Ⅵ.マモン打倒
「マモンの本体は一つの金塊です。それが心臓部のような役割をして、周りの金塊を操作しています。本体はおそらく、今の体の中心部分にあるでしょう。それを魔王様の炎で射抜けばマモンは倒せます」
ミアは事務的にマモンの弱点を説明する。
「あ、ありがとう」
「もったいないお言葉です」
少年のお礼に、彼女は品よく頭を下げた。
「……え、えっとじゃあ」
気を取り直して、彼は視線を落とす。
そこには未だ獰猛さの収まらないマモンの姿が。
『グオオオオオ!』
「……ん?」
マモンはその巨大な体をうねらせながら部屋の床を這っている。頭から尾の先までを波立たせ、時折舌を出しながら。
「あれ? 真ん中って……どこ?」
少年は改めて目を凝らす。
だが、マモンの体は大量の金塊で構成されているために途方もなく長く。また、ずるずるともつれ合い、重なり合ってさえいるので。
「こ、これじゃあ、弱点なんて分からないよ!」
どこに心臓部分があるのか分など見当もつかなかった。
『グオオオオオ!』
そして、またマモンが首を伸ばしてくる。
「うぅ……、えいっ!」
再び、彼は熱を放った。大体の中心目掛けて。
『バンッ』
ただし、また尾で弾かれた。
それも集中していなかったせいか火力も弱く、体を僅かに削ることすらできていない。
「……ど、どうしよう」
少年は少し考え、もう一度、掌をマモンに向ける。
「えいっ!」
炎が放たれた。
しかし、今回はそれに加えて。
「えいっ! えいっ!」
更に二つの炎が追加される。
『バンッ』
一つはマモンに打ち落とされた。
だが。
『ボンッ』
『ボンッ』
残りは全て体に的中する。
「よ、よし。こんな風にたくさん炎を撃てば……」
しかし。
『グオオオオオ!』
マモンはぴんぴんしていた。
「……あれ?」
連続した炎は十分に熱を収束できない分、威力が弱まる。そんな力では金で強固に固められた体を撃ち抜くことなどできるはずもなく。
「えいっ! えいっ! えいっ!」
少年の炎はマモンに傷一つ付けず、むしろその滑らかな体の上をオイルのように滑り、勢いを保ったまま周りの壁へと衝突する。
「……ダメだ。弱い火の玉だと弾かれちゃう」
そしてその間、マモンは何もしていない訳ではなかった。
『グオオオオオ!』
いつの間にか、気付かぬ内に。マモンは長いその身を手繰り寄せて、ぐるぐるととぐろを巻き始めている。
「え?」
彼が危機感を感じたときには、もう遅かった。
巨大な体は幾重にも重ねられ、少しずつ、だが確実に高度を増していく。
「ま、まずい……かも」
それは適度といえた。
マモンがそこから、今まで何度か見せていたジャンプをすれば。体の全体をばねにして、十分に勢いを保てばおそらく。
「……あぁ」
現在の少年の位置まで届き得る。
そして。
『グオオオオオ!』
マモンは飛んだ。真っ直ぐ、獲物を目掛けて。
「うわあああ!」
少年は叫ぶ。眼前には、その残忍さをありありと見せつける牙達が。
「あああ!!!」
熱が掌に集まり、解放される。
だが、遅い。
その弱々しい炎はマモンの巨大な顎の中に消えていき。
『グオオオオオ!』
ついに、マモンは少年を捕らえた。
その瞬間。
『ボボンッ』
どこかで妙な破裂音が鳴る。
次いで、じゃらじゃらと床に金属が散らばり落ちる音が。
「……?」
反射的に閉じていた瞼を、彼はおそるおそる開ける。
すると。
「え?」
その部屋に金塊の雨が降り注いでいた。正確には、天井に到達しようとしていたマモンの体が上部から順に瓦解していて。
「何が……起こったの?」
事態を呑みこめず、戸惑う彼に。
「お見事です、魔王様」
ミアは告げた。
それに連なるように。始めて耳にする、何か仄暗くて威圧感のある声が響く。
「マモンの金の体は弱い炎なら弾く。それを外皮から炎で攻撃しても、大した破壊は与えられん」
声は高々と続けた。
「じゃが、その内部に炎を放てばどうなる? 奴の口の中に逃げ場はない。炎はいくら弾かれようが、撃ち込まれた威力のまま、ただ滑るように奴の体の中を進んでいく。そして、最後にその熱は体の中心部に辿り着き、入念に隠されていた奴の本体を焼くこととなった」
少年はその声へと視線を向ける。
それはメイド達を監禁していた檻の方から発せられていて。
「魔王様よ。貴様は中々によき縁を持っているようだのう」
すると、それまで眠っていた少女が笑った。血のように紅い瞳で彼を射抜きながら。




