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西洋怪奇譚シリーズ  作者: 青之屋
◆西洋怪奇譚◆
3/9

不良神父と変わり者達

レンガ造りの暗い色した家の並びの中、忽然とホワイト調のアメリカンハウスが姿を現す。

 表札には"キューベルト"と書かれてある。

 

「ここだな。しかし、キューベルト家は資産家か!? すげ-立派な家だ」


 コーディアス神父が今回このお宅を訪れたのは仕事だ。

 神父だから個人宅で説教しに来ているのではないか? と思われそうだが、実はコーディアス神父は説教もミサの仕事もしない。

 では、何をする神父なのか? と聞かれたら、こう言おう。


「どちら様です?」

「ちわーす。エクソシストです」


 家の者に訪問者が来たことを知らせるためのベルを鳴らす。中から黒を基調としたハウスメイド制服が似合う、銀髪の髪と灰色の目が冷たい印象を与える女が出てきた。

 コーディアス神父の軽やで明るい挨拶も、この女にとっては胡散臭い神父を装う悪徳業者だと思ったに違いない。

 とても嫌そうな目をしている。


「神父様を頼んだはずですが?」

「どこからどう見ても、俺は神父だろ!」


 今日はよく勘違いをされる日だ。

 実際に自分のとこをどうみたら、マフィアと言われたり胡散臭い者を見る目を向けられたりするのだろうか?


「最近の世の中は物騒ですから、何か証明できる物がありますでしょうか?」


 用心深い女だ。

 コーディアス神父はポケットをあさり、パスポートケースを取り出して女に投げてよこした。

 見事キャッチしたハウスメイドは、中を確認して満足そうな表情を浮かべると丁寧にコーディアス神父に返す。


「失礼いたしました」


 ハウスメイドは美しい姿勢のお辞儀をした。


「中に案内しますので、どうぞお入りください」


 ようやく客人だと認められ、中に入る許可が下りる。

 コーディアス神父は、やれやれといった表情を浮かべてタバコの箱を取り出す。

 それを、ハウスメイドの灰色の鋭い瞳が見逃さないわけがない。


「お言葉ですが、神父様がタバコをお吸いになられるのですか?」

「神父がタバコを吸ったら可笑しいか?」

「常識的に不道徳です」


 やたら考えが固いハウスメイドだ、とコーディアス神父は彼女の性格を分析した。

 もちろん、次に何を言われるかわかったものではないので、思ったことは口には出さない。


「神父も吸いたくなるんだよ。唯一の楽しみを文句言わないでくれ」

「ですが、神の教えに従う貴方たちには、禁止されている物ではありません?」


 このハウスメイドは信仰深いらしい。

 コーディアス神父は肩をすくめ、しょうがないのでタバコをポケットへとしまいこむ。

 玄関は広々とし、中の廊下はよく磨かれたツヤツヤ輝く木製の床。歩くのがもったいない程の床を奥へと進むと、いくつかドアがある。かなりの部屋数だ。

 そうして、いくつかの部屋を通り過ぎたところで、ハウスメイドがこの家の一番奥に位置する部屋の扉をノックする。


「奥様、神父様がお見えになりました」


 部屋の中から、中年女性ならでわの落ち着いた声が入室を許可する。

 それを聞き確認した後、ハウスメイドは音を立てないように配慮してドアノブを回す。


「失礼します」


 部屋には数人が木造テーブルを囲んで座っていた。

 木造テーブルの奥に座っている女性が、優雅に立ち上がる。

 

「奥様。依頼をお受けなさった神父様がいらっしゃいました」


 部屋の中から、中年女性ならでわの落ち着いた声が入室を許可する。

 それを聞き確認した後、ハウスメイドは音を立てないように配慮してドアノブを回す。


「失礼します」


 部屋には数人が木造テーブルを囲んで座っていた。

 木造テーブルの奥に座っている女性が、優雅に立ち上がる。

 

「奥様。依頼をお受けなさった神父様がいらっしゃいました」


 奥様、と呼ばれた女は、静かにこちらに歩み寄ってきた。

 そして、コーディアスの前に立ち、もてなしの笑みを浮かべて自己紹介をする。


「ようこそ、私はジェイミー・キューベルトです」

「依頼人のジェイミ―・キューベルトさんですね。初めまして、コーディアスです」


 コーディアスとジェイミーは軽く握手を交わす。

 ジェイミーに席を案内され、コーディアスは先に到着している先客の青年の隣に座る。

 

「ミス・キューベルト。こちらの方々はどちら様でしょうか?」


 先客をいぶかしむコーディアスに、ジェイミーは慌てて答えた。


「どのような方々にお尋ねすればよろしいかわからなかったので、巷で有名な方々をお招きいたしましたの。こちらは、スピリチュアル協会の名誉会長であるカティ・テューダー教授」


 ジェイミーは彼女より年配の女性を示して紹介した。

 カティ・テューダー教授は、茶色い髪と青色の瞳と一見普通の女性と思いきや、口紅は真紅色で白粉は厚く塗っている。この行為は歳をごまかすためなのかもしれないが、化粧に力を入れれば入れるほどごまかされていない。それに、本人は気づいていないらしい。そして、体系は小太りときた。


「で、こちらの方がカティ・テューダー教授の助手であるランディ・フィッツウイリアムさんですわ」


 コーディアスの横に座っている青年が会釈をする。

 ランディ・フィッツウイリアムは、銀髪に灰色の目の色素が全体的に色が淡かった。ランディの特徴はオドオドと動く瞳と困ったような眉が印象で、そこから彼の気の弱さを感じる。

 

「あと、もう一名が来る予定ですわ」


 その言葉と同時に玄関のベルが鳴った。

 ハウスメイドは客を出迎えに去り、暫くして客と一緒に現れた。

 

「依頼をお受けなさった東洋人の方でございます」


 新たな客を見て、一同が目を見開く。

 何故ならばその客が、動物園で公開されている珍獣と同じくらい珍しかったからだ。

 ここにいる人は全員、東洋人を見たことがないのだ。


「お前さん、東の島国出身だな」


 コーディアス神父が彼に尋ねた。

 東洋人男性の細く少し釣りあがった目がコーディアス神父に向けられる。


「よくお分かりで。私の出身を的確に答えたのは、貴方が始めてですよ」


 コーディアス神父は内心で口笛を吹いた。

 外人は外国語をしゃべるときは変な訛が出てくるが、東洋人男性の発音が流暢で訛がなかったからだ。

 声色は澄んでいて爽やかで、声変わりをしていない感じも受けなくはない。

 

「無理もないな。お前さんの国は、今は鎖国という状態らしいから、黄色人種=清の人間という常識になってしまうんだよ」

「ですよね」


 東洋人男性は溜息をつきながら、空いている椅子の上に正座をして座る。

 コーディアスは、呆れながら指摘する。


「おい、椅子の座り方知っているよな?」


 失礼だと思うも、気になったらとことん気になりだすタイプ。指摘せずはいられない。

 東洋人男性は、コーディアスの指摘には気分を害したわけもなく、照れ笑いをする。


「すいません。私の国では座る時は正座が常だったためか、椅子の正しい座り方には正直なじみませんで。あぁ、すいません! 履き物を脱ぐべきでしたね」


 椅子を汚すのを恐れ、東洋人男性は履き物を脱ぐ。

 コーディアス神父は、変わり者の東洋人男性を観察した。

 黄色人特有の黄色味を帯びた肌だが、色素が薄いためだろうか、ほんのり黄色で白人には及ばないが肌が白い。漆黒色の髪が真っ直ぐ伸び、後ろに一つにまとめられて背に垂らしてある。細く少し釣り上がった目は黒曜石のようだ。

 着ている物も実際に見たことがないが、コーディアスは文献や資料で見たことがあった。彼の着ているのは“着物”といものだ。黒に染められた布、胸の部分に星の模様がある。

靴下は“足袋”という。靴下と比べると面白い程形が違う。靴は“草履”と言うもので、それは藁で編んで作ったものらしい。


「何か?」

「あぁ、いやいや。なんでもない」


 悟られないように観察していたのだが、相手は気配に敏感らしいのか気付かれてしまった。

 東洋人男性は不思議そうな顔をしたが、気にするようなことでもないと思ったのだろう真顔に戻る。そして、ここにいる人々に対して自己紹介をする。


「初めまして、私は東の島国からこちらの国に密航してきました。日本人の安部 水明です。こちら側の名乗りだと、水明・安部になりますね。どうぞ、よろしくお願い致します」


 丁寧に頭を下げる動作は綺麗だった。


「私の事は水明と親しみを込めてお呼びください」


 涼やかな笑顔で東洋人男性、水明は皆を見渡した。


「皆さんが揃ったところで、依頼のお話をより詳しくお話したいと思います」


 ジェイミー・キューベルトが全員揃ったところで、依頼の話を持ち出す。

 皆一同にジェイミ-・キューベルトに注目した中で、コーディアスは数日前に記憶を遡らせた。



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