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第三章 「Ⅱ.四天王相手にも有用なメイド」 の再筆

 屋敷の中にはとても広い空間があった。天井は高く、見上げるほどで。廊下の幅も、横に寝そべっても余裕ができるほど大きく取られている。更に、そこには上等な壺や絵画が並んでいて。


「……えっと」


 そんな中、二人の目の前には下級悪魔が。ただし、骨格が異常に発達していて、まるで同じ種類のそれには見えない生物が立っていた。


『ガリガガガ!!!』


 彼らを威嚇するように吠える。

 その後方には、上階へと続いているであろう階段が。


「下級悪魔の亜種です。おそらくこの階層の番人のような役割をしていると思われます」


 ミアは少年に落ち着いた口調で説明した。

 そして。


仕える者の暴虐ヴィクランズト・クラフト


 生まれた闇が、一瞬で下級悪魔を呑みこむ。


「処刑致しました。偉大なる魔王様の御前で挨拶の言葉がなかったので」

「そ、そう……」


 二人は障害物の消えた階段を上っていった。


「……」


 次の階には、随分こじんまりとした下級悪魔が、また階段を守るようにして立っている。おそらく、少年の元の体と同じか、更に少し小さいぐらいだろうか。

 だが、その外見は今までのそれとは異なり。どういう訳か、人間が着るようなタキシードをその身にまとっていた。また、顔には金縁の眼鏡。それに、ステッキまで持っていて。

 彼らが正面に立つと、下級悪魔は品定めするように笑いかけた。


「下の者を倒しましたか。しかし奴は四天王の中でも最弱。ここからは今までのようにはいきません。ああ、私としたことが挨拶もまだでしたね。大変失礼いたしました。私の名はデビリ。二階の番人です」

「しゃ、喋った!?」


 驚く少年。

 予想外にも下級悪魔は二人に話しかけてくる。しかも、その発音はとても流暢で、聞き取りやすい。


「下級悪魔の亜種で――」

「私をあんな低俗な連中と一緒にしないで頂きたい!」


 一階のときと同様、ミアが説明しようとすると、下級悪魔がそれを途中で遮った。次いで、大げさな身振りを用いながら語り始める。


「あいつらは芸術も文化も理解しない野蛮な生きものだ。ただ、自分の欲に動かされるままに他者を喰らう。言葉も話せず、魔力すらまともに使うこともできないで。私はあいつらとは違う。私は言語を解する。それに、魔力も自在に操ることができるのだ。そんな私が、あんな下劣なものと同じ種類の生きものであるはずがない。断じてない。そもそも、あいつらには知性がない。あるのは本能だけだ。それはもはや、ただ単調に食と排泄を繰り返す畜生と何ら変わりが――」

仕える者の暴虐ヴィクランズト・クラフト


 すると、今度はミアが下級悪魔のそれを遮った。


「処刑致しました。偉大なる魔王様の御前で、魔王様のご許可を得ずに長々と話をしたので」

「う、うん……」


 彼らは何ら支障なく屋敷の上階へと進んでいく。


「……」


 四階へと続く階段はは四足歩行の下級悪魔が守っていた。

 その外見はまさに猛獣で。爬虫類を連想させる、強靭な顎に生え揃った鋭い牙。それに、大きな岩ほどもある手足には大剣のような爪が並んでいる。


『グゲリゴリ』


 二人を視界に捕えると、下級悪魔は剣山のような口からそう漏らした。


仕える者の暴虐ヴィクランズト・クラフト


 すると、ミアが呪文を唱える。今回は説明すらせず。


「……」


 瞬きする間に下級悪魔は消えていた。

 少年はその理由が気になって、ミアに訊ねてみる。


「今度はどうして倒したの?」

「偉大なる魔王様の御前で卑猥な発言をしたので」

「そ、そんなこと言ってたんだ」


 そうして二人は順調に階段を上っていった。

 

「……」


 屋敷の外観から考えるに、その階段を上った次の階層が最上階であるようだ。

 また、他の場所と同じく、そこには下級悪魔が立っていて。


「下の者達を全て倒したか。これは期待できる」


 状況を楽しむようにほくそ笑む。

 見た目は普通の下級悪魔と変わらなかった。骨格が発達している訳でも、服を着ている訳でも、四足歩行である訳でもない。

 ただ、一つだけ異なる部分があった。それは。 


「ごきげんよう。私の名はデビロ。偉大なる主、マモン様の敵を滅ぼす最後の番人」


 皮膚が白いということ。それは不自然なまでに。まるで、そこだけ空間が抜け落ちているような。


「下級悪魔の亜種です。おそらく、この先にマモンがいると思われます」

「……」


 少年はミアの説明をぼんやりと聞いていた。


「それでは演奏会の開演だ。いい声を聞かせてくれ」


 そして下級悪魔は右手の掌を上に向ける。

 すると、そこから白色はくしょくの球体が生まれ、音を立てながら回転し始めた。


「……ん?」


 少年はそこでようやく気付く。


「み、ミア。あいつは倒さないの?」


 ミアが先ほどから何もせず、佇んでいることに。


「はい。彼は魔王様に挨拶の言葉を述べ、長々と話をせず、卑猥な発言もせず、円滑に事を進めました。処刑する理由はありません」

「……」


 その言葉で、少年は青ざめた。

 何となく、自分は闘わなくてもいいような気がしていたから。ただ、椅子の上に乗っているだけで、あとはミアが敵を倒してくれると思い込んでいたから。

 しかし、よくよく考えれば、彼女は無闇に相手を攻撃をしていたのではなく、そこにはちゃんと理由があった。故に、処刑を行動に移すだけの要素が存在しないなら、彼女が動かないのは当然で。


「いくぞ」


 そうして少年が混乱している間も、敵は待ってはくれない。下級悪魔は生まれた白い光の塊を、彼に向って撃ち出してくる。


「う、うわあ!」


 少年は慌てて、熱を掌に集中させた。次いで、弾くようにそれを放つ。


『ボンッ』


 空中で光と炎がぶつかり、相殺された。


「素晴らしい序曲だ。では、これはどうかな?」


 だが、下級悪魔の攻撃は止まらない。今度は、光をどんどん膨張させて、人間一人を呑み込めるほどの大きさの球を作った。また、それは先ほどよりも更に速いスピードでこちらに射出される。


「……あ」


 今から炎を撃とうとしても、明らかに間に合わない。いや、もし十分に時間があったとして、これを退けられるほどの熱を生み出すことはできなかったかもしれない。


「……うぁ」


 だから、少年は動けなかった。目の前の絶望に心が屈してしまって。そんな彼にできることは、ただ彼女の名前を呼ぶことだけで。


「……み、ミア。避け――」


 そして、目を閉じる。


「かしこまりました」


 しかし、光が二人を覆う寸前。少年の言葉を受けたミアが、優雅にそこを飛び退いた。

 すると、下級悪魔の攻撃は空を切り、そのまま壁に衝突する。


「……え?」


 少年は困惑の声を漏らした。

 けれど、徐々にその状況を理解して。


「あ、あの……もしかして、ミアは僕が言った通りに動いてくれたりするの?」

「はい」


 ミアはこともなげにそう告げる。


「そ、そっか……」


 安堵したような、肩透かしをくらったような。少年の胸は、そんな締まりの悪い感情で満たされた。

 また。


「……ん?」


 彼はそれまでのいきさつを整理して、あることを思いつく。


「じゃ、じゃあもしかしてこんなのも――」


 それはある意味、邪道。しかし、もし可能ならば確かな勝利が約束される、とんでもない手法で。


「ミア、あいつを倒してくれないかな……?」


 少年は言った。


「かしこまりました。仕える者の暴虐ヴィクランズト・クラフト


 すると、下級悪魔はまるで霧のように姿を消して。


「あ、ありがとう」

「もったいないお言葉です」


 二人は屋敷の最上階へと進んでいく。

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