第 4話 目の前の存在が子どもとは、とても信じることができなかった。
「失礼ですが、セリエ様は冒険者ですか」
「ああ、そうだ」
少女は質問に答えると、子どもに視線を移す。
「君は何歳だ?」
「申し訳ありません」
子どもは先ほどよりも深く頭を下げると弁解する。
「とりあえず、8歳ということにしておりますが、正確なところはわかりません」
「ローズは、ここに来るまでの事を覚えていないのだよ」
村長は簡単に一年前の事を説明する。
「なるほどな」
セリエが話を聞き終わると頷いた。
「ローズよ」
「なんでございましょうか」
ローズは直立不動のままで、セリエの話をきいていた。
「どうして、私が冒険者だと思った」
「お一人で来られたからです」
ローズは即答した。
セリエは、意地の悪い笑顔で質問する。
「詳しい説明をしてもらっていいかい」
「少しばかりお時間をいただいてよろしいでしょうか」
ローズは、村長に了解を求めた。
村長は面白そうに許可をあたえる。
「ありがとうございます」
「この村の周辺には、モンスターが出現します。
ここ以外でも、同じように出現するとも伺ったことが有りますが。
通常であれば、十人以上で移動するところを、お一人でここまで来られたことを考えましたら、かなり腕の立つ冒険者であるとしか考えることができません」
「面白い、子どもだね」
セリエはつぶやくと、ローズに質問する。
「他の人たちが、別のところに行くとは考えないのかな」
「考えませんでした。
先ほどまで、道具屋の手伝いをしていたところ、ご主人様から呼び出しを受けました。
大勢で来られたら、道具屋が忙しくなることを、ご主人様は承知しております。
にもかかわらず、私を呼び出すのですから、少なくとも全員がご主人様のもとへ訪ねられたと考えました。
あとは、念のため村の子どもにお願いして、門番の人から確認をとりましたが」
「本当に、面白い子どもだね。
というよりも、本当に子どもなのかい」
セリエの目は笑ってはいなかった。
「よくわかりません。
この村に来るまでの私は何者であったか、いまだにわかりませんから。
ただ、今はローズ・レクチャーであると自信を持って言えます」
「そうか、済まなかったな」
「セリエ様、お気遣いは無用です。
同じ事を、ご主人様からも言われますから」
「……。そうだな」
村長は笑っていた。
「ところで、村長よ」
「なんだい、セリエ」
「頼みが有るのだが」
「先生(笑)が来るまで泊めさせてくれ、というのなら構わない。
いつものことだ」
私がこの村に来るのが遅れるのは、いつもの事ではない。
私がこの村を訪れるのはまだ、4回目なのだから。
「いつものことなのか。
まあ、先生(笑)の事ならば納得できる。
感謝する。
だが、私の頼みは別にある」
少女は、そばにいる子どもに視線を移す。
「興味を持ったので、しばらく預からせて欲しい」
村長は驚きの声を上げる。
「何だと!」
だが、すぐに表情を笑顔にすると
「そうか、そうか」
村長は1人納得の声を出す。
「ローズ、セリエの相手をして欲しい」
「……、かしこまりました」
ローズは、セリエと村長を交互に見ながら話を続ける。
「ただ、女性には慣れておりませんので、お気に召すかわかりませんが」
「……」
「……」
村長とセリエはしばらく無言で、ローズを凝視すると、お互いの顔を眺めている。
「村長よ、貴様にそんな趣味があったとは知らなかった。
いや、別に人に迷惑をかけないのであれば、双方合意の上であれば、問題はないが。
ただ、できれば、知りたくない話だったな」
「セリエ、何か勘違いをしていないか。
俺は、子どもをもてあそぶような趣味などない」
「知られたからといって、無理に否定しなくても構わないぞ。
村長とのつきあいを変えるつもりはない」
「勘違いするなと、いっている。
ローズとは、そんな関係ではない!
ローズ、お前からも何か言ってくれ」
村長は、怒りを抑えながら、ローズに話をうながす。
「誤解を招くような表現をしたのであれば、謝ります。
申し訳ございません。
誤解をまねいたのは、女性には慣れておりませんという言葉だったと思います。
私が申し上げたかったことは、この村にはセリエ様のような年齢の女性がおられないので、失礼な事を言ってしまうのではないかと、思ったからであります」
ローズの言葉に、言い合いをしていた2人は急に押し黙った。
「村長よ。
この子どもに、私の事を話したのか。
だから、私が冒険者であることを知っていたのではないか」
「それはない」
村長は即座に否定する。
「知っていたら、今のような失礼な事を言うはずがない。
だいたい、セリエが訪れたのは、今回が初めてだ」
「……。そうだな。
ああ、そうだな」
セリエは村長の指摘に納得する。
「セリエ様。
申し上げございません。気にさわるような事を言ってしまったようで」
子どもは深く頭をさげる。
「ローズよ、気にすることはない。
むしろ、興味がわいた。
しばらく私の話相手になってくれないか」
セリエは、ローズの目の前に右手を差し出す。
「かしこまりました、セリエ様」
ローズは、頭を下げながら、セリエの右手をしっかりと握りしめた。