第10話 冒険者になるために。
レフトスの指摘に、
「そうですね」
と、ローズは答えると黙ったまま俯いていた。
「それでは、勉強して、魔法学園高等部へ入学します」
ローズは顔を上げると、真剣な表情で答える。
「そうか、勉強をがんばるのだぞ」
私は、ローズの両手をつかんで、ローズの決断を支持する。
「はい、先生」
ローズはにっこりと微笑んだ。
「さて、そうなると講師を雇う必要があるな」
私は、腕を組んで考える。
「先生に教えて貰いたいのですが」
「やめたほうが、いいですよ」
ライトンは即答する。
「先生は魔法が使えないのですか?」
「私にだって、1つや2つくらい魔法は使えるよ」
私はローズの質問に答える。
レフトスとライトンの苦笑いの表情を無視して、私は自分専用のいわゆる「チート魔法」を起動させる。
私は呪文を唱えると、私が3人に増えた。
「どうだい」
「ローズ君」
「すごいだろう」
私たちは、1人ずつあいさつをする。
「3人とも本物だよ」
「しかも、能力は分身前と同じだよ」
「さらに、分身から戻れば3人分の記憶を覚えているよ」
私たちは簡単に魔法の効果を説明する。
「すごいですね!
分身したら、先生の著作がどんどん出来ますね!」
ローズの賞賛の言葉に対して、私たちは顔を俯かせ、レフトスとライトンは苦笑する。
ローズが不思議そうな表情を見せると、
ライトンが遠くを見るような視線で、話を始めた。
「あれは、魔法が完成した日のことです……」
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あの日、書斎で執筆作業をさぼりながら作業をしていた、先生(笑)が椅子から立ち上がると、大きな声で騒ぎたてます。
「これで、完成だ!」
「おめでとうございます」
先生(笑)の言葉に、私はしぶしぶ賞賛の言葉を贈りました。
「珍しいこともあるものだ、明日の王都は雪かもしれない」
「先生(笑)が、初めてまともな魔法を編み出した事に驚きです。
明日の王都は雪かも知れませんね」
「それでは、降雪魔法を準備しなければ」
レフトスが調子に乗った先生(笑)に対して、適切な反撃をしましたので、私も追撃しました。
「この魔法で私が3人になれば、執筆量が3倍になる。
三交代制にすれば、常時執筆が出来るな」
先生(笑)は、寝る間を惜しんで開発した魔法の成果を試そうとします。
「それでは、いったん失礼します」
「先日のように、変な物を喚ばないでくださいね」
レフトスは、いち早く危険性に気付いて退室し、私もあまり効果のない注意だけを言ってレフトスに続いて退席しました。
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「私の魔法の行使には、精神集中と、ちょっとした乙女心が必要だ。
2人は気を利かせて、私を1人にしてくれたようだな」
私は、ライトンが一息ついたところで、補足説明をする。
「おとめごころ?」
魔法少女が輝いているのは、乙女心があるからに決まっている。
「なくても、魔法は使えますよ」
「だいいち、先生(笑)がおとめごころを使ったら、悪趣味そのものです」
「それに、私たちが部屋から逃げたのは、先生(笑)が魔法に失敗しても良いように、避難しただけです」
「それよりも、話を続けます」
ライトンは話を続けた。
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「どうだ、上手くいったぞ」
左側にいた先生(笑)が自慢していました。
「私に不可能など無いのだ!」
真ん中にいた先生(笑)は、誇らしげな顔で断言しています。
「今日から私は、異世界チート魔法作家「斑鳩茂市」だ!」
右側の先生(笑)は、レフトスと私の前で宣言しました。
「異世界チート魔法作家はともかく、たまっている原稿を仕上げてください」
私は、先生(笑)達に指摘しました。
「そうです。
「分身したら、いくらでも仕事するから」と言われて、いろいろと先延ばししていますからね。
さっさと仕上げてください」
レフトスが、手元に用意した、依頼原稿リストを読み上げました。
「よし、予定通り3交代制で始めるか。
じゃあ、まず君が頑張ってくれたまえ」
先生(中)が、先生(右)に話しかけます。
「やだなあ。
こういうときは、最初に言い出した人から始めないと、誰もついてきませんよ」
先生(右)が、先生(中)に切り返します。
「そう言って、なにかと屁理屈を言ってさぼるつもりか。
まったく、君という人は。
お前からも、びしっと一言いってくれ」
先生(中)は先生(左)に視線を移します。
「そうですよ。
これだから、私の評価が落ちてしまうのです。
でも、仕方ありません。
右手ぷるんぷるん病が完治するまでは、私は執筆できませんのでお二人で頑張ってください」
先生(左)は先生(右)と先生(中)に頭を下げます。
「そうか……」
「それなら、仕方ないな」
先生(右)と先生(中)は、先生(左)の言い訳に妙に納得した。
「これまで、君たちに内緒にしていたのだが、持病の脳みそざわざわ病が再発してね」
「私も、尾てい骨もさもさ病が無ければ、一番に執筆するのですが」
先生(右)と先生(中)がそれぞれ、自分の病状を披露すると、3人の中でなにかを理解したという雰囲気になりました。
「と、いうわけで」
「しばらく、お休みします」
「ごめんね」
先生(笑)達は、私とレフトスに話しかけてきました。
「そんな言い訳、通用すると思いますか?」
レフトスが肩を震わせながらつぶやいた。
「それくらいの病気、異世界チート魔法先生(棒)でしたら、即時に回復しますよねぇ」
私も怒気を抑えながら、先生の能力を指摘する。
「げ、原稿を書きたくなるまで、この病気は治らないのだ!」
先生(中)が、私の怒気に怯えて後退さながら、病状を説明する。
「そんな病気など、気の迷いです」
「私たちが、物理的な攻撃で正してさしあげます」
レフトスと私は3人の治療を開始した。
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「……と、いうことがありました」
ライトンは、残念そうな表情で話を終えた。
「なるほど、わかりました」
ローズは納得した表情で頷く。
「私には他にも、魔法が……」
レフトスが私の話をさえぎる。
「先生(笑)の魔法は、先生(笑)しか使えません。
今の話は、ローズ君の家庭教師をどうするかであって、先生(笑)の魔法の話ではありません」
「そうだな」
私は、レフトスの指摘に納得した。
「話を戻して、誰を家庭教師にするかなのだが、君たちは思い当たりがあるかい?」
私はレフトスとライトンに視線を移す。
「そうですね、エルクさんはどうでしょうか?」
ライトンが私の知人を提案する。
「たしか、先月から北方辺境で、遺跡研究を開始していたはずですが」
「遺跡研究か。5年程度は動けないだろうな」
私は、レフトスの指摘に残念そうな声をあげる。
「では、ロークス元教官はどうでしょう。
来月、中等部の講師を退官する予定だと聞きましたが?」
「彼なら、故郷のベルセンスで町長になると聞いたぞ」
ライトンの提案に対して、私は彼から聞いた話を思い出す。
「ベルセンスはここからかなり離れていますし、町長ならお忙しいでしょうね」
「そうだな」
私は、どうするか考えていた。
突然、私たちの背後から声が聞こえる。
「君たちは、何の相談しているのかな?」
「げっ、カスケード!」
私は思わず振り向いて、部屋に侵入した人物の名を叫んでしまった。
第2章が完結しました。
評価や感想をして頂きますと幸いです。
ここで、残念なお知らせです。
斑鳩茂市先生との協議が不調に終わったため、第3章以降の掲載が出来なくなりました。
深くお詫び申し上げます。(何故か、「まえがき」は問題ないそうです)
最終的な協議の結果、次回「とりあえずの未完結編」を掲載することで決着となりました。
楽しめるかどうか解りませんが、とりあえずの最終話をお待ち下さい。