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箱庭で異彩を放つ花 ローズ・レクチャー伝  作者: undervermillion
第1部 第1章 こども時代
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第 5話 覚えた知識がいつ役に立つのかわからない。

「本当に君は、子どもなのかい」

「どのように思われてもかまいません。

それでも、私がローズ・レクチャーであることは変わりませんから」

「……。たしかにそうだ。

すまなかったね」

セリエは目の前の子どもにため息をついた。

子どもは今日何回目だろうと考えたはずだが、口に出すことはなかった。


ローズは、セリエから様々な質問を受ける。

普通であれば、8歳程度の子どもは冒険者の話を聞きたがるはずである。

セリエは、世界各地を回っているため、子どもからせがまれると冒険譚のひとつやふたつ語り聞かせていた。

子ども達は、冒険者にあこがれの視線を向けるが、セリエは決まって、冒険の厳しさを教える。


死の危険が高い冒険は、普通の人間では無理なのだ。

未来ある子ども達の命を無駄に散らせる訳にはいかない。

「家族を、友人を悲しませてはいけないよ」

セリエは、自分の考えをしっかり伝える。

だが、ローズはセリエにはほとんど質問はしなかった。

ローズが質問したのは、料理の好みとか、就寝時間や起床時間など、セリエが村長の屋敷の生活を快適に送ることが出来るための質問がほとんどだった。



セリエがローズに他に聞きたいことはと、話を振ると

「最近の村の周辺に出没するモンスターの傾向をお話ししますので、変化が無かったかどうか教えて下さい」であった。

セリエが、「どうしてそのような質問を?」とローズに尋ねると、

ローズは、「警備隊の人々に説明するためです」と即答する。

この村の警備隊は、村から盗賊の進入を防いだり、薬草を採取する村人からモンスターの襲撃を守ったりしている。

村の子ども達があこがれる職業と言える。


セリエは次に、「警備隊になりたいの?」と質問すると、

「主人からのご命令が有れば」と即答する。

「なりたくないの?」と、意地悪に質問すると

「この体では、役に立ちませんから」とやんわり否定する。


「体を鍛えたらいいじゃないの?」

「この体で鍛えても、成長は期待できません。

それに、この年齢で体の動かしかたを定めても、応用が利かなくなりますから」

とすまして、答える。

「強いて言えば、攻撃をかわすための目を鍛えるために、攻撃を回避する訓練ならば受けたいですね」

と、言ってのける。


セリエは「なら、魔法の練習は?」としつこく食い下がる。

「魔法ですか。

見たことがないので、判断できかねます」

「役に立つわよ、いろいろと」

今度は、セリエが話し始めた。

「万能ではないけれど、傷を癒したり、モンスターを倒したりできるわよ」

「そうですか」

ローズは、しばらく考え込んでいた。

「確かに便利そうですが、自分自身がその能力を覚えるだけの価値があるかわかりませんね。

場合によっては、人にお願いした方が効率的なようですし」

「あなた、何者なの?」

「ローズ・レクチャーです」

「わかっているわよ」

「それならばよろしいのですが」

ため息をつきそうな表情だ。

だが、この子どもはそんなことはしない。

だからこそ、余計にセリエは腹を立てている。



「ともかく、魔法が使える可能性が高いかどうか確認してみよう」

「そうですね。

自分に何が出来るのかわかった方がいいでしょう。

ぜひお願いします」

「素直なのだけど、なにか腹が立つ」

セリエは頬をふくらませた。


「魔法の基本的な発動方法については、知っているかしら」

「詠唱魔法、動作魔法、媒体魔法ですね」

「知っているの?」

「勉強しましたから」

ローズは、そう話すと「魔法の基本について」に記載された内容を話し出す。

あの本は、魔法の知識がないものでも理解しやすいよう、私が物語形式にしたのだ。

この世界で最も売れた本の一つだ。

「関係ないエピソードが多すぎでしたね」

「合法的な、魔法使用による風呂ののぞきかたの話なんか、最低よね」

あのエピソードがなかったら、魔法の使用制限に関する法律や防御するための魔法の開発が、あそこまで革新的に発達はしなかったはずだ。

ちなみに、記載された内容のとおりに実行すると、現行法ではきちんと処罰される。

魔法が使用できるからといっても、よい子のみんなはまねをしないように。


「なら、魔法の勉強も不要ね」

「すいません。

勉強したというのは、文字の読み書きの方法です。

本に何が書かれているのかはわかりましたが、実践できるかどうかは別問題だと考えていますので」

「もう、わかったわ」

セリエはあきらめた口調をする。


「念のため、確認するけど、本当に魔法は使えないわよね」

「ええ、適切な導師がいなければ、魔法事故が発生したときに困りますから」

ローズは当然といった顔で答える。

「ローズなら、魔法が使えると言われても信じてしまうわ」

「私は、ふつうの村人ですよ」

「ふつうの村人が、そこまで理解できないわよ」

「うちの村の識字率を甘く見ていませんか」

「文字が読めることと、その内容を理解することは別の話よ」

「確かにそうですが」

「それとも、魔法の訓練よりも議論のほうがしたいのかしら」

「それもたのしそうですが、優先順位としては魔法の習得が先のようですね」

「出発するわよ、ローズ」

セリエとローズは、村長の家を後にした。

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