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箱庭で異彩を放つ花 ローズ・レクチャー伝  作者: undervermillion
第1部 第1章 こども時代
11/22

第10話 渡されたものには、想いが込められていた。

私が、村長の家を出発したのは、村長の予告通り、私が到着してから3日後の朝であった。

「朝早く出発することもないでしょう。

夕食をとってからでも構わないのではないですか」

私は、眠い目をこすりながら2人の青年に訴える。


「先生(笑)。

夕方から出発するなんて、ありえませんから」

「なら、せめて昼食をとってからでも」

私は妥協案を提示した。


「昼食を食べたら最後、夕食までごろ寝される人の発言とは思えませんね」

「朝食をとってすぐ、2度寝して、全く原稿が進まなかった先生(笑)の発言とは思えませんね」

「たぶん、昼食をたべたら、良いアイデアが浮かぶのだ」

私は、過去を振り返りながら2人に訴える。


「一度も、実現したことはありませんが」

「逃げ出すアイデアは、良いアイデアではありませんよ」

私は、青年達の説得に失敗した。

もう少し、こいつらにかわいげがあればいいのに。


私の心を読んだのか、

「先生(笑)、

私たちの代わりに、かわいい女性を秘書に置こうとは思わないでくださいね」

「以前、そのようにして、先生(笑)の別のやる気だけを引き出して、結局筆が進まなかったのですから」

などと、私を諫める。

さらに、私は青年達といつものやりとりをしている間、少し離れた場所で、ローズとセリエが話をしていた。



「短い間でしたが、ご指導ありがとうございました」

ローズは、魔法を始めとする様々な冒険に必要な技能の基礎を教えてもらったセリエに感謝の気持ちを込めて一礼した。

いつもの、礼との差異が見られなかった。

「どういたしまして、ローズちゃん」

「その呼び方は、止めてもらえると嬉しいのですが」

ローズは冷静に依頼する。


「あら、どうして?」

「体全体が、むずがゆくなる感じがします」

「失礼なことを言うわね」

「申し訳ございません」

ローズは再び、謝罪のための礼をする。

「その態度が無ければ、考えてもいいわよ」

「わかりました、あきらめます」

「随分、あきらめが早いわね」

「世の中に、かなわぬ願いが有ることを知っていますから」

「そうね」


セリエはしばらく考えていたが、

「それでも、やらなければならないときは、私は前に進むけど」

セリエはローズに顔を近づけて質問する。

「あなたは、どうなの」

「当然、私が私であるために、かなわぬと思っても、進むときがあります」

ローズは即答した。

「それが、どんなに苦しく、厳しい道のりでも」

「進みます」

ローズは誓いの言葉のように、しっかり言った。

「わかったわ」


セリエは、ローズの回答に満足そうに頷くと、左腕につけていた腕輪を取り外した。

「私は、かつては普通の村娘だった。

何も知らなかった私は、旅の人からこの腕輪をねだったわ。

旅人は、驚いた顔をしたけれど、お守りにくれたの。

「きちんと訓練すれば、腕輪はその力を果たすと」言って。

私はこの腕輪のおかげで、目的の一つを果たしたわ。

そして、もう一つの目的を果たすため旅を続けている。

あなたが、何を目指すのか今の私にはわからない。

でも、面白そうだからあなたにあげるわ。

あなたの役に立つことだけは保証するわ。

ただし、私の目的と反するのであれば、私はあなたを容赦なく、切り捨てる。

それだけは、覚えておいてね」

話し終えたセリエは、ローズの手に腕輪を手渡す。

「いただきます」

銀色に輝く腕輪は、少しだけ重量感を感じたが、装着したままでも動きは阻害されないようだ。



「どう、装着した感じは?」

「問題ないですね」

ローズは素直に感想を伝える。

「では、これでお別れね」

「ご教授、感謝します」

セリエは口をとがらせる。

「いつものように言ってよ」


ローズはため息をつく。

「いつもと言われるのは、納得いきませんが。

まあ、最後ですから」

ローズはにこやかな笑顔を作る。


「せんせい。またね~」

ローズは、両手を挙げて手を振りながら見送った。

「か、かわいい」

セリエは、ローズの背後に忍び込むと後ろから抱きしめ頭をなでなでし、やがてほおずりを始める。

「離してください」

ローズは体を左右に揺らすが、セリエは離すことはなかった。


「ふう、すっきりした」

「……」

セリエは満足そうな表情で微笑んだ。

「……。何かが汚された気分です」

ローズは絞り出すような声でつぶやいた。

「失礼なこと、言わないでよ。

ほおずりしたぐらいで」

「確かに、肉体的な被害は有りませんでしたが、精神的にしばらく立ち直ることが出来ない損害を受けました」

「こっちこそ、今の言葉で、損害を受けたわ」

ローズとセリエはお互いににらみ合っていた。


「どうやら、挨拶をすませたようですね」

私が、2人に話しかける。

「……」

「……」

別れを惜しむのか、2人とも黙ったままだ。

「あら、腕輪を」

私は、セリエが常に身につけていた腕輪がないこと、その腕輪がローズの左腕に有ることに気付いて驚愕の声を上げた。

「……」

セリエは顔を赤らめて、少し俯いている。


私は、セリエの態度の違和感に気付いたが、それについては口を出さなかった。

セリエの見た目は、少女そのものだったが、態度から見た目通りの年齢と取られたことはなかった。

そばにいるローズも同じように言われているが。

私は別のことをセリエに質問する。

「あの男のことは、あきらめるのか」

「ありえないわ!」

セリエは顔を赤くして否定する。

「だが、その腕輪がないと」

「言われなくてもわかっているわよ!

早く見つければ済むだけだから」

「わかったから、そんなに騒がないでくれ。

昨日の酒が残っているから、頭が痛くなる」

私は思わず頭を抑える。


「まったく、どれだけ飲んでいるのよ」

セリエはあきれた顔をした。

表情も、普段の顔つきに戻っていた。

「ローズちゃん」

セリエは再び、ローズに近づいて、視線をローズの高さに合わせる。

「……。

よろしかったのですか。

大切な腕輪なのに」

ローズはためらいながら口を開いた。

「大丈夫よ。

それよりも、一つ話します」

「なんでしょうか」

「その腕輪には、一つだけ魔法をかけています」

「魔法ですか」

「あまり役に立たないけど」

ローズは悪戯っぽく、一瞬だけ私の方へ視線を移すと話を続けた。

「本当にどうしようもなくなった時に、最後の手段として使って」

セリエはローズに魔法の言葉を伝えた。

「腕輪に向かって、今の言葉を使えば一度だけ発動するわ。

でも、最後の手段だからね」

セリエは、ローズの左手を両手に握って別れを告げた。


「さあ、帰るわよ」

セリエは、私と2人の青年と一緒に村を後にした。

第1章が終了しました。

評価していただきましたら幸いです。


次章は1月14日頃に掲載予定です。

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