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箱庭で異彩を放つ花 ローズ・レクチャー伝  作者: undervermillion
第1部 第1章 こども時代
9/22

第 8話 最初の出会いは、あっけないほど短いものだった。

私が、前回の話しに出なかったのは、私の出番が無かったのではなく、あえて出ないことで私の存在感の大きさを理解してもらおうと思ったのだ。



「先生(笑)、まもなく村に着きますよ」

考え事をしていた私に声をかけてくれたのは、青い髪をした優男風の男だ。

長い髪を後ろで束ねている。

「先生(笑)、何をわけのわからないことを言っているのですか」

もう1人、同じような顔をした青年も指摘する。

彼は、髪を後ろにかき上げながら答えた。

「まあ、いつものことですけどね。

先生(笑)にとっては」

青色の髪をした同じ顔をした男たちが笑っている。

優男風の風貌に騙されてはいけない。

彼らの性格はかなり良くない。


私は不躾な二人の会話を無視して、何のためにここに来たのかと、ここまで来るのに時間がかかってしまった理由について、回想してみた。




部屋の中央にある机の前で、青色の髪をした同じ顔をした二人の青年が、机に座っている、中年の黒髪黒目の小太りした男に詰問している。

「先生(笑)、早く原稿を仕上げてくださいよ」

詰問された男は、机の上にある、真っ白な紙を目の前にして、うんうんとうなりながら、

「わかっているさ」

と答えたが、青年たちは、全く納得していない。


オールバックの髪型をしている青年レフトスが指摘する。

「その割には、進んでいないようですが?」

「督促されると、進みが遅くなるのだよ」

男は平然と答える。

「いつもと変わらないようですが?」

今度は、長い髪を後ろでとめている方の青年ライトンが指摘する。

「それに、これまでより執筆期間が、6倍伸びたにも関わらず遅れるとはね」

次はレフトスは指摘する。

「うるさい。原稿料が入金されるまで、6倍も待つ必要ができたのだ。

そうなれば、仕事も6倍しなければならない。

結局、忙しさはこっちの世界でも変わらない」

男は苦悶の表情で答える。

「まあ、売れればいいのですけどね」

「そうですね。

まあ、先生(笑)のことですから」

「「期待していませんけどね」」

「同時に言うな」


男は重たい体を立ち上げると、扉に向かって歩き出す。

「先生(笑)、どこにいかれますか」

レフトスは指摘する。

「取材だよ、取材」

「もう、締め切りですよ」

「だからこそ、取材にいかなければならない。

理由がわかるか?」

「わかりません」

ライトンは首を横に振る。

「いつものように、男のロマンとか言わないでくださいね。

あのときのように、本当に残念な結末を迎えることになるのがオチですから」

男は、青年達の指摘に平然と答える。

「大丈夫だよ。

異世界チート能力を持つこの私に、不可能はない」

「巨人の腹の中に収まっていたくせに」

「原稿を仕上げる能力は、チートされていないくせに」

レフトス、ライトンは次々と否定する。

「うるさい、うるさい!」

男はいつのまにか、荷物をまとめていた。

男の書斎は片づいたことは一度も無いが、冒険の荷物だけは何故か一瞬で片づいてしまう。


「やっぱり旅に出るのですか?」

「ああ、久しぶりにあの男に会わないといけない」

「そうやって、王都から逃げるのですね?」

「ちゃんとした、理由がある」

「本当ですか?」

青年達はいぶかしむ。

「昔、あいつから手紙が来てな。

顔を出せと言ってきた」

「たしか、顔を出せではなくて、返事を出せだったと思います」

「それに、王都で誘拐事件や行方不明事件がなかったか調べてくれという内容だったはずですが」

「どうして、それを知っている!」

男は驚愕した。


「先生(笑)が締め切りで、忙しいので代わりに読み上げてくれと頼まれたはずですが」

「そうです。

先生(笑)の友人が少ないおかげで、手紙がほとんどこないのでいいですが、手紙を返さないと全く来なくなりますよ」

「だから、直接顔をだすのだ」

「はいはい」

レフトンは頷いた。

「無断で逃げ出すよりはましだ。

つきあうか」

2人の青年は両手を前に出してあきらめの表情をしながら、男の後に付いていった。




「旧友がどうしても来てくれと懇願されたので、原稿を仕上げた私は、まっすぐにこの村にたどり着いた」

私は回想を終えると、ありのままの真実を述べる。

「原稿はいっこうに進んでおりません。

先生(笑)、ねつ造はいけません」

「先生(笑)が、道に迷ったせいで、予想よりもずいぶん時間がかかりました。

ここも、先生(笑)が、嘘をついている部分ですね」

青年達が指摘する。

旅に出てから、彼らの指摘は回数を増やしていた。


「……。

想像部分ぐらい、好き勝手に作ってもいいだろう」

「原稿を仕上げてもらいましたら、一切文句は言いません」

「そうですね。

かなわぬ願いですけども」


「文句を言わないで、村に入るぞ」

「はいはい」

「ようやく着きましたね」

3人は、入り口の門をくぐり抜けていた。



私は、村長の家でくつろいでいた。

「お久しぶりです、先生(笑)」

「久しぶりだな。

たしか、……」

「ロキウスです」

村長はわざわざ名乗った。

私が村長の名前をど忘れしていると勘違いしているようだ。

失礼な。


「ロキウス、元気だったか」

「……。そうですな」

「はい、どうぞ」

黒目黒髪の子どもが私の前にお茶を差し出す。

「この子は」

「初めまして、ローズ・レクチャーです」

子どもは丁寧にお辞儀をした。

私は、自分の名前と職業を名乗ると、子どもは目を輝かせた。

「あの「魔法の基本について」を書かれた先生ですね。

著書を読ませていただきました」

「どうだい、私の実力を。

こんな片田舎でも、きちんと先生と呼んでくれる読者がいるのだぞ」

私は、周囲に自分の文才を見せつける。


「悪かったな、片田舎で。

嫌なら、帰ってもらって構わないぞ」

村長は、私を睨み付ける。

「すいません。

そんなつもりではなかったのですが」

「まあ、いつものお前らしいな」

「では、しばらくゆっくりしてもいいですか」

「残念だが、先客がいるのでね」

村長は視線を部屋の入り口に移動させる。

「待ちくたびれたわよ、先生(笑)」

視線の先には、セリエがいた。

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