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第 8話 私は、死ぬまで私を貫く。

「!」

ローズは、身体を後ろにそらせて、強引にスカーレットから離れた。

「あら、どうしたの?」

スカーレットは、表情を変えないままローズを見つめる。


ローズは、スカーレットの言葉から新しい疑惑を覚え、そして、その疑惑を確認するために。

「あなたも、「赤ちゃんが運転しています」の一員ですね」

「よくわかったわね」

スカーレットは、感心した様子を見せる。

「あなたが、1人でここにいるということがその理由です」

村の周辺には弱いがモンスターが出現する。

そして、隣の村まで数日かかる。

モンスターからの夜襲を考えれば、単独で行動することはかんがえられない。

そうなると、仲間が近くにいるということだ。

ローズは魔法使いの呪文で、同じパーティのリーダーが滞在している街や村に、転送できる呪文が存在していることは知っている。


「さあ、ローズちゃんはどうするのかな」

スカーレットは、小さな棒状の杖を握るとゆっくりと俺に近づく。

「ひとつ、教えてください」

「何かしら?」

「村の人達はどうなりましたか」

ローズは両手を強く握りしめながら質問する。


「私はその場にいなかったからね、詳しくは知らないけれども」

スカーレットは、金色の長い髪を左手でもてあそびながら答える。

「慎重なカーマインが反対しませんでしたから、きちんと全滅させたと思うわ」


ローズは、素早く短剣を身につけると身構えた。

「それで、どうするのローズちゃん?

私に襲いかかってどうするのかな?

何も解決しないと思うよ?」

スカーレットは、動きをとめて艶やかな言葉でローズに問いかける。


「それくらい、わかっています」

ローズは身体をかすかに震わせて、それでもしっかりした口調で答える。

「それでも、あなたが死ねば、少しは彼らも自分がしたことの意味を知ることになると思う」

「本当に、そう思っているの?

知っているかもしれないけど、私はパーティのメンバーの中ではお客様扱いなの。

だから、どうなってもかまわないと思わない?」

「そうかもしれません。そうでないかもしれません」

ローズは、短剣を構えたままゆっくりとスカーレットに近づいた。

「ですが、全てを知った私を、あなたは生かしたままにはしないでしょう」


ローズは右手に身につけた短剣を振り回すと見せかけて、左腰に身につけたもう一つの短剣をスカーレットの胸元に投げ込む。

投げ込まれた短剣は、スカーレットの胸元に届いたが、突き刺さることはなかった。

「このローブは特別製でね」

スカーレットは、身につけているローブをつかみながら説明する。

「投擲武器に対する攻撃耐性を高めているの」


スカーレットは、杖を構えながらつぶやく。

「ローズちゃんは賢いけど、賢すぎるのがいけないのよ。

楽に死ねないと思うわよ」

スカーレットは杖を振りかざすと、周囲に防御結界が登場する。

「さあ、戦いましょうか」

スカーレットは、杖をローズに向けながら詠唱を開始した。



ローズは、単独の魔法使いとの基本戦術である、素早い動きによる近接戦闘を繰り広げていた。

魔法使いは、魔法を発動させるために、改変式を組み立て、魔力を流し込む。

その作業をなんらかの形で止めることが出来れば、魔法を発動させることなく、魔法使いを倒すことが出来る。

ローズはこれまで、魔法攻撃を受けることはないため、机上での理論でしか知らない戦い方であったが、ローズの基本的な戦闘方法は対魔法使いの戦術と基本的には同じであるため、問題なかった。


しかし、スカーレットに対して何度も短剣を的確に当てているが、ダメージが与えることができないのか、スカーレットは平然としていた。

スカーレットは短剣が首より上に当たらないように注意して、残りは呪文詠唱に費やされていた。

ローズは探知魔法を使用しながら、スカーレットが改変式を完成する前に、短剣を振りかざす。

スカーレットは、そのたびに改変式の生成を中断して、防御にあたる。

2人の戦いは、延々と続けていた。



戦いに終止符を打ったのは、スカーレットの魔法であった。

ローズは、スカーレットへの攻撃の最中に身体が動かなくなった。

「お疲れ様」

スカーレットは、ローズにお使いをちゃんとしてきた子どもを誉めるような口調で話しかける。

「見事な、邪魔の仕方ね。

でも、相手が悪かったわね」

スカーレットは、話を続ける。


「私は、即時起動魔法が有るのよ」

「インスタントですか?」

ローズは、口をゆがめながら答える。

本当は、大きな声で叫びたかったのだが、口さえも満足に動かすことができない。


インスタントとも呼ばれる即時起動魔法は、詠唱を省略した脳内改変式により発動する魔法を指し示す。

詠唱すら省略されているため、即座に発動する利点があるが、一方で常時脳内に起動式をイメージする必要が有るため、特別な才能がある人間しか使用できなかった。

「奥の手なので、見せたくはなかったのだけど」

スカーレットは、妖艶な表情でローズを眺めながら、改変式を発動させる。


スカーレットが発動させた魔法により、ローズの周囲に複数の光球が出現し、ローズに向かって一斉に襲いかかる。

「!」

ローズは、光球をかわそうと身体を動かしたが、先ほど受けた魔法の影響により全ての光球が命中し、光の中に包まれる。

光球がローズから体力を奪い去り、ローズは俯いた状態で倒れる。


スカーレットから、ローズに向けて言葉が発せられたが、瀕死のローズの耳にはかろうじて聞こえる内容だった。

「さてローズちゃん、思い残す言葉はあるかしら?」


ローズは、瀕死の重傷ではあったが、言葉を発することができた。

「私は、死ぬまで私を貫く」

ローズは、首を少しだけ動かしてスカーレットの表情を読み取ろうとした。

スカーレットはローズを、いつもの妖艶な微笑ではなく、哀れみの表情で眺めていた。


「そう」

ローズの言葉を確認したスカーレットは

「さよなら」

再びローズの周囲に光の玉が出現しローズに向かって襲いかかった。

ローズの周辺は光に包み込まれていた。



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