犠牲者
コーディアス達は、黒い部屋を出た後にリビングに集まった。
コーディアスは、フィッツウイリアを診察した。
脈拍は小さく、息がほとんどしていないに等しい。顔色は紫色、何かうわ言のようにうなされている。
医者の知識を持っているコーディアスでも、手のほどこしようがなくなっていた。
――こいつは、めんどくさいことになった。
「コーディアス神父。これは、病気じゃないですね」
水明がコーディアスにだけ聞こえるように囁いた。
水明が医療の知識を持っているなど思っていなかったので、驚いて水明を見上げた。
「私は西洋医学の知識はわかりません。ですが、この方の顔相を読み取れば、何かどうなっているかわかります」
「ちなみに、どうなるかも?」
「死の相が出てます。助かりません」
その言葉が合図だった。
フィッツウイリアが事切れたのは。
助手を失ったテューダー教授は、泣き崩れ。キューベルト夫人は、血の気を失った顔をして呆然と立っている。ハウスメイドは汚らわしいといった顔で、死体をねめつけている。
「すまない。水明を除く全員、部屋を出てくれないか?」
全員を観察するように見渡し、コーディアスは手をふった。
「警察には」
「夫人。警察は、事件解決まで何週間もかける。俺なら、短時間で解決できるよ」
「随分、自信満々ですね。それとも、貴方が何か仕掛けをして殺したから、証拠隠滅をこれから行おうと考えているわけでは?」
「嬢ちゃん。俺の第一印象が気に食わないからって、俺を疑うなよ。さすがの俺でも、傷つくぞ。まぁ、そう思われても当たり前だから、水明を俺の監視役にするんだよ」
「私がですか?」
コーディアスは意地悪く笑う。
「そ、この家に関係がなく、フィッツウイリア氏とも今日初めて会ったからだよ。ここまで言えば、わかるよな?」
「なるほど。テューダー教授は、私怨で殺す動機があるかもしれない。出した茶に何か細工ができそうな
キューベルト夫人とハウスメイドも怪しい」
「そういうこと。ちなみに、俺は不良だけど神父だ。コイツを殺して何も得しないからな。お前さんだって、何も得しないだろう?」
「えぇ」
「そういうこと、わかったら全員部屋から出てくれ」
まだ、納得がいかない様子のハウスメイドをキューベルト夫人が言い聞かせ、3人が部屋から出て行く。
それを見届けた後、コーディアスはフィッツウイリアの上半身を脱がせにかかる。
作業をしながら、水明に意見を求める。
「もしかして、もう犯人わかった? 霊視とかいう奴で」
このような力で犯人が判明できたならば、コーディアスの努力も水の泡なのだが……。
「えぇ、わかってますよ」
など、穏やかにいう。
コーディアスは、脱力した。