ソット・ヴォーチェ(囁くような声)
僕たちはバックステージにある医務室にいた。医務室の備品を拝借してブランドンの傷の手当をする。僕は生まれて初めて町医者の息子に生まれてきて本当によかったと思った。
ブランドンの肩と腹部は銃で撃たれてはいたが、どちらも銃弾は貫通していたのでよかった。もし弾丸が残っていたら僕にはどうしたらいいのか分からなかった。とりあえず傷口を消毒して止血する。顔も全身も裂傷と打撲があるが、眼球も脳にも僕が見る限り問題は内容で安心した。
「良かった、思ったより傷は浅かったよ。」
「だから、大丈夫だと言っただろ。こう見えても柔道2段なんだぞ。」
二人は笑い合い、グーパンチを互いにぶつけ合った。
「ねぇブランドン、これからどうすればいいと思う。」
「そうだな、状況が分からないと・・・あの襲撃シ的た男たちが何者なのかも分かっちゃいないからな、だいぶ良くなってきたから私が様子を探ってくる。もしかしたら、非常口から脱出出来るかもしれないからな。」
「ダメだよブランドン、危険すぎるしその体では無理だよ。」
「しかし、こんなところにいてもいつか見つかってしまうだけだ。それに私たちはあの連中の仲間を二人も殺してしまったんだ、間違いなく見つかった時点で殺されてしまう。」
僕は満面な笑顔で言った。
「情報ならもうある程度は分かっているんだよ実は・・・。」
「・・・・!?どういう事だ。」
「まず、襲撃してきたのはテロリストで政府の対して200万ユーロと仲間の釈放を要求しているよ。それともう劇場内はすべて制圧されたみたい、バックグランドのみんなも客席の方に連れて行かれちゃったみたい。」
一緒に練習に明け暮れていた仲間たちも連れて行かれてしまった。マネージャーやプロデューサーなんかの関係者も全員だ。みんな無事でいるのかと思うと辛かった。
「おい、ちょっと待ってくれよ。君になんでそんなことが分かるんだ。どこかで頭でもぶつけておかしくなっちまったのか。」
「うーん、一応頭をぶつけておかしくはなっていないよ。今回のことがきっかけで自分の隠れた能力に気がついたんだよ。」
「能力?」
「そう能力、今まで分からなかったんだけど、聞こえるんだどんな遠くの音でも、すっごく耳がいいみたい。」
ブランドンは目を丸くして僕を見つめている。
「いくら耳が良いと言っても限度があるだろ。」
「ちょっと待ってね。」
僕はそう言って、耳を澄ましてみる。軍靴の足音、テロリストたちの話し声、捕らえられている人たちのささやき声。神経を研ぎ澄ましてサーチしていく、そしてズームしていくと何を言っているのかはっきりと聞こえてくる。
「スタンドンという人が、ブランドンがいないことに気がついて心配しているよ。ブランドンは正義感が強いから無理して変な行動に出なけれはいいのだけどって。」
「はぁん、あいつがな・・・・結構私も期待されているようだ。さて、どうしてやろうか。」
「とりあえず、まだわかっていることがあるから、それから判断してよ。」
「わかった。」
「まず、いいことから言うね。殺された人は週激してきた時に撃たれた人たちだけで、それ以降はいないみたい。それと、既に警察が劇場を包囲しているよ。残念ながらいい事はこれだけ、悪いことはまず、テロリストたちはまだ20人ぐらいいる。正面の出入り口以外は全部封鎖されてしまっている。そして、管理室が占拠されて劇場内の監視カメラはテロリストの管理下に置かれてしまった。そして、今それによって僕たちが殺しちゃったテロリストの存在が見つかっちゃった。そろそろ、こっちの方にやってくるよ。」
「おい、やばいじゃないか。」
「そうだね、どうしようか?」
「ふふ、えらいのんきだな。」
「そうでもないよ。奴らが近づいて来たらすぐに分かるんだけど、監視カメラを掌握されたのは結構やばいよね。」
「それなら何とかなると思うぞ。」
ブランドンはそう言って、満面の笑顔で親指を突き立てた。