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一瞬白く幕を張ったその向こうにサエの顔が見えた気がした。それはセピア色と言うよりは白と黒のコントラストで、視力が戻って来ると言うよりも明るさを感じる感覚が戻って来るといった感じだった。ユキは深呼吸を意識してう続けたまま、次第に黒から白に変化していくその様を自分の眼で見ているのだった。
「サエ?……戻ってきた!!だんだん見えてきた!!」
サエは急に話しだしたユキに驚くと、擦っていた手を止めてユキを見つめた。ユキの顔の血が混ざった涙をまた一粒拭って、サエもユキに話しかける。
「一時的なやつだったんだね?……お姉ちゃん薬は飲んだ?……」
サエはユキの心情を思いやり、あえて一時的と言う言葉を使った。発作的なものなら直に回復する、それを待てばいいだけの話だからだ。
「飲んだ!あっ!あっ!戻ってきた!良かった!見えてきた!」
まだ興奮状態の覚めないユキが尻餅のまま飛び上がって喜んだ。サエも安堵の表情でそれに応える。きっとこれはただの前兆なのだろう、これがもしも完全に失明にまで及んでしまった時の事はなるべく考えないようにサエはしていたのだ。いろいろなネットの情報や医療本を誰よりも調べてきたのは他ならないサエだった。当人よりも現実を深く直視してこの病に向き合っていたのだ。そして、幾分落ち着きを取り戻したユキの背中越しに人影が覗いた。それは母だった。並々ならぬユキの叫び声を聞いて駆けつけたのだった。
「お母さん……もうお姉ちゃんは大丈夫だから……」
母も泣いているのがサエには見えた。ユキに気遣う余り感傷的にならないように努めてきたのが、返ってユキの心に傷を負わせていたのかも知れない。そう苦悩の日々をサエに打ち明けたのもつい先日の事だった。母はユキに寄り添うと、声を上げて泣いていた。
「お母さん……ごめんね……」
ユキがそう言って母に手を差し延べると、母はその手を掴んで腕を擦りながら小声で返した。
「ユキは何も謝ることなんてないの……力になってあげられなくてごめんね……」
ひとしきりその場で三人涙を流しながら時を刻んでいた。しばらくして、もう大丈夫だからとユキは二人を部屋から見送った。ユキにはこれから覚悟しなくてはいけない事が山程ある。それは絶えず兆候が見られる症状と、暗く切羽詰まった先の行く末だ。そんな状況においても今のユキにとっての未来はナオトなのだ。今はそれしか思い浮かばない。それ程までに悲しいくらい全てだったんだ。またいつ暗闇に落とされるかと言う不安と、それでも生きて行かなければいけないと言う暗黙のルールを抱きしめて、ユキはまた日常に自分の場所を探していた。灯りは消さないまま、眠るのが怖いので赤く腫れ上がった目のまま静かに一点を見つめていると落としていなかったパソコンからメールの着信音が鳴った。ユキは見え辛い腫れた目を細めてメールを開く。
「サービス終了の重要なお知らせ」




