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我らが魔王のタマゴ様!  作者: 猫屋敷
~アスモデウス編~
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Ⅵ.幼女「馬鹿ー! どっか行けー!」

 だが。


「あ……でも、キントさんいらっしゃいませんでしたね」


 コムは少し気まずそうな顔をした。

 キントが確実にここにいる保証はなかったものの、姿を見たと言って連れてきたのだから。励まされた直後とはいえ、晴れ晴れとした表情とはやはりいかない。

 そんな彼女を気遣ってか、少年は。


「だ、大丈夫だよ! キントはまた探せばいいし。あ、僕、それよりも宝物庫の中が見てみたいなぁ! ちょっと、扉を開けてくれない?」


 できるだけ明るくそう依頼した。

 すると、コムはぱぁと顔を輝かせて。


「それならお安いご用です!」


 右手で胸をぽんと叩く。

 そして、そのまま扉に向きなおると両手をそこにかざした。


「むむむむむ……」


 目を瞑り、眉間にしわを寄せての唸り声。その掌からは、うすらぼんやりと白い光のようなものが閃いていて。


「……」


 よくよく観察すると、その扉は中心から二つに分かれているというだけで、取手がなかった。また、鍵穴も見当たらず、表面には大仰なレリーフのみが刻まれていて。

 つまり、それらの情報を総合すると、そこには特別な開閉方法があるということ。そして、おそらくは今、コムが行っている行為こそが。


「むむむぅ……」

『ニュニュニュッ』


 粘性の高いものが出すような奇妙な音。それと同時に、扉の真中付近に人の頭のような物体が浮いてくる。

 イメージは緩い粘土。いや、溶岩か。どろどろとした、けれど硬度のある物質が集まってきて。それが胸像の彫刻のように立体的に形を成した。


「ふぅ、これで準備はばっちりです」


 コムは拳で額の汗を拭く。


「え? これってどういう仕組みなの?」

「ああ、魔王陛下は宝物庫のことをご存じないんでしたね。この扉には仕掛けがあって、今私がやったように魔力を加えると鍵穴が浮き出てくるんです。まぁ、用心と言いますか、泥棒さん対策ですね。もし、仮にこの屋敷に賊が忍び込んでも、扉の開け方が分からなければ、中の宝物は盗めないということなんです」

「へぇー! すごいね!」

「いやいや、陛下。本当にすごい所はここからなんですよ?」

「え? 他にまだ何かあるの? あ、そうか。これは鍵穴って言ってたもんね」


 少年は扉から出てきた物体を見つめる。

 しかし、その滑らかな表面に穴らしきものは存在しなくて。

 すると、彼女はにこにこと笑みを浮かべながら。


「はい、そうなんです。では、この頭のてっぺんを三回撫でます」

「ふむふむ」

『グチャァ……』


 すると、内臓が避けるかのような嫌な音が響いて。


「ひっ!」


 そのぬらりとした顔の途中に切れ目が入り、そこから上下に裂けた。いや、口が開いたのか。


「そうすると穴が開きます。可愛らしいです。そして――」

「ちょ、ちょっとお!」


 普通に説明を続けようするコムを少年は止める。


「ん? どうされました、陛下?」

「な、何これ?」

「……?」


 少年が驚くのも無理はない。それは彼が今まで見てきた鍵穴とは、似ても似つかないものだったから。加えて、その形状があまりにグロテスクで。大きく開かれた顎の中には無数の牙があり、舌があり。まるで、ホラー映画に出てくる怪物を模しているような。


「い、いや、これ怖すぎるよ! 見た目がお化けだよ!」

「え? とっても愛らしいじゃないですか?」


 だが、コムはきょとんとした表情で首を傾げる。

 彼女にはこの物体がどう見ているのか。


「う、嘘!? 愛らしい? え? え!?」


 彼は改めて、その鍵穴に視線を向ける。

けれど、いくら眺めてもそこに可愛気など見出せなくて。


「……」


 少年は黙り込む。

 そして。


「う、うん……いいや。続けて?」


 とりあえず反論せずに、コムの話を聞くことにした。

 彼女は不思議そうに、彼を見つめながらも。


「はい。そして、この穴に指を入れて――」

『グチャッ』

「ひっ!」


 コムが手を差し出したかと思うと、それに顎が噛みついた。

 尖った針のような牙には、血が滴って。


「これで、扉が開きます。この扉はお屋敷の方々の血を覚えていて、それで相手が宝物庫に入っていい存在なのかどうかを判断しています」


 しかし、コムは何のことはないように告げる。


「……い、痛くないの?」

「ああ、大丈夫ですよ? 指の先をほんの少し甘噛みされるだけです」

「……」

『ギギギギギ……』


 次いで、解放される宝物庫。


「いい子、いい子」


 彼女は最後に、またその怪物の頭を撫でてから。


「それでは陛下、こちらが宝物庫です」


 少年をそこへといざなった。


「う、うわぁ……」


 宝物庫の中は金や宝石で光り輝いている。

 それは先立って見た、マモンとの闘いの場にも似て。


「……あれ?」


 だが、同時にそれら煌びやかな財宝達よりも目を引くものがある。


「ぶーん、どぅるるるる」


 広く閉じられた部屋の中央。そこに座して、金塊を飛行機に見立てて遊ぶ影が。


「しゅびーん、ぶわーん!」


 彼女の名前を少年は知っていた。前に会ったことすらもあって。

 けれど。


「きーん、どかーん!」


 その振る舞いは、あまりに記憶の中のそれとかけ離れていたから。


「ゲィーミットさん、こんにちは」


 コムは少女をそう呼んだ。何の疑問もなく。

 つまり、少年の中に生まれた疑問、戸惑い、それを押し退けて彼の考えに間違いはない。彼女は確かに、自身をゲィーミットと紹介したあの少女だ。


「ぶーん……ぽよ? あ、お姉ちゃん!」


 ゲィーミットはコムの姿を認めると、とても嬉しそうに駆け寄ってきた。

 その姿はまさに天使のそれで。純真な汚れのない表情に、あどけない走り。それに、フランス人形のような美しい顔立ちと白い肌。おそらくはどう穿ったとしても、批判の入る余地は存在しない。そう思えるほどの幼き美貌。


「……」


 そんな彼女の様子に、少年は困惑を隠し切れずにいる。


「ゲィーミットさん。今は何をして遊んでらしたんですか?」

「えっとね、ゲミーはね。今、魔送機ごっこしてたの! ぶーんって!」


 ゲィーミットは足でぴょんぴょんと跳ねながら、コムに説明していた。

 その仕草はまるで小動物のように可愛らしく。二人の身長差も相まって、彼女らは幼稚園の先生と子どものようにも見える。


「へぇー、それは楽しそうですね! 今度、私も一緒に遊ばせて下さい」

「えへへ、いいよー。ゲミーはお姉ちゃん、大好きだから!」


 そう言って、両手を万歳の形に挙げて、笑うゲィーミット。

 そして。


「あ、あの……」


 少年はその和やかな風景に割って入った。


「……!」


 すると、ゲィーミットはびくりと背筋を震わせ、すごい速さでコムのうしろに回り込む。次いで、あたかも人慣れしていない獣のように、酷く怯えながらこちらをうかがって。


「……誰?」


 消え入るような声で訊いてきた。

 それにコムが答える。


「大丈夫ですよ、ゲィーミットさん。あれは、魔法陛下です」

「……まおーさま?」


 コムの背後からゆっくりと顔を出すゲィーミット。


「……」


 見つめられる少年は、何故か無闇に緊張してしまって黙り込んだ。

 そして、数瞬後。


「違う! まおーさまじゃない!」


 ゲィーミットは叫ぶ。また、コムのうしろに顔を隠してしまう。


「……えっと」


 困った少年が、助けを求めるように少しコムへと近付くと。


「あっち行け! お化け!」


 再度、ゲィーミットが叫んだ。


「お、お化け……」


 自分でも気にしていた要素を他人から指摘され、つい涙目になってしまう少年。

 その状況に慌てたコムが。


「お、お化けだなんて。魔王陛下はとても凛々しいお姿をしています!」

「あ、ありがとう。でも、自分でも分かってるんだ……今の僕の姿って怖いもん」


 しかし。


「お化け! 馬鹿! どっか行っちゃえ!」


 ゲィーミットの罵声の猛攻は止まらない。


「……うぅ」


「あ、あの! ゲィーミットさんには私から説明しておきますので、陛下はどうかキントさんをお探しになってください!」


 だから、コムは狼狽しながらもそう提案した。


「う、うん。そうするよ……」


 そうして、宝物庫を出ていく少年。

 その最中さなかも。


「お化け!」

「……うぅ」


 背後から彼を罵倒する声は響き続けていた。

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