神
「ドーモ。初めまして」
突如現れた、若人。
冷たい薄暗闇に立つ、それは日輪。
「俺、〝いざなみ〟のサクヤ」
一人称は『俺』。声も若くはつらつとしたそれ。
しかし、見間違う。
「ここから東にある小さな島国の禁族で。片隅にでも置いておいてもらえると有難い」
にこぉっと、大きく歯を見せて。やんちゃ坊主のように笑う。
宿す二つの光は、強く眩い銀河。
「あ、どうやってここに来たかって?いや~、さすがさすが。厳重だな。相棒の力借りなきゃここまで来れなかったわ。この後、他の王のトコにも行こうと思ってンだけど、やっぱこんな感じなんかね~?」
王を前に、一切竦まぬその態度。それどころか、大口を開けて「はっは――!」と豪快に笑う始末。
「俺とは違って、すっげー目立つヤツなのよ。その隙に、影の薄いこの俺が忍よろしく忍ばせてもらったってワケ。あいつチョー美人だから、お前の部下がコロッと惚れちまったりしてな。ウケル~~!はっは――!」
王は、何も返さず。ただそこに在るだけ。
「まぁ、そんな顔すんな。俺だって好きで来たんじゃねーよ。……あんたさ、部下の前でどれほどの数が足止め食らってると思う?全部直談判だぜ?」
笑いが落ちた、真剣な顔。それは、恐ろしいほどに美しい。
見上げる視線の先で、答えはない。
「俺らにだってプライドはある。自分のことは自分でするし、そう簡単に『助けて下さい』なんて頭下げて縋る気もねぇ。でも、そんな状況じゃねぇんだよ。わかってんだろ?」
自ずと見上げ、見下すように作られている。物理的にそうであろうとも、彼の精神は決して下らない。対等に、真正面からぶつかっている。
「あんたたちは『四神』。その影響力は全世界に及ぶ。うちみたいな小さな周辺国は嫌でもそれを被るんだ。その玉座で『神』名乗ってんなら、責務はしっかり果たしてもらわねぇと困る。その席は軽いモンじゃねーんだよ」
身体を圧す、強い風が吹いた。
「世界の危機だ。動いてはもらえねーか」
それは石のように。その座から微塵も動かない。
「……『虚無の王』ってのは、どうやら嘘じゃなかったようだ」
何も応えぬ、黄金の双眸。
「わかった。邪魔したな」
眩い銀河の光は諦めたように消え、去りゆく小さな背を向けた。
しかし、それは最後に振り返り、一際大きく、強く放った。
「くだらねー男だよ。お前は」