第 3話 少女の装備は、この村を訪れるにしては、あまりにも軽装だった。
「呼ばれたのは、構わないけど、ちゃんといるのかな」
金色の長い髪の少女は、目の前の村を前にして一言つぶやくと、入り口の門をくぐっていった。
「こんにちは」
少女は、門に立つ武装した男から、声をかけられる。
「ああ」
少女は、片手を挙げて返事をする。
「見知らぬものだな、出身と名前を聞かせてもらおうか」
男は、手にした槍を少女の先に突き出す。
これから先を、通させないための牽制だ。
殺気は全く込められていない。
「セリエだ。ゼリンクラから来た」
「ゼリンクラか。村長の知り合いか?」
「いや、私の知り合いが、村長の友人らしい」
少女は、首にぶら下げていた、銀色の鎖を引き寄せると、小さな銀色のメダルが現れた。
「冒険者か」
男は、少女の周囲を改めて観察する。
男が少女の周辺を見渡しても、少女の周辺には誰もいないことに気がついて驚愕した。
モンスターが登場するこの世界では、一人旅というのは極めてまれな事である。
町の周辺で、弱いモンスターを倒したり、薬草を採取したりする程度であれば問題ないが、数日も一人旅を行うことは自殺行為だ。
普通であれば、馬車で移動したり、徒党を組んだりするものだ。
それは、戦闘に特化した冒険者であっても例外ではない。
普通の人間では通常、一定以上のモンスターには単独で勝てないのだ。
まあ、私のようなチート能力でもあれば、問題ないが。
……今は、私の事は置いておこう。
一年前に、倒れた少年が村の前で発見されたのは、本当に例外である。
いまだに少年が倒れていた理由は謎のままだった。
少女がひとりで、他の村から来られるはずもないと考えた男は、視線を少女の装備に移動した。
少女の武装は、腰にぶら下げた小さなナイフしか見つけることが出来なかった。
そして服装は、村人と同じような格好であった。
そして、少女が持っているのが小さな背負い袋だけであることを確認すると再度驚愕する。
旅をするには、少女の装備は軽装備すぎるのだ。
近所で買い物を行うくらいの装備品だ。
そして、服装は全く汚れていない。
数日でも旅をすれば、嫌でも汗のにおいが服につく。
毎日着替えをして、川でキチンと水浴びを行わない限り、臭いは取れない。
一体この少女は、何者なのだろう。
男の中で延々と続く、思考の迷宮を打ち破ったのは少女の声だった。
「通ってもいいかな」
「……。ああ、すまん」
男は、槍を上に上げると一礼して少女を見送った。
「何者なのだ、いったい……」
「先生(笑)は、まだですか?」
「ああ、先生(笑)はまだだ」
先ほど、村に入った少女とこの村の村長が、村長の屋敷の中で優雅にお茶を飲みながら、話をしていた。
村長は、普段は村の作業がしやすいよう、軽装で過ごしていた。
村長とはいえ、300人ほどの小さな村だ。
自分自身が40歳にならないこともあり、肉体労働に参加することもある。
だが、今日は客人対応ということもあり正装に着替えていた。
一方で少女は、先ほどまで身につけていた姿のままである。
ちょっとみただだけでは、村の中で生活する他の少女達とあまりかわらない。
しかし、少女の優雅な姿勢と態度から、生じる感覚はどこかの貴族と変わらない存在感を示していた。
当然、歓談をするだけの状況なので、威圧感とかは現れない。
「……。巻き込まれましたか?」
「そうでしょうな」
2人とも笑いが出るのを抑えるように我慢していたが、
「……くくく」
「……ははは」
抑える事が出来なかったようだ。
「さすが、先生(笑)ですな」
「そうだな」
「楽しそうですね」
黒目黒髪の子どもが2人の前に現れると、「失礼します」と言いながら、お茶用のお菓子を差し出した。
質素だが、清潔感あふれる服装は、その年齢にかかわらず、きちんと家の手伝いを任されていることを示していた。
「ああ、そうだな」
村長はお菓子を受け取ると、子どもの質問に答える。
「共通の友人の悪口を言い合うことぐらい、楽しい事はないぞ」
村長は、少女に流し目を送ると、
「子どもには、悪影響だな」
少女もほほえみを返しながらお菓子を受け取る。
だが、2人ともしばらくは笑うのをやめなかった。
「村長には娘がいるとは聞いていましたが?」
少女は、村長に問いかける。
「こいつは、ちょうど一年前に倒れていたところを見つけてね、家の手伝いをさせている」
「ローズ・レクチャーです」
子どもはゆっくりと頭を下げる。
「セリエだ」