第四小節 Principal
「さて、もう着きますけど何処に降ろせば良いですか?」
神社へと繋がる石階段も残すところ十段そこら。既に神社の本殿は見えてきていた。
「ここまで来れば大丈夫ですよ」
すっかり彼女が乗り慣れたのか、はたまた俺が背負う事に慣れたのか、全く違和感を感じない。
「分かりました。にしても西園寺さん軽いですね」
俺は男だが、女性にとって軽い事が良い事であるのは理解している。ならば少しくらい褒めてみても構わないだろう。道中、俺が少しでも軽く感じる体勢を追求していた様だし。
「そ、そうですか!?」
「はい、かなり」
俺は別にガタイが良い訳では無いが、恐らく片腕で容易に持ち上げられる。最早この軽さは感動物だろう。そう言えば雪も結構軽かっ――。
「――か、ざ、み、ね、君。あなたは一体何をしているのかしら?」
不意に背後から話し掛けられる。他に目につく物は無いし、恐らく茂みの裏に潜んでいたのだろう。何にせよ女子のやる事じゃないな。
「人助けだと俺は弁明しよう」
これは想定外。いや、こうなるのではないかと考えもしたが無理に忘れていたのである。最悪の事態と言っても良い。
「財布を取りに行ったかと思えばまさか軟派して帰ってくるだなんて。ほとほと呆れ果てちゃうわよ」
「君、人助けは良い事だが、少々度が過ぎるのではないか。軽率な行動は避けた方が良い」
おお雪に流花よ、人に気を付けろとか厄介事に巻き込まれるなと言ったのはあなた達ではなかったか。それが渦の目となってどうする。
「ちょっとした事情で歩けない巫女さんを負ぶって神社まで連れてくるのがそんなに重罪なのか……」
そうぼやき、俺は2人に理解を求めた。が、そんな思いは汲む気が無い様で、蔑むような目の雪は再び喋り出す。
「ねえ裕城……。あたしは確かにあなたの事を信じているけれど……、信じてないのよ!!」
「どっちだよ!?」
意味不明だよ全く。そう言えば似た様な問答を人間好きな自称神とした覚えがあるな。あの時の経験から推測するに、これは長引けば長引くほど泥沼に深く嵌まっていく流れであろう。早々と断ち切りたいところだが……。
「お二方は風峰さんのガールフレンドなんですか?」
この場の全員が崖から蹴落とさんとしているらしかった。尋ねるにしてもタイミングという物があるだろうに。
「いや違いますよ。と言うかその訊き方だと俺に二股の疑惑も掛けられている様な気が……」
「…………? 皆さん神庭の方ですよね?」
流石神庭学園、数多の問題を起こしているだけあって名が知れ渡っている。俺は自室にテレビを置いていないからあまりニュース等は見ないけれど、その悪名だけは承知済みだ。最近の事件と言えば、出張先で重機を数台吹き飛ばした物が有名であろうか。いやはや他とはやる事の桁が違う。良い意味でも悪い意味でも。
「そうですけど、それがどうかしたんですか?」
然り、俺達が神庭の人間であることは間違い無いが、だから一体何なのか。この人に限って偏見と言う事は無いだろうし、何か誤解されている様な気がする。
と、そう俺は考えたのだが、西園寺さんの発言にはそれらしい根拠があったらしい。
「いえ、神庭では……、誰だったかな。確か白鳥と言う人の許可さえあれば、誰が誰と結婚しても構わないって話を少し前に聞いたんですけど。間違いだったらすみません」
その言葉を前にもちろん一同は静止。場は凍り付き、階段の最上段という迷惑極まりない場所に人の壁が成される。
数十秒は経ったであろうか。逸早く硬直から抜け出したのは平素と同じくやはり雪であった。
「え……、それって……」
「つまり……」
俺達が今まであり得ないと考えてきた選択肢が浮上して来ると言う事。どちらにせよ今まで無かった選択肢を採る気など更々無いから構いはしないが、また1つ俺の"普通"に亀裂が入ったことは疑いようが無い。
「そうそう、重婚、近親婚、同性婚、若年婚、選り取り見取りの何でもありなのよねー。まあいつ死ぬかも分かんない境遇の子が多いし、生きてる内に少しでも人生を楽しんでもらっちゃおう、と言うあたしの粋な計らいなんだけどさ。死んじゃったらそこで全てが終わるからね。と、そんな事は置いといて、この島はお気に召したかな?」
「またずっと聞いていたかの様なタイミングで現れますね……、校長」
噂をすれば影とはよく言った物だ。ここがそこそこ広い島であることに加え、この抜群のタイミング、居合わせる確率は限りなく低いだろう。付けて来ていたならばまた話は変わってくるが、そんな事をする意味は無さそうであるし。
「やーん、遥華って呼んでくれないのー、カザミン」
まあこんな事を言う人の行動に一々意味があるかどうかも怪しいものだがな。
「断ります。と言うかそんな重要な事を適当に処理したら不味いんじゃないですか……」
「適当とは失礼しちゃうなあ。遥華さんだって結構考えてるんだぞー」
この発言を聞いて俺は徐々に気付き始める。この頭の悪い発言はアルコールに因る物ではないか、という事に……。いくら白鳥校長とはいえ平常時はもう少し大人らしい事を言う。注意してみればどことなく仕草も覚束ないようだし。酒に滅法強いというのも考え物か。
「考えてるならもうちょっと詳細について説明しなさいよ」
そして雪のこの気丈さも考え物である。
「うーん、詳細って言われても書類に必要事項を書き込んだ物を当事者2人であたしの所に持って来てくれればそれで良いんだよ。後はあたしが判子を押すだけ。その場でめでたしめでたしとはいかないけど申請はすぐに通るかな。現に引っかかった事は無いしねー」
やはり適当なんだな、そこら辺は。なぜ故こんな人間があの島の重要役職というかほとんどトップに立っているのだろうか、正直選定者の神経を疑う。
「ところで校長」
「うん、遥華ね?」
この人が常に変なノリで酒飲みだというのは知っているし、だから例えどんなにふざけた事を言おうとそれ程気にはならない。だがしかし、
「何でこんな所にいるんですか?」
この旅行に何故校長がいるのか、という事だけは疑問であった。




