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3 売られた試合は買う

 

「まさかトイレの電球が切れるとは……、コンビニで買うと高いんだよなぁ……。はぁ……」


 買い物袋を片手に、夜道を歩く。

 途端に、目の前にフード姿が彼の前に立ち塞がった。彼は不審に思い、警戒しつつ声をかける。


「……あのー?」

「………」


 言葉に対する反応はない。しかし、行動で示す反応はあった。その片手には明かりに照らされて銀色に輝く、刃。

 気付いた時には遅く、彼の目の前に刃が迫っていた。


「うわああああああああ!!!」


 ───────────────────



「お兄ちゃん、お願い」


 ぐっ……、そんな可愛い顔でお願いされたら、聞いてやるしかないじゃないか…!くっそ!冬歌の小悪魔!!可愛い!!大好きだ!!


「ちょっとだけだからな?」

「わーい!やったー!」

「……2人とも何してるの……?」

「何って、見てわかるだろ。冬歌が俺の髪の毛弄ってんだよ」


 楽しそうにブラシで俺の髪を梳く冬歌。

 鈴音に、本当に冬歌のこと好きだねって呆れられた。

 え?むしろこの世に冬歌嫌いな奴とかいんの?は?そんな奴いたら、そいつ一週間監禁して冬歌の良さを永遠と語ってやるよ。

 アルバム?はっ、50冊なんてとうに超えてる。可愛い妹のベストショットを逃してたまるか。

 あと、冬歌に手出しする奴も許さん。俺の半分、可愛い可愛い冬歌は俺のものだ。


「冬歌……、兄が……こんなのでいいの……?」

「それがお兄ちゃんだからいいの」

「鈴音ちゃん、冬夜の脳みその80%は冬歌ちゃんのことで一杯だから仕方ないよ」

「おいこらちょっと待て樹、お前は俺を何だと思ってるんだ」

「シスコン、すなわち変態だと思ってる」


 シスコンっていうのは認める。シスコンで何が悪い。冬歌コンプレックスだよ。略してトウコンだよトウコン。

 だってだって、冬歌が可愛すぎるのが仕方ないだけだし!!へ、変態じゃねぇもん!!決して変態じゃねぇもん!!ただ冬歌を可愛がりたい大事にしたい誰にも渡したくねぇだけなんだよ!!


「冬歌マジ天使!!」

「こりゃ、冬歌ちゃんがお嫁に行くとかなったら発狂しそうだね」

「そうだね……」


 そもそもの話、誰が可愛い冬歌を嫁にやるかっての。冬歌が欲しけりゃ殺す気・殺される気で俺を倒して手に入れてみろってんだ。……まぁ、出来るものなら、だけどな。


「おはよー」

「おはよ……う」


 冬歌についてひたすら語りたい衝動を押さえつけながら声をかけられた方に振り向いたら、言葉が出なくなった。

 自分の友人が手に包帯、頬にガーゼ付けて登校してきたらビビるだろ、普通。


「会長!それどうした!!」

「いやぁ……、昨日コンビニの帰りに襲われて……」

「襲われたって……、また……昔絡んできてた……人?」

「いや、別のやつ」


 あー……そういや前鈴音が、会長は中学生の頃、やさぐれて金髪でヤンキーしてたって言ってたな。今でも昔の怨恨で何回か喧嘩売られてるって。

 今なんか、ヤンキーの面影もないくらい真面目で生徒や先生から信頼も厚い学年1位の特待生なのに。


「フードだったし、刀持っててどう見たって昔の怨恨の類いではないのは確実だ」

「刀って、会長大丈夫?」

「ただの擦り傷だから大丈夫だよ」


 あはははーっと朗らかに笑う会長だが、包帯巻いている方の手を動かしたからなのか、ビキっと固まって肩を震わせた。痛いんだな。正直に言うなら、心配の一択だ。

 しかし、相手が会長だったから擦り傷程度と言えるほどの怪我で済んだのかもしれない。一応彼は俺達の筆頭だ。それなりの力を持っている。じゃなきゃ、こんな曲者まみれの生徒会を纏められるわけがない。


「あれ、暁くん、それどうしたんですか?」

「あぁ、幸村……、あ、そういや幸村って回復魔法使えるんだよな?ちょっと、この傷治してくれないか?」

「いえ、私が使えるのは治癒魔法ではなく、もう一つの薬草魔法で薬を作ることだけで……」


 特殊な魔法である回復魔法系。

 種類は二種類ある、一つ目は傷や病気を癒すことができる治癒魔法、二つ目は薬を作ることが出来る薬草魔法。

 今、会長と話している刀を二振腰に下げている女子生徒……幸村歌音(ゆきむらかのん)は薬草魔法の使い手だ。

 治癒魔法は使える者が少ないし、デメリットも大きい。この学園でも使えるのは1人だけ。

 薬草魔法も今のところ才能を開花させているのは幸村歌音ただ1人だ。


「そうか、薬草魔法の方だったか」

「普通の怪我でしたら、軟膏ありますよ」

「本当か?貰えるなら欲しいんだが」

「えぇ、構いませんよ」


 カバンの中から小さな入れ物を取り出し差し出す幸村。会長はそれを受け取り礼を言う。

 その様子を見ていると、幸村が思い出したように声を上げて俺を見た。


「そうだ、時雨くん。久しぶりに手合わせして頂けませんか?」

「ん?あぁ、そういや三ヶ月ぶりか。いいぞ」

「ありがとうございます。では、本日の放課後にでも」


 幸村の剣の腕は良い。伊達に剣道部部長の座に収まっているわけではない。

 思わず口元に笑みが浮かんでしまう。刀同士で戦ってくれるのなんか幸村しかいないからな。それに、売られた試合は買うしかないだろ。


「お兄ちゃん、楽しそう」

「あぁ、久々に楽しめそうだからな。……ところで冬歌。男の俺にこんな可愛い髪型しても……」

「え?似合ってるよ?それとも嫌だった?三つ編み」

「愚問だな。俺が冬歌のしたことを嫌がると思ってんのか?」


 えへへーっと笑みを浮かべる冬歌が可愛くて、机をひたすら叩く。可愛い!可愛い!可愛い!!もう今日1日三つ編みのままでいる!!

 ということで、1日中三つ編みでいたら周りからどう反応していいのかわからないというような表情をされた。


 放課後、剣道部の道場にて試合が行われることになった。といっても剣道の正式な試合形式ではない。魔法・防具の使用は一切なし、真剣のみの1本勝負。本当に危なくなったら冬歌の防御魔法が発動。それが俺が幸村と手合わせする時のルールだ。


「んじゃ、始めるか」

「えぇ、よろしくお願い致します。時雨くん」


 抜刀する。ゆっくり深呼吸をして一歩踏み出し、風のように接近した。

 振り上げた一太刀は、そのまま彼女の刀と鍔迫り合いとなり独特の金属音をあげる。

 女だと思って甘く見てはいけない。それだけの力を幸村歌音は秘めている。油断は出来ず、一瞬たりとも隙を見せてはいけない。

 刀が重なり金属の独特の音を立てるたびに、高揚してくる。楽しい。


「流石、時雨くんには隙がありませんね」

「そりゃどうも。幸村こそ、前より腕上がってんじゃねぇの?」


 一度後方へ飛び退き距離を保つ。刀を鞘に収め腰を落とす俺と反対に幸村は自身の顔の横に水平に構えた。

 霞の構え…てことは、突いてくる気満々じゃねぇか、相変わらずだな…おい。

 そのまま接近してくる幸村。迫り来る刃を素早く抜刀し、弾きかえす。刀は幸村の手元を離れ、地面に突き刺さった。

 腰に下がる二振り目へと手をかける前に、その脇に刃を突き立てる。幸村の動きが止まり冬歌の声が響いた。


「一本!」


 俺の勝ち。刃を鞘に収め、今までの高揚感を収めるために深く息を吐く。

 幸村は、床に突き刺さった刀を引き抜き側に戻ってくると、あははっと笑みを浮かべた。


「また、負けちゃいました」

「お前、相変わらず突いてくるな。でも速くなってる。刀抜くのが一歩遅かったら俺が負けてた」

「ありがとうございます時雨くん。また手合わせしてくださいね」

「あぁ」


 幸村と手合わせするたびに彼女はどんどん強くなっているように感じる。

 ……俺も精進しないといつか負けそうだ。とりあえず、今日は冬歌を抱き枕にして寝よう、そうしよう。


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