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第 6話 冒険者たちは、色鮮やかに着飾っていた。

ローズは、レナロダ村に戻ると真っ先に警備隊の詰め所へ駆け寄った。

「ローズ、ただいま帰還しました」

「ご苦労。

ローズ、状況は把握しているか」

リナクス隊長は、村の周辺を記した地図から視線を離さないまま質問する。

「この村に、特級モンスターが襲撃すると聞いておりますが?」

ローズは、村の入り口にいた警備隊隊員から入手した情報を、疑問系で回答する。

信じられないということだろう。


無理もない。

特級モンスターとは、モンスターの強さのランクで、一体だけで町を崩壊する可能性のあるモンスターを示す。

ちなみに、モンスターのランクは冒険者ギルドで現在6段階に分かれている。

特級と1から5級である。

ちなみに、レナロダ村周辺に出現するモンスターのランクは冒険者が単独で討伐可能な5級がほとんどで、経験を積んだ単独の冒険者か、複数の冒険者での討伐が可能な4級のモンスターがたまに出現する程度だ。


特級については、「単独で町を崩壊する可能性があるレベル」という大きなくくりでおこなっているため、さらに上位のランクをつける必要という議論はあるが、普通の住民には関係ない話だ。


特級モンスターの強さは圧倒的だが、その代わり数は非常に少ない。

魔王を召還した冒険者が、特級モンスターを発見次第、討伐して回っていたからだ。


そのため、ここ数十年この付近には姿を現したことがない。

だからローズも、本の資料でしか見たことがなかった。

「ああ、冒険者ギルドからの情報だ。間違いない」

リナクス隊長は残念そうな表情で、話を続ける。

「山岩亀らしい。

幸い、奴の移動速度は遅いため、避難の為の準備を行うことが出来るだろう」

リナクス隊長は最悪の事態を想定しながら回答する。



「先ほどまでに、避難の打ち合わせをすませた。

ああ、大丈夫だレーナも村長と一緒に避難を開始している」

ローズの不安そうな表情を感じ取って、リナクス隊長は少しだけ頬をゆるめる。


「私は、どうすればよろしいでしょうか?」

「ローズ君、済まないが使いをお願いしたい」

リナクス隊長は、机にある封筒をローズに手渡す。

「朝に旅立った冒険者に渡して欲しい。

ギルドからの情報によると、南方の町への宅配クエストを受領したようだ。

この封筒の中に、緊急クエストが記されている」

「緊急クエストですか」

「ああ、万が一に備えて、彼らを護衛につかせたい」

「そうですね」

「直ちにむかってくれ、……」

リナクス隊長はローズの隣で、会話の途中に入室し、息を切らしている男に視線を移して、

「ロベイン。

お前は、休んだら俺と一緒に避難誘導をはじめろ」

「……」


ロベインは、ぜいぜいと息を切らせながら、なんとか頷いた。

ロベインは全力でローズの後を追いかけたのだが、今し方到着したばかりだ。

しかも、ローズはロベインを先導しながら、迫ってきたモンスターを自分に引きつけるために、逃げ回わることで、ロベインよりも余計に運動を行ったはずだ。

しかし、ローズは呼吸を乱すことなく、リナクス隊長と会話をし、そのまま次の行動に移すつもりのようだ。

「だ、だいじょうぶ、か……」

「ええ、さきほど準備運動ができましたので全力で走れますから。

ロベインさん失礼します」

ローズは、あぜんとした表情をしたままのロベインに挨拶をすると、そのまま部屋を出て行った。



ローズが走り続けた先に、5人組の冒険者がいた。

先日、レナロダ村を出発した冒険者達だった。

青い髪の青年が、にこやかに話しかける。

「やあ、ローズ君だったかな?

急いできてどうしたのだい?」


すごく間延びした口調だったが、これは最近の冒険者に見られる口調なので、ローズは我慢しながら聞いていた。

青い髪の青年がローズに話しかけた事に気がついたのか、他の冒険者達もローズに視線を移した。

「たしか、バーミリオンさんですね。

レナロダ村冒険者ギルド及び警備隊からの緊急クエストの要請文をお届けに参りました」

「緊急クエスト?」

冒険者の他の仲間から少し離れた位置にいた、黒衣を纏った細身の青年が驚きの声を上げる。

黒衣の青年は村の中で、カーマインを名乗っていた。

「ええ、レナロダ村に特級モンスター山岩亀の襲撃が予測されています。

詳細につきましては、緊急クエスト要請書をご覧下さい」


ローズは、村でリーダーを名乗っていたバーミリオンに、預かっていた要請書を手渡そうとするが、それを奪ったのは、背中に巨大な剣を背負った巨漢の男だった。

「ふーん。

おもしろそうだね。

一撃必殺、グローリーライト、ツヴァイの見せ所だな!」

「いやいや、連続攻撃技に一撃必殺はないから。

それとも、相手は2度死ぬの?

もったいないよ、クリムゾン」

巨漢の男に指摘した男性は、全身にローブを纏っており、顔も隠していることから、表情を伺うことは出来なかった。

だが、黄色という非常に目立つローブの色から発言者がマゼンダであることが確認できる。

「それよりもレッド、緊急クエストの内容を早く読み上げてよ。

野に咲く華麗なアカネさんがいらついているよ」

マゼンダが、碧のローブを纏った女性に視線を移す。

マゼンダの視線の先にいた女性の表情は厳しかった。

「わかったよ」



「で、どうするの?」

青い髪のバーミリオンが、他の仲間に問いかける。

「巨剣グランブルーで切り刻むさ」

クリムゾンが背中に背負った青い大剣を指し示しながら断言する。

「いやいや、クリムゾン。

緊急クエストは山岩亀を倒す事じゃないから。

村人の避難誘導だから」

マゼンダはクエストの内容を指摘する。

「倒せば、いいじゃない。

ちんたら、避難誘導で時間をかける必要ないし」


「倒すのは無理そうだな。これまで、特級モンスターを倒したというプレーヤー情報がない」

「だったら、最初の討伐者は俺達「赤ちゃんが運転しています!」がなればいい!」

「システム的に無理かもしれない」

黒衣の青年カーマインがつぶやくように話す。

バーミリオンはしばらく静止した状態で考えてから説得させる口調で話しかける。

「カーマインの話のとおりだ。

クエストをこなすなら、避難誘導に徹したほうが良いだろう。

それよりも、問題は」

バーミリオンは、視線をアカネに移す。


「ごめんなさいね。

これから、用事が入っているから無理ね」

アカネの少し沈みがちな返事があった。


「そうだったな」

カーマインが頷く。

「アカネさんのようにエレガントな淑女でしたら、お忙しいのも無理はないですね」

黄色のローブを身に纏うマゼンダは納得したように大きく頷く。

「ローズ君、ということで、緊急クエストは辞退するよ。

魔法使いのサポートなしでクエストを受けることが出来るほど、僕たちは強くない」

バーミリオンは一瞬だけ視線をクリムゾンに向けて

「そして、達成不可能なクエストに挑戦するほど無鉄砲でもない」



ローズはバーミリオンからの否定の返事に対して、何度か懇願を繰り返した。

しかし、バーミリオンを始めとする、「赤ちゃんが運転しています!」の面々の回答は変わることはなかった。

「なあ、あいつしつこいな」

クリムゾンがローズとバーミリオンとの対応を、巨剣グランブルーを振り回しながら眺めている。

「これって、クエスト受けるまで続くとか?」

同じく別の岩に、布を引いて足をぶらぶらさせながら、アカネがつぶやく。

「たしかに、しつこいな。

可憐なアカネさんからのお誘いなら、いくらでも受け入れるのだが」

直立不動の体勢を維持しながら、マゼンダは返事をする。

「それにしても、NPCのわりには反応がバリエーションにとんでいるな」

「あの噂は違う!」

カーマインが否定する。

「生体量子コンピューターシステムの利用だろう。

都市伝説だろ。

まだ全員スタッフ説のほうが、説得力が高い。

それよりも、カーマイン。焦り具合がおかしいぞ」

「そんなんじゃない。

いつまで、あいつら話をしているのかと言うことだ!」

「私、もう帰るから」

アカネは岩から飛び起きると帰還を宣言する。

「ああ、時間だったな」

「お疲れさん。

良い夢を」

カーマインとマゼンダが返事をすると、アカネは消え去っていった。


「どうするよ、あれ」

マゼンダが、終わりの見えない、緊急クエスト要請への対応を眺めていると、

「アカネを見習いますか」

カーマインは剣を振り回すクリムゾンに声を掛けると、姿を消した。


「そうだな、バーミリオン帰るぞ!」

マゼンダも姿を消した。



「ということだ。1人では無理だ、失礼するよ」

バーミリオンは緊急クエスト要請書をローズに押しつけると、姿を消していった。

「待ってください!」

ローズの叫び声に反応する者は誰もいなかった。




「ええっと、黄色のローブを纏っているのが、カーマインで……」

「マゼンダです」

私の言葉に、レフトスが素早く突っ込みを入れる。

「あきらめた方がいいですよレフトス。

先生(笑)の記憶力のなさは定評がありますから」

「そんな定評、いりません!」

私はライトンの指摘に訂正を求めた。

「なにしろ、国民的アイドルグループの美少女3人が、「斑鳩先生に名前を覚えてもらうまで、引退しません!」と宣言してから、15年以上活動を続けていますからね。

15年過ぎても、3人が覚えられないとは、本当に驚きです」


「それはもはや、私のせいではないだろう。

あいつの問題だ」

私は、異世界にいる存在に対して文句を言った。

「そうですか?」

レフトスが、獲物を見つけた表情で私に問いかける。

「先生(笑)も、いまだに覚えていないようですが。

ここに3人の写真がありますので、確認しましょうか?」

ライトンが挑発的に私に問いかける。


「今は、執筆作業で忙しいのだ、勘弁してくれ」

私は2人を部屋から追い出すと執筆作業を再開した。

「ええっと、右側の少女が……」

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