その1
おはようございます、ニュースの時間です。
各地に現れている魔王の出現場所を調べたところ、
この世界とは別の空間が広がっていることが
国連などによる調査で確認されました。
国連は魔王の出現場所をワームホールと命名し
引き続き調査を続けています。
また国連はワームホールの先にある空間を
「全人類に認められる活動分野」とし、いかなる
国家による主権の主張は認められないとする条約を
発効するとともに、各国の動きを牽制しています。
続いてスポーツチャンネルです。
サッカーワールドカップ決勝戦は…
○月×日 朝のニュース番組より抜粋
籠上ゆあ
『ねぇりか。新世界だって。面白そうじゃない?
ちょっと探検しに行こうよ』
ゆあの言うことは相変わらず唐突だ。
でも、今は話題を振りまいてくれるだけでも嬉しい。
昨日は大泣きをしてみんなに迷惑をかけてしまった。
朝起きて、どんな顔をしてみんなと話せばいいのか
悶々としながら階段を下りてきたところだ。
本中しおり
『りか、おはよう。昨日はよく眠れた?』
利根美ゆうほ
『朝市で代わった茶葉を見つけたので煎れてみました~。
みなさんもいかがですか?』
濱里りか
『みんなおはよう。昨日はごめんなさい。
何だかいろいろと迷惑をかけちゃって…』
本中しおり
『謝ることなんて無いよ。その…お兄さんの事もあるし、
辛い気持ちなのは分かるから』
兄の話をされると、どうしても顔が強張ってしまう。
正直なところ、兄の死を完全に受け入れることはできてないと思う。
でも辛い気持ちに囚われて大切な友人まで失ってしまっては元も子もない。
モヒカン
『お、元気になったみたいだな。女の子は元気が一番。
うちのアネさんももう少し可愛げがあれ…(グホォ』
ウシチチ聖職者
『一つしかない命なんだから、無駄遣いしないほうがいいわよ』
本中しおり
『聖さん、モヒカンさん、おはようございます』
私達は恩人?の二人をこのように呼んでいる。
本名は別にあるらしいのだが、この辺では通り名の方が有名らしい。
高レベルの冒険者ともなれば色々と事情があるのだろう。
ウシチチ聖職者
『それで、悩める若者達は今後の進路をどうするつもりなのかしら?』
濱里りか
『あの、私達は…』
籠上ゆあ
『私たち、冒険者として新世界へ行ってみたいと思います』
本中しおり
『なぁ、ゆあ。さっきニュースで国連の人が調査してるって言ってただろ。
そんな場所に一般人が入れるわけ無いじゃないか』
籠上ゆあ
『むー、そんな事いっても。ひょっとしたら私たちに隠れた才能とかがあって
調査隊に入れたりするかもしれないじゃない』
本中しおり
『そんな都合の良い事があるわけ無いだろ…』
しおりがため息混じりに呟く。
確かにそうだ、早々都合よく才能が隠れている訳が無い。
しかし聖さんの口から出たのは思いがけない言葉だった。
ウシチチ聖職者
『才能と言えるかは分からないけど、限られた人間しか
新世界へ行けないのは確かよ』
利根美ゆうほ
『ものすごくお金がかかるとかですか?』
ウシチチ聖職者
『そうじゃなくて、ワームホールを使って向こうの世界へ行けるかどうかは
体質によるらしいの。何が要因になっているかが分からないから、研究者は
手当たり次第に人を集めているらしいわよ』
本中しおり
『そんな秘密情報を何で知っているんです?』
ウシチチ聖職者
『ふふふ、女は秘密を抱えているものよ』
モヒカン
『そんな事言って、実際に調べてきたのは俺じゃ(モガガ』
ウシチチ聖職者
『モヒカン、今日一日会話禁止ね』
一日話ができないのは可哀想な気もするが、この二人の事だから
適当なところで呪文を解除するのだろう。
籠上ゆあ
『それじゃ、今から国連って会社へ行けば、新世界へ
行けるかも知れないんですね』
「国連は会社じゃないよ」と突っ込みたくなったが、別のことを考えていて
言葉にすることができなかった。
新世界と言えば聞こえはいいが、そこは兄を殺した魔王が住む世界だ。
向こう側の世界で、私は何をすればいいのだろう。
籠上ゆあ
『私たち6人が集まれば、ちょっとくらい冒険しても大丈夫だって』
本中しおり
『何で聖さんとモヒカンさんまで計算に入ってるんだよ』
ウシチチ聖職者
『順番が前後しちゃったけど、私たちと一緒に来てくれるなら助かるわ』
本中しおり
『一緒に?どういうことですか?』
ウシチチ聖職者
『昨日みんなを廃墟へ連れて行ったでしょ?実はあそこにも
ワームホールがあるのよ』
ウシチチ聖職者
『私とモヒカンは運良く世界の行き来ができたんだけど、さすがに二人で
冒険するのは心許無いでしょ?』
モヒカン
『ふぉふぉふぇ、ひょひんひゃのふぇふぁふへそふぃはがら…』
ウシチチ聖職者
『あんたは少し黙ってなさい。とにかく二人だけじゃ心許無いから、
初心者冒険者の手伝いをしながら適正がある人を探してたって訳。
それでね、もし良かったらだけど、私たちと一緒に新世界を探索して
もらえないかしら?』
籠上ゆあ
『はいはいはいっ、新世界へ行ってみたいです』
本中しおり
『まったく、相変わらずお前は…。でもちょっとだけならいいか』
利根美ゆうほ
『私も新世界で新しいお茶を探してみたいです~』
濱里りか
『私も…』
(私も新世界へ行って、魔王を見つけて、そしたら…)
籠上ゆあ
『決まりだね。聖さん、モヒカンさん、こちらこそ
よろしくお願いします』
こうして私たち6人は新世界の探索へ乗り出すこととなった。