章を着け、細雪を顕現させる。


「聖アストラル学園生徒会執行部としてだけどな」


 問答無用。誰かの命を犠牲に、闇魔法を手に入れた外道に慈悲などない。



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