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箱庭で異彩を放つ花 ローズ・レクチャー伝  作者: undervermillion
第1部 第1章 こども時代
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第 2話 倒れていた子どもについて、村人は誰も知らなかった。

ローズ・レクチャーという人物の出生については、誰も知ることはできない。


彼の存在が、最初に知られたのは、クレルダン王国の西部地区にあるレナロダという村の前で、子どもが倒れているのを近くの村人が発見したことによる。

発見されたとき、子どもはこれまでの記憶を完全に失っていた。

結局、彼の記憶が取り戻されることはなかった。

このため、彼がいつ何処で産まれたのかは、彼の両親以外わからないのだが、今日まで彼の両親を名乗り出たものは存在しない。



子どもは、黒目黒髪をしていて、この地域ではあまりみられない特徴であったが、全く存在しないわけでもないので、村人達は不審に思わなかった。

村人達は、それよりも、なんとかこの子どもを助けようとして、倒れていた子どもを村長の屋敷に運んでいった。


子どもが村長の家に運ばれた理由は、子どもが見知らぬ存在だったので、人が集まりやすい場所で確認するためと、ここには簡易ではありながらも医療設備が整っていたからである。


村長は、運ばれてきた子どもの体を観察する。

村長は、かつて王都で学問を学んだこともあり、周囲から一目置かれる存在であった。

村長が子どもの体をじっくりと調べた。子どもの体は汚れていたが、大きなケガもなく、倒れていた原因は空腹によるものだと推測した。

子どもの状況を観察していた村長はとりあえず、子どもに食事を与えた。

とはいえ、子どもは気を失っていることから、果物を細かく砕いて飲み込みやすいように加工し、少しずつ口に入れる。

子どもは、翌日の朝には目を覚まし、夕方までには話が出来るほど回復していた。


子どもは、自分の状況を確認して、助けてくれた村人達に感謝した。

しかし、村長からこれまでの経過を問われると、しばらく考える様子を見せたが、結局「何も思い出せない」と答える事しかできなかった。


数日が経過し、子どもは歩くことが出来るほど体力が回復した。

村長に呼ばれた子どもは、改めて村長にお礼をいうと、なんとか雇ってくれないかと頭を下げて頼み込んだ。


村長は、子どもの年齢にふさわしくない態度に思わず驚愕した。

子どもは、自分を守るべき存在がいないことを理解し、自分が自分で稼いで生活しなければならないことを理解したのだ。

判断すべき材料である、これまでの経験を失った状態で。


村長は、反射的に子どもの願いを聞き届けた。

一方で、村長は子どもが大変高い教養があるのではないかと推測した。

そのため村人に、少年が発見された周辺を捜索するよう依頼し、少年の身元が明らかになるものがないか調査していた。

結局、子どもの身元がわかるものはなく、また子どもの足跡も付近の村とは関係のない森へ続く道の途中で切れてしまっていることから、どこから子どもが現れたのかわからなかった。


念のため村長は、徒歩で3日以上かかる付近の村々に少年の特徴を伝えた手紙を送り、調査をお願いしていた。

これも、結局徒労に終わった。

念のため、都に住む友人に、行方不明の子どもの噂が無かったか問い合わせたりもしたが、返事は返ってこなかった。


別に、私が無視した訳ではない。

締め切りに追われて忙しかったからだ。

現に、一年後、私は村長に話を聞くため、締め切りから逃れるように、この村を訪れている。


子どもは、自分の名前ですら忘れており、子どもを呼ぶときに不自由するという理由から、村長はローズ・レクチャーという名前を子どもに与えた。

子どもは喜んで頷いた。


村長は、ローズの扱いをどうするか悩んでいた。

結局、村長は自分の世話を行わせることにした。


ローズは、記憶や知識は欠けていたが、かなり頭が良いらしく、すぐに物事を吸収していった。

そして、わがままを何一つ言わず、村長の言うことに従っていた。


村長には娘がいた。

娘は7歳で、ローズと同じぐらいの年齢だと思われていた。

そして娘は、ローズよりは少し背が小さい。

ローズは、村長の娘に対して、村長と同じような態度で接していた。


ローズは、驚くべき事に、子どもながら自分の立場がわかっているようだ。

食事は、他の使用人と一緒にとり、寝室も使用人と同じ部屋で休んでいた。

この子どもは使用人の息子で、何かの事情でこの村にたどり着いたのでは無いかと、村長は推測するようになった。

賢くて、従順であるならば、今のままで問題はあるまい。

村長は、3ヶ月程度でそのような結論を下した。


村には、文字の読み書きを教える元冒険者がいた。

昔は、王国内を旅する冒険者であったが、引退して、子ども達に文字を教えることで生計をたてていた。


彼は、村長が王都で募集した。

冒険者は、基本的に若い間にしか勤まらない。

年を取った冒険者は、店を開くか、技術を教えるか、誰かに使えるか選択することになる。

一生悠々自適の生活ができる冒険者など、ほとんどいない。


村長は、娘と一緒にローズに読み書きを学ばせたのだが、半年ほどで元冒険者からお願いされた。

「自分と同じぐらい読み書きが出来るようになったので、ローズに教えることが無くなった」と。

村長は、ローズを呼び出して確認したところ、授業を受けるのにお金がかかるので早く覚えることが出来るように努力したと答えた。

村長はため息をついて、今後どうしたいのかを尋ねると、ローズはしばらく考えて、家の仕事がないときは、商売の勉強をしたいと答えた。


村長は村にある雑貨屋の主人と相談し、ローズに主人の手伝いをさせることにした。

村人は、ローズの事をかわった子どもだと思ったが、それ以上の事は考えることはなかった。

すでに、村人の一員としてみなされていた。


そして、少年が村の入り口で倒れているのを発見してから一年後、1人の少女がこの村に現れる。


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