第 1話 手紙には、世の中の変化が記されていた。
第2章も全十話の予定です。
「先生、お元気でしょうか。
私は元気にしております。
本来であれば、友人の家人からの手紙など失礼だとは思いますが、セリエ様から「自分は冒険者なので、伝えたいことがあればこちらに送って欲しい」との事でしたので、村長のお許しをいただいた上で、お送りします。
皆様が、村を出てから2ヶ月が過ぎました。
先生のおっしゃったように、片田舎ですので、先生が来られた以上の騒ぎもなく、のんびりとした毎日を過ごしております。
とはいえ、私の身近では、いくつか変わったことが有りましたのでお知らせいたします。
先生は、あちこちから世界の情報を集めて作品を作っておられるとお伺いしましたので、話の種にしてもらえましたら幸いです。
一つめは、セリエ様からいただきました、腕輪についてであります。
私は、腕輪の能力以外に関心を持ちませんでしたが、住民の皆さんは腕輪の価値に高い関心をお持ちのようでした。
道具屋の主人が私の左腕にある腕輪を見たとたんに、買い取り交渉を始めましたし、普段は私に話しかけてくることなど無かった、年頃の娘さんたちから、譲ってくれないかと話しかけられました。
「村長のお客様から、肌身離さず装着しておくよう、依頼されましたので」と言って全てをお断りしましたが。
村長のお嬢様からは、物欲しそうな顔をされるだけで、一切腕輪について話しかけることはありませんでした。
二つめは、冒険者についてであります。
私がこの村に住むようになってから、セリエ様がお訪ねになるまで、一度も冒険者を見かけることはありませんでした。
しかし、セリエ様が帰られてから、頻繁にこの村に冒険者が訪れるようになりました。
冒険者たちの姿形は、私たちとあまり変わることが有りませんが、いくつか変わった言動をされます。
まずは、言葉使いであります。
冒険者の皆さんは、私たちと同じ言葉を使いますが、かなり間延びする感じがいたします。
こちらの言葉への反応は少し遅いようですが、しっかり聞き取っておられるので意志の疎通ができない訳ではありません。
たまに、聞き慣れない地名や食べ物の話をされますが、昔話にあった別の大陸から来られたのでしょうか。
つぎに、歩き方であります。
話し方は、ゆっくりであるのに比べて、移動速度はかなり速いです。
しかも、私たちにぶつかることが有りません。
しかもどんなに動いても少しも疲れる様子がありません。
どのような鍛え方をすれば、冒険者のみなさんのように動けるのでしょうか。
最後に、急な消失と出現であります。
冒険者の皆さんが、たまに目の前から消失することがあります。
冒険者のみなさんは「戻る」とか「寝る」とか言っておられることから、転移魔法を行使されていると思いますが、解析できない以上、私には詳しいことはわかりません。
消失された皆さんは、しばらくすると消失した位置に再び出現されます。
再び出現するまでの間隔は人それぞれなので、別の魔法で出現されると推測しています。
冒険者の皆さんは、たまに警備隊の皆さんと一緒に、モンスターを退治されます。
私は、警備隊には入っていないため、直接見たわけではありませんが、変わった戦い方をされるようです。
攻撃速度は、警備隊の人よりも遅いのですが、命中率が高いため、警備隊の人たちよりも素早くモンスターを倒すようです。
冒険者の皆さんのおかげで、村の周辺にモンスターが現れることも少なくなりました。
変わったことは以上でありますが、村の雰囲気はそれほど変わってはおりません。
村長を始め、村の皆さんは、セリエ様が再びお訪ねになることを楽しみに待っております。
セリエ様にもよろしくお伝え下さいますようお願いします。
ローズ・レクチャー
以上です」
青年はたどたどしい筆跡の手紙を読み上げると、目の前の机で、一生懸命文字を書き殴っている、中年の男に声をかける。
「先生(笑)、あの村の子どもから来た手紙ですが、返事はどうしましょうか」
「先生(笑)、以前のように返事を書かないという選択肢は、止めた方がいいですよ。
世にも珍しい読者がまた1人、減ってしまいますから」
同じ顔をしたもう1人の青年が、笑いながら尋ねる。
話しかけられた男は、顔をあげると2人の青年に文句を言い出した。
「お前らは、もう少し年上に敬意を払いなさい」
「原稿が、期限内に完成すれば、いくらでも払いますよ」
「まあ、無理でしょうけど」
2人の青年はお互いの顔を見合って笑っている。
「見ていろ、この原稿が完成したら、驚きのあまり卒倒させてやる!」
「はいはい」
「期待しませんから」
私の書斎内には、2人の青年の笑い声がしばらく響いていた。
当面、週1回程度更新します。