表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/22

第 4話 穏やかな日々が続くことを、願っていた。

王国西部地区に存在するレナロダ村。

300人ほどが暮らす小さな村だ。

小さな村というのは、現在の日本から見たときの話であり、王国からすれば、町に近い規模である。

そのような規模を誇る背景には、村長が王都で得た新しい耕作知識を活用した事による。

ローズには王国内にある他の村の知識はないため、比較することは出来ないといっていたが、平穏な村であった。


時折、モンスターが現れることがあるが、警備隊が簡単に追い払うことが出来る程度の弱いモンスターしか存在しない。

逆にモンスターを退治することで得られる素材が、村の生活に必要な物資として使用されていた。


ローズは、平穏な村の中で、村長の家の手伝いと、店の手伝いをしながら、独自で魔力と体力向上の為の訓練を続けていた。

ローズは、セリエから教わった訓練を続けていた。

基礎魔力の底上げと、柔軟な身体づくりという単調な作業の繰り返しだった。

普通の人間であれば確実に投げ出すような作業を、楽しそうに行っていた。

ローズの変わった行動に興味を持った少年が、ローズのまねごとをしていたが、半時間で根を上げてしまった。


約1年が経過した時に、ローズは道具屋の手伝いを辞めた。

「店長さん、お世話になりました」

「ローズよ、頼む引き続き手伝ってくれないか」

「申し訳ありません。

しばらく訓練のため、警備隊に入隊したいのです」

「警備隊か」

道具屋の店長は、ローズの身体を眺めていた。


ローズはこの1年間で、かなり背が伸びた。

12,3歳の少年と同じくらいの高さになり、体つきも他の子どもよりも良くなっていた。



この村の警備隊の入隊年齢は、15歳からであった。

だが、ローズは自分の年齢は覚えていないので、いつから入隊できるのかわからないから、警備隊の訓練について行けるのであれば入隊させてくれとお願いした。


警備隊はこれまで、ローズから提案のあったモンスターの生息域を図に示すという提案に驚き、さっそく警備隊で取り入れることで、警備に役立てることができた。

警備隊からは、ローズの才能を評価して、警備隊で裏方を務めて欲しいという声は、これまでもあったが、警備隊隊長はこれまで、

「警備隊隊員は、最低限村人を守る力が必要だ。

それは、ローズといえども例外ではない」

そう言って、隊員の提案を退けてきた。


ローズの話を聞き終わった警備隊隊長リナクスは、蓄えたひげを右手でこすりながら、「訓練に耐えられるのならば入隊してもかまわない」

そう言って、新人歓迎訓練を入隊試験として行わせた。


新人歓迎訓練とは、「倒れるまで走らせる」事だった。

こまめに水分は補給させるが、基本的に倒れるまで、村の周囲を走らせる。

これは、自分自身の限界をキチンと理解させて、引き際を教えるためのものだった。

当然、のんびり走らせることなどあり得ない。

他の隊員に遅れないようにしなければならない。


訓練の結果は、警備隊の予想を超えていた。

昼から始まった訓練は、夜まで続き、翌朝になっても終わらなかった。

先導していた隊員も、だんだん脱落していき、太陽が顔を出した頃には、隊長しか残っていなかった。

しかも、隊長はローズよりも2周ほど遅れていた。


「さすがに寝ないと、つらいですね」

訓練が終了したローズが発した言葉だった。

「……」

隊員達は、ローズに何も言えなかった。



道具屋の店長は、入隊試験の話を警備隊に勤める友人から聞いていたため、

「仕方がないな」

とつぶやいて、ローズが辞めることを認めた。



村長は、ローズが警備隊に入隊することを聞いて、即座にこういった。

「ローズよ、これまでご苦労だった。

家の手伝いは、もうする必要はない」

「なぜでしょうか?

警備隊では、休日の日に家の手伝いを行うものがほとんどでございます。

私もひきつづき、警備隊の休みの日には、同じように働きたいのですが」

「ローズの考えはわかっている。

本来であれば、その方が助かるのだが。

だが、ローズには別の事を依頼するつもりだ」

村長はローズに対して依頼内容を説明した。


「レーナが12歳になったとき、王都ゼリンクラにある魔法学園中等部で勉強を行わせる。

ローズには、王都でのレーナの世話をして欲しい。

あそこは、治安が良いとはいえ、子ども1人では心許ない。

事前に警備隊で、戦闘訓練を学び、レーナを守ってくれ」

ローズは、少し考えてから返事をする。

「学園には確か、寮があると伺っております。

寮から出るときは、同じ寮の生徒と同伴すれば問題ないと思いますが?」


村長はため息をつく。

「……。さすが、ローズと言うところか。

正直に言おう。

お前にも、魔法を学ばせたいのだ」

「ありがたいご提案ではありますが、中等部での授業料は非常に高いと伺っています。

私には、とても、お返し出来るとは思えません」

ローズは困惑しながら返事をした。


「なるほどな。

ローズがそのように考えるのは無理もない。

だが、2つの点で問題はない。

一つめは、勉強の為に必要な資金は、セリエから出される事になっている。

よほど、彼女に慕われたようだな」

村長はローズに、おかしそうな表情を見せるが、

「セリエ様は物好きですね」

ローズは、セリエの好意をどのように受け入れたらいいのか理解できない表情を作る。


「確かに物好きかも知れないが、好意ならば素直に受け取ればいのではないのかね」

村長は、手元に置いてあったお茶を口に含めると話を続ける。

「もう一つは、ローズの才能についてだ。

ローズならば、普通に高等部を卒業し、国の研究期間や軍への入隊が可能であろう。

そのような人材を、この村に埋もれさせるつもりはない」

「かいかぶりすぎだと思います」

「そんなことはない」

村長は首を横に振る。


「私も昔、ゼリンクラにいた。

魔法学園ではなく、別の学園で学んでいたが。

そのときの親友で、魔法使いの勉強をしていたものがいた。

勉学の才能は、ローズの方が上だと考えているし、魔力の能力もセリエからの話では高度な魔法を使用しても問題ないと話していたからな」

「私はよくわからないのですが」

ローズは困惑の表情を見せる。


「とにかく、魔法学園に通えば、自分がどの程度の才能かわかるだろう。

どうしても、無理であればそのときはこの村に戻ればいい。

幸いリナクスからは、鍛えがいのある新人が入ったと聞いて喜んでいるから、警備隊を務めることが出来るだろう」

「……、わかりました。

ご厚意に感謝します」

ローズは深々と頭を下げてから質問する。


「お尋ねしますが、お嬢様にはその話はされましたか?」

ローズは、視線を村長の隣に座っている少女に移す。

少女レーナは、肩を震わせていた。

普段であれば、背中に届く長い金髪も一緒に震えるはずなのだが、今日は髪を束ねていたために、動くことはない。

表情を見ると、怒っているのか、普段の優しい表情は見る影もない。

「……、お父様」


「お父様。

お父様のお考えはよくわかりました。

私の将来については、私の考えをお許しいただいたことには感謝します。

しかし、ローズの事については、はじめて聞きました。

何故、事前にお話いただけなかったのですか!」

「レーナよ、落ち着いてくれ。

ローズの話はローズに最初にするべきだ」

「私にも関係ある話です。

ローズに私を護衛させるなど、はじめて聞きました」


「それは、表面上の理由だ。

ローズは、身寄りがない。

それなのに、魔法学園中等部に通うことが出来るだけの資産を持っていると思われたら、周囲に警戒されかねない。

それならば、お前の護衛のためと称して、一緒に魔法学園で学ばせたほうが問題ないと、セリエも言っていた」


レーナは父親である村長の説得に頷く前に、別の疑問に気付いてしまった。

「セリエさんですか。

1年前に訪ねられてから、一度も現れてはおりませんが。

ひょっとして、1年前から、私が自分の考えをお伝えする前から決まっていたのですね。

お父様、詳しく説明してもらいましょうか?」

レーナは、厳しい視線を父親に向ける。


「ローズ、……」

村長はローズに助けを求めた。

「申し訳ございません。

私の力の及ばないところです」

ローズは一礼して、部屋から出て行った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ