ム カ ツ ク ア イ ツ
「よ〜い・・・、ドン!!」
「宮原!6.38!!」
周りから、驚きの声が聞こえた。
宮原 洸中学1年生。
自分で言うのもなんだけど、俺は足が速い。
「藤崎!6.01!!」
・・・・・、藤崎の次に。
「洸くん!!あのね、これ、調理実習で作ったのv食べて?」
「おー、サンキュv」
俺が笑うと、女の子は顔を真っ赤にした。
俺の周りにはいつも女子が何人もいる。
いこーる、俺はもてる。
でも・・・、
「きゃーーー!!律君が居る!!」
その声と共に、学校中の女子があいつを取り囲む。
「これ!!あげる!!」
「今度遊ばん?」
「・・作ったの。食べて?」
「あっ・・・、ありがとう。」
アイツは少し困ったような顔をして、笑う。
その顔に、女は、奇声を上げて倒れる。
いこーる、俺は藤崎 律の次にもてる。
「宮原〜・・、96点!!」
「おおぉ〜!すっげっ!!」
「やるじゃん!!」
「かっこい〜」
テスト返しのとき、必ず俺の番で皆がざわつく。
ただし・・・
「藤崎〜・・・・・100点!この学年で、お前だけだ。」
藤崎の時は皆が叫ぶ。
俺は頭がいい。藤崎の次に。
クラスに一人や二人は居るだろ?
何でもできる奴。
それが、こいつ。
藤崎 律。
俺は、どんなに頑張ってもコイツには勝てないで居た。
なんか、ムカつくよな・・・。
「なんなんだよ。・・・、俺が勝てるのって、ねぇのかよ・・。」
俺はスポーツバックをボスッと殴る。
あっ!
「有るじゃん!!!!」
俺は、小さい頃から柔道を習っていた。
喧嘩だけは、負け無しだった。
「おっしゃ〜!!」
俺は、おもいっきしガッツポーズをした。
「おいコラ、お前、ちょ〜し乗ってんじゃねーよ!!」
そのとき、角の奥からいかにも馬鹿っぽい怒鳴り声が聞こえた。
「おっ!喧嘩か?俺の出番じゃん!!」
俺はスポーツバックを投げ出して、角の方へ走り出した。
「ちょっくら、かっこよくて、頭が良くて、運動神経がよくて、性格がいいからって調子のんなや!!」
「それって、褒めてるんですか?けなしてるんですか?」
ん?この声って・・。
案の定、角の奥には藤崎が居た。
その目の前には。3年生の斉藤先輩。
デブで背の高い斉藤先輩。
細めな藤崎。
それは傍からみて、完璧藤崎の不利な光景だった。
よ〜し、これで俺が助けて、アイツ(ふじさき)に強さを見せ付けてやろう!
俺が腕まくりをし始めたとき、大きな振動と、叫び声がした。
――まさか!!
遅かったか?
俺は飛び出した。
そこには、泡を吹いてる斉藤先輩が居た。
「何してんの?み・や・は・ら。」
その光景に驚いてる俺に、藤崎は嫌味な笑みを浮かべた。
俺は、飛びかかりそうになる衝動を抑えた。
藤崎はその横を、さっと。通り過ぎた。
「なんなんだよ!あいつはぁぁぁぁ!!」
俺の叫び声が虚しく響いた。
結果・・・俺は藤崎の次に強い。
「起立!姿勢!礼!」
≪ありがとーございました!≫
特に、藤崎に勝てることもないまま、参観日を向かえ、それが終わった。
「カーちゃん!!」
俺は、荷物を持ってもらうべく、母さんの方へと走る。
「どうした?洸?」
俺が言うのもなんだけど、俺の母さんはメッチャ、美人だ。
「荷物持って!!ついでに、車でつれて帰って!!」
母さんは少し、笑って俺のおでこをつつく。
「しょ-がないわね。今日は頑張ってたから特別よ?」
母さんはそういって笑うと、俺の鞄を一つ持った。
「やったぁ!」
ん?
視線を感じて、振り返る。
藤崎が見ていた。
母さんがきれいだったからかなって、思ったけど、多分違う。
だって、俺たちを見る、その顔はなんだか寂しそうだったから。
藤崎は俺の視線に気が付いて、スッと顔を背けた。
そして鞄を持って、誰かのもとに駆け寄ることもなく、教室を出て行った。
「洸?帰るわよ?」
母さんが声をかける。
でも、俺の頭はさっきの藤崎の顔でいっぱいだった。
「わり、今日やっぱ歩いて帰るわ!でも、荷物は宜しく!!」
そういって、俺は藤崎を追いかけた。
「ふ〜じ〜さ〜き〜!!」
やっと、生徒玄関で靴を履き替えている藤崎を呼び止めることが出来た。
藤崎は一旦動きを止めて、俺のほうを不思議そうに見た。
無理もないだろう。
普段はこうして話すことなんてないから。
「なぁ、今日、一緒にかえんねぇ?」
ひざに手をつけて、息を落ち着けながら話す。
藤崎は、怪訝そうな顔をして、
「嫌だ。」
と、言った。
そして何事も無かったかのように、靴を履き替え始めた。
その態度にムカついたけど、俺は笑顔を作って、
「いいじゃん!」
と言って、無理やりくっついて歩いた。
「・・・・。」
「・・・。」
当たり前だけど、二人とも無言だった。
普段からあまり話さないから、何はなせばいいのかわかんないし。
「・・・、藤崎、今日母さんとか来てなかったな。仕事かなんかか?」
ピクッ
俺がそう聞いたとたん、藤崎の動きが一瞬止まった。
「・・・・・ぃ」
「え?」
「関係ないだろ。」
藤崎はそう、冷たく言い放って、おもいっきし睨んできた。
カッチ〜ン。
その態度にムカついた俺は、藤崎に飛びかかろうとした。
「あの子でしょ?・・・。」
そのとき、前のほうを歩くおばちゃんたちが、藤崎を見てぼそぼそ言ってるのが聞こえた。
藤崎もそれに気が付いたのか、いっそう顔が険しくなる。
「ほら、奥さんが他の男と逃げちゃった家の子って・・・。」
――なんていった?
俺は、いきなりのことに頭が追いつかなかった。
ただ、藤崎の顔がどんどん悲しみの色に染まっていくことから、俺は聞いてはいけないことを聞いてしまったことだけは分かった。
『・・・、藤崎、今日母さんとか来てなかったな。仕事かなんかか?』
俺は、さっき自分が藤崎に向けていった言葉を振り返った。
自分の無知さに気が付いた。
「奥さんがあんな人なんですもの。あの子もそんな子に育つのかしらねぇ・・・。」
「おばさん。うっさいよ!黙れば!!コイツがそんな風になると思ってんの?言っとくけど、こいつ、何でもできるんだぜ!!そこらへんで、こそこそ噂話してるおばさんとは、違うんだよ!!!」
俺は叫んでいた。
藤崎が目を丸くして俺を見ていた。
かまうもんか、俺は勢いだけで生きる男だ!!
「それ以上、俺の友達を馬鹿にしたら・・、毎日窓ガラス割りに行くよ。」
俺はそういうと、近くにあった石を掴んだ。
「何よ、あの子。野蛮ねぇ・・。」
そういいながら、おばさんたちはそそくさと家の中に戻っていった。
「宮原・・。」
宮原が、戸惑ったような声で話しかけてきた。
俺はそれを無視し、
「見つけた!」
と、大声で叫んだ。
「・・・は?」
「は?じゃ、ねーよ!俺がお前より勝ってるところ、見つけたって言ってんだよ!」
「お前が俺より勝ってるところ?」
藤崎は眉間にしわを寄せて、俺を見る。
「そっ!俺は、お前より勢いがある!!」
俺はニヤッっと笑って、藤崎を見た。
藤崎はあまり顔が変わってない。
「よし、お前とは、いい友達になれそうだ!宜しく!」
俺はそう言って、藤崎に手を差し伸べた。
この言葉は本当だった。
なんだか、コイツと仲良くなって、もっと違うところを見つけたいって思った。
藤崎はプッっと、笑った。
「馬鹿じゃねぇの?・・・・宜しく、友達。」
そういって、藤崎も俺の手を握ってきた。
その顔は、俺に負けず劣らずかっこよかった。
藤崎律は俺の友達であり、ライバルである。
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