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第 9話 少年の選択肢は限られていた。

「というわけで、気がついたらここに転移されたと」

「はい」


私は、正確に内容を聞き取るため、ローズに対する4回目の聞き取りを行っていた。

「先生(笑)、物忘れがひどいからって、4回も同じ話を聞くなんてひどいですよ」

とレフトスが指摘をすれば、

「いっそのこと、ローズ君に執筆してもらった方が早いかもしれませんね。

ひょっとしたら、先生(笑)よりも上手かも」

ライトンも冗談を言い出す。


「笑えない冗談だ」

「本気ですから」

ライトンの返事に、私は思わず頭をたれる。



「それにしても、「届け、私の思い」とはなかなか素晴らしい言葉だ。

セリエも苦心して詠唱文を考えたものだ」

私が感心していると、

「違います。

「私は、死ぬまで私を貫く」です」

レフトスが指摘し、

「先生(笑)、その言葉は3年生の時の文化祭で、文芸部を見学したときの弁論大会の発表タイトルに酷似しています。

発言には注意してください」

ライトンが私を諫める。


「わかっているさ。

ちゃんと途中に句読点を挿入している」

私は、コアラの髪型をしていた少女のことを思い出しながら返事をする。

「わかっているのなら、自重してください」

私の機転もむなしく、ライトンに注意された。



「ところで、ローズ君。

君はこれから、どうするつもりだい」

私は、目の前にいる少年の将来を心配して声を掛ける。

「先生がよろしければ、これまでの経過を執筆しますが」

「そうじゃない!」

私は思わず声を張り上げる。


「作家への道のりは厳しいのだよ。

いや、そういう話ではなくて」

私は思わず、商業作家の厳しさについて、とくとくと説明したい気持ちを抑えながら、話を本題に移す。

「村長から聞いたところでは、これから王都にある魔法学園中等部に入学することになっていると聞いている」

ローズは小さく頷いた。

「だが、ローズ君の体調が回復する前に、中等部の入学試験が終了してしまった」

ローズは再び頷いた。

「これから先どうするのか、いくつか選択肢がある」

私は、指を折りながら答える。



「ひとつめの選択肢は、ふるさとの村に帰ること。

ただし、推奨はしない。

理由は、言わなくてもわかるよね?」

ローズは頷く。


「ふたつめの選択肢は、私の家で働くことだ。

一応、それなりの生活は保障するが、君はまだ若い。

他の行き方を考えてからでも遅くは無いだろう」

私は、目の前に置いているルートビアで、のどを潤わせてから、話を続ける。


「みっつめの選択肢は、魔法学園に通うこと。

もちろん今年の中等部からの入学は終了したから、さらにふたつの方法から選ぶ必要がある。

魔法学園に通えば、学費はセリエが用意した学資から捻出されるので、勉学にのみ励むことが出来る」

ローズは私の説明を待っていた。


「ひとつめの方法であるが、一つは来年改めて中等部の試験を受験する方法だ。

試験じたいはそれほど難しくはないので、確実に合格できるだろう。

ただし、1年間浪費してしまうことになる」

私は、ローズの表情を確認しながら説明を続ける。

「もう一つの方法であるが、3年間家庭教師を雇って勉強を続けながら、3年後にある魔法学園高等部に入学する方法がある。

この方法であれば、今回逃した中等部に入学した場合と同じ年で、高等部に進むことが出来る。

問題は、高等部への入学試験の難易度が非常に高い事にある。

理由は、人数定員が約10人に絞られているからだ。

高等部の入学者は、大部分を中等部の卒業生で占められており、何らかの理由で進学しなかった生徒の人数を補充するために行われるのが、高等部への入学試験となっている」


ローズは私の話を聞き終わると、質問をしてきた。

「詳しいご説明ありがとうございます。

私のこれからを決める前に教えて欲しいのですが、冒険者になるにはどうすれば、いいですか?」



私はローズからの質問が不意打ちであったため、返答に困った。

「ああ、それはねローズ君。

せっかくだから、その、なんだ。

まあ、ライトンに説明してもらおう」

私は、ライトンに視線を移す。


ライトンは、後ろに止めている髪留めを少し構ってから、話をはじめた。

「先生(笑)の、想定外の質問をしたようだね、ローズ君。

昨夜準備した原稿になかったため、先生(笑)は随分慌てているようだ」

「そ、そんなことはない」

私は即座に否定する。


「それでは、この原稿はなんですか?」

ライトンは、どこからか紙束を取り出すと、目の前の机に広げた。

「ローズ・レクチャーの今後の人生設計について 作:斑鳩茂市」

表紙には、そう書かれていた。


「いやあ、すばらしいですね、先生(笑)。

やればできるじゃないですか。

たった1日で、これだけの原稿を書き上げるとは」

ライトンはニヤニヤしながら私に賞賛を送る。

「すごいですね、先生(笑)。

原稿と実際の話の内容とが多少はずれていますけど、おおむねあっているとは。

記憶力をゴミ箱に捨ててきた先生(笑)と同一人物とは、にわかに信じられません」

レフトスもライトンとそっくりの顔で賞賛する。


「先生(笑)をからかうのはここまでとして、冒険者になるための方法を説明しましょう。

なにしろ、先生(笑)のご指名だからね」

ライトンは、真面目な表情に切り替える。


「簡潔に言えば、今の段階でローズ君が冒険者になることは出来ません。

冒険者になるには、冒険者ギルドに登録できる条件さえ満たせば、申請するだけで、すみます。

残念ながら、ローズ君に不足しているのは年齢だけです。

あと3年でローズ君は冒険者になれます」

「そうですか」

ローズは、自分の考えをまとめようとしていた。


「先生(笑)と同じ考えになるのは、納得できませんが、ローズ君には魔法学校で学ばれた方がよろしいかと思います」

「納得できないという言葉に、納得できないよ!」

ライトンは私の苦情を無視して話を続ける。

「ローズ君に、どのような目的があるのかわかりません。

それでも、冒険者になるのでしたら、ある程度魔法に関する知識や技能を身につけた方が、良いと思います。

とくに、セリエ様から才能を見いだされたのなら、なおさらです」

「そうですか」


こんどは、レフトスが会話に参加する。

「失礼だが、ローズ君。

君は今のところ一緒に冒険する仲間がいない。

冒険者が単独で旅をするなど、セリエ様ほどの才能が無ければ不可能だ。

特別の才能もない見ず知らずの素人の冒険者を、仲間に入れようとする冒険者パーティなど、通常はあり得ない。

もし、有るとすれば」

レフトスは一度言葉を切った。

「君を、獲物と考えている連中がほとんどだ」

次回で、第2章が終了します。


第3章以降の掲載についてですが、現在斑鳩茂市先生との交渉が難航しております。

何らかの形で公表したいのですが、難しいかもしれません。

いずれにしましても、次回の掲載時には続報をお伝えできると思います。

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