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第 7話 壊滅した村に、1人の冒険者が残っていた。

ローズは、村に向かって走り続けた。

ギルド名「赤ちゃんが運転しています!」が姿を消したため、緊急クエストの要請任務が失敗したことを報告するためである。

任務が失敗するとは思わなかったローズは、表情を暗くしながらも、走る速度を緩めることはしなかった。



「燃えている?

襲撃をうけたのか?」

村まで、約5キロほどの距離に近づいたところで、村のあちこちで煙が上がっているのを確認する。

冒険者ギルドの予想が的中したらしい。

特級モンスター山岩亀が村を襲撃したようだ。

北東から南西に向けて、大きく地面がえぐられている後を見ることができた。

「悪い予想だけはよく当たる」

ローズは、リナクス隊長が昔話してくれた格言の一つを思い出していた。



「どういうことだ……」

村は、あちこちに血なまぐさい臭いが立ちこめる。

「避難したのではないのか?」

ローズは、周囲の状況を確認した。


山岩亀が通過した後は、えぐられたような溝ができあがる状況については理解できるが、通過していない家々が燃え上がっている状況が理解できなかった。

一体何があったのかと、焼け落ちた家に侵入する。

そこは、昔働いていた道具屋であった。

かつて入り口であったところは、黒い柱だけが残っており、想像による復元を妨げる。



最初に訪れたときの、乱雑に商品が置かれた陳列棚。

頭の薄さを気にして、大きめの布を頭にかぶせて隠していた店主。

磨きすぎて、滑りやすいと苦情の多かった床板。

火事が起こったわけでもないのに、妙に黒光りしていた天井。

店主がいつもぶつけてしまうので、ローズが隅を削った中央のテーブル。

微妙に高くて、使いづらいと店主に言われたので、言われたとおり削ったら「低すぎて使いづらい」と文句を言われたカウンターテーブル。



全てが失われていた。

部屋の隅には、黒く塗りつぶされた人型が横たわっていた。

店主が黒こげになれば、このような大きさになるだろう。

ローズは、失われた過去を取り戻すことはもはや出来ないことを悟り、次の目的地に移動する。


冒険者ギルドと、警備隊の砦は、山岩亀の移動によって跡形もなく壊滅していた。

山岩亀の移動速度から考慮すれば、中にいた人達は無事逃げ出したと思いたい。



村長の家があった場所にきた。

ローズにとって、この世界で最も長くいた場所。

しかし、この場所もかつての形状がほとんど残されていない。

「お嬢様!お嬢様!」

ローズは、瓦礫をどかしながら声を限りに叫び続け、少女の返事を待ち続けた。


しかし、少女をはじめほかの村人達の反応は全くなかった。

ローズの焦燥が頂点に達したとき、1人の女性が村に到達したことを確認する。

ローズは、遠くから判断して女性が冒険者であるという推測をたてたが、それ以上の情報がわからないため、さらなる情報を求めるために女性に近づこうと決めた。

ひょっとしたら、村が壊滅した理由を知っている可能性があることを期待して。


「あら、こんにちは坊や」

背中に届きそうな長い金髪を長引かせながら、女性は微笑を示してローズに話しかける。

最近の冒険者は美男、美女が多いことを知っていたが、この女性は特に美しいようだ。

どちらかと言えば、妖艶という言葉がふさわしいだろう。

女性は、金の刺繍を施した、絹のローブを身に纏い、細い棒状の杖を身につけていた。

どうやら魔法使いのようだ。


「どうしたの、坊や?」

女性は、ローズの焦燥した表情を眺めると少し心配そうな口調で尋ねる。

しかし、女性の表情は、心配した母親のような優しいものではなく、なにかやっかいごとに巻き込まれてしまいそうな、自分の心配をしているような表情に見える。


「村が、壊滅したようです。

私は村から出ておりました。

もし、理由をご存じでしたら教えてください」

「山岩亀の仕業じゃないの?」


女性は、近くにある大きな溝に視線を移しながら、わかりきった質問をどうしてするの?と言いそうな口調で答える。

ちなみに山岩亀は、村を既に通り過ぎ、森の方へ向かっていったようだ。


「山岩亀ならば、通り道だけが壊滅することになります。

しかし、この村の状況からすれば、それ以外にも被害が及んでいます」

「山岩亀の襲撃にあわせて、他のモンスターが襲撃したのではないの?」

女性は、興味もなさそうに適当に返事をする。


「それならば、モンスターの死体が散乱しているはずです。

それに、村の防壁が破られた跡がありません」

ローズは即座に否定する。

「山岩亀の進入に続いて、進入したのではないの?」

女性はどうでもよさそうな口調で別の可能性を示唆する。

「それこそ、ありえません」

ローズは断言する。


「私も、この村で警備隊に勤めていました。

今回の山岩亀の襲撃にあたって、他のモンスターが襲撃する可能性が想定されていました。

当然、モンスターの襲撃に対応するための対策も立てられていました。

それなのに、警備隊の動きが全くなかったのが問題です」

「ふーん。そうなの」



女性は妖艶な表情を変えることなく、ローズの話の内容を聞いていた。

「坊や、子どもの割に賢いわね」

女性は何を思ったのか、ローズに近づくと、腰を落として金色の目をローズの目の高さに合わせる。

「私は賢い人が好きなの」


女性は、右手をローズの頬にあてて、優しくなでる。

「冒険者で賢そうな人がいれば、相手をしてあげてもいいかなと思ったけど、誰もいなかったわ」

女性は、右手をローズの唇の方へ動かすと、人差し指で軽く唇に触れる。

「あなたが、冒険者なら良かったのだけど、残念ね。

私の名前は、スカーレット。

坊やの名前は?」

「ローズです」

ローズは、スカーレットと名乗る冒険者の対応に驚きながらも、スカーレットの会話の意図を推測する。

しかし、ローズには理解することが出来なかった。


「とりあえず、ローズちゃんに教えてあげるわ。

もう少し、頭を働かせたら、ローズちゃんにも答えが見えると思うけど」

スカーレットが発する言葉の意味を理解する。

「警備隊を邪魔したのは、モンスターではない……」

ローズは、つぶやくように言葉をもらす。


「やっぱり、ローズちゃんは賢いわね。

ローズちゃんの考えの通りよ」

「まさか、冒険者が……」

ローズは、自分の仮説の説明をはじめる。

山岩亀の襲撃があったが、他のモンスターの襲撃はなかった。

にもかかわらず、村が襲撃されていた。

ならば、襲撃した相手が別にいるということになる。


普通ならば、冒険者が村を襲撃することはあり得ない。

ほとんどの村に、冒険者ギルドが存在し、冒険者の行動に目を光らせているからだ。

冒険者ギルドに目をつけられた冒険者は存在を許されない。

大都市には闇のギルドという犯罪者が組織した、冒険者ギルドに対抗できる存在もあるが、直接冒険者ギルドに敵対することはない。

だが、何事にも例外がある。

冒険者ギルドが壊滅した場合だ。


冒険者ギルドは、強力な結界に守られているため、通常壊滅することなどありえないのだが、特級モンスター山岩亀という巨大な体躯で行われた物理的な破壊を前にして消滅した。


そうなれば、村を襲撃できるだけの戦力を持つだけの力がある相手がいるということだ。

そして、ローズにはこの村を遅う事が出来る冒険者が誰か予想することも出来る。

スカーレットの言葉によって。


「ローズちゃんにも答えがわかる」

ということは、ローズが知っている冒険者であるということだ。

ローズが知っている冒険者で、山岩亀の襲撃を知っている冒険者であれば、「赤ちゃんが運転しています」しかいないはずだ。


「よくわかったわね、ご褒美よ」

スカーレットはローズの話を聞き終わると、ローズの顔に近づいて唇を奪った。



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