BL
「バンド組みたい」
「組んでるだろ」
「お前とバンド組みたい」
「だから組んでるだろ」
「お前と二人だけでバンド組みたい」
「気持ち悪い」
飲み干したコーヒーの缶をごみ箱目掛けて投げた。外れた。
「へたくそ」
そう言うと、りじゅ(本名:中野幸太)は歩き出した。
りじゅは空き缶を拾いごみ箱に入れた。
「ありがとう幸太」
「本名はやめろ」
「大体りじゅってなんだよ」
「董卓の知恵袋だよ」
「知らねえよ」
俺はブランコに座る。深夜の公園は静かで良い。
「夜のブランコって濡れてるよ」
りじゅは心配そうに見つめる。
「いい、大丈夫」
ちょっと不安になる。
「………『ヒカル』ってなんだよ。直球すぎるだろ」
「俺は素直なんだよ」
りじゅもブランコに座った。俺はケータイを開き、天気予報を見た。
そろそろ雨が降りそうだ。
バイクが一台通り過ぎて行った。
「『作詞 りじゅ』の曲はどんどん減っていくな」
「………しょーがないじゃん」
「………好きなこと書けばいいじゃん」
「『書きすぎ』なんだよ俺は」
りじゅは立ち上がり、砂場に向かいだした。
「誰が書いたって、『作詞 りじゅ』になるんなら、俺要らないよな」
りじゅは砂場の前でくるっと振り返り、背中から倒れた。めしめしっと砂が鳴った。
「今の良いじゃん、歌詞にすれば」
「怒らせるのが上手いなヒカルは」
りじゅはしばらく砂場に倒れていた。
「………助けろよ」
りじゅは言った。俺は砂場に向かう。寝ているりじゅの右手首を掴む。ゆっくりと引き上げる。
「………やっぱり、いい」
ぼんやりと空を見上げながら、りじゅは呟いた。俺は手を放した。りじゅの右腕が砂場に落ちた。
「なんか、雨降りそう」
機械的な声でりじゅは言った。
りじゅはのそのそと立ち上がった。
りじゅはパンパンと服を叩き砂を落とし始めた。
「砂を舐めてた」
りじゅは笑った。俺は笑えなかった。
りじゅはケータイをかざし砂場と自分を撮っていた。
「ブログにあげよう」
りじゅはケータイをいじりだす。そろそろ帰ろう。
「お前さあ、俺のブログ見てる?」
ケータイを見つめながら、りじゅは訊ねた。
「たまに、見る」
「俺さあ、いろんな奴とツーショット撮ってるじゃん」
「うん」
りじゅは背中を向けた。
「でも、あのブログにはさ、お前とのツーショットだけは無いんだよ」
「…」
パタン、とケータイの閉じる音がした。嫌な予感がする音が。
りじゅが振り返った。遠くでサイレンが鳴っている。
「なんでかわかる?」
りじゅは恥ずかしそうに聞いてきた。俺もなんだか恥ずかしい。
顔が赤くなってくる。暗くてよかった。
「………わかんない」
「お前が全然、俺と遊ばないからだろ!!」
りじゅは俺を砂場に押し倒した。りじゅはケラケラと笑う。
ゴロゴロと雷が鳴った。頬に雨粒が落ちた。
やばい、雨が降ってきた。いや、雨じゃなかった。