裏7話◆ルバリ
結局、恋とは無縁な人生だった――。
その代わりに得たのは称賛と地位。
人々は私を畏怖し遠ざける。存在そのものが恐怖体みたいだ。だから、恋する前に人は近寄らない。
世界における四人の「さいきょう」を超える伝説の三人。その名は世界を轟かした。その内の一人に数えられた私の名前はルバリ。唯一無二の魔法使いである。
そんな私も御歳八十を超える。伝説の三人の残り二人は引退した。そして、次世代に向けて動いている。
では、私は――?
私は魔法によって体を若年化させられる――つまり不老なので何も困らない。一応、世継ぎのために何人もの魔法少女を生み出している。
四人が一つ「最凶」のクローバー。私はその子を配下に置いた。
その子の能力は、因果を持つ「表」と「裏」を特定の人につけることができる。表が不幸な目にあうと裏がその分幸運になる。逆に、表が幸運になれば裏がその分不幸になる。これをひっくり返した関係でも同様になる。
私は自分自身に「裏」をつけている。そして、私が力を分け与えることで生み出した魔法少女には一律に「表」をつけている。
察しがいい人はここで全てを察する。
私は今とっても幸せだ。もしギャンブルをすれば必ず当たる。例えば競馬をするとして、勝てる訳ないだろという馬にお金をかけても、その馬が勝ってしまうのだ。あまりの幸運に他の馬が落馬するかも知れない。結論、勝つのには変わりない。万馬券なんて容易いことだ。
どうしてそんな事になっているのか?
その理由は単純に魔法少女は一律にみんな不幸だからである。幸せになれないように不幸になるよう魔法をかけている。
そもそも魔法少女になるためにはそれ相応の対価が必要。その対価が魔法少女を最初で最大の不幸にすることもある。
何にせよ、人の不幸は蜜の味――。
圧倒的母数の不幸体のお陰で私は幸運を担保しているのだ。手違いのように数人が幸運を得ても相対的には変わらないレベルのもの。私の幸運値が揺らぐものではない。
半数が幸運にさえならなければ良い。そのために私は魔法少女をあざけ笑っている。
伝説の三人が一人であるペルバ。その孫であるコハを魔法少女にして欲しいと頼まれた。
私はコハを魔法少女にすることに決めた。
話は変わるが、コハが以前行った旅の同行者に一人の魔法少女がいた。――ラメルだ。ラメルが魔法少女になった時の事を思い返した。
◆
「力を……復讐できるだけの力を下さい。」
泣きながら懇願してきた一人の少女。私は魔法でその女の子の記憶を読み取った。
――――――
――――――
その日は体調が優れなかった。授業に集中できる程の体調ではなかった。普段は仕事でいない父が今日は家にいた。先生が家にかけた電話は父が対応し、そのまま徒歩で帰ってという指示をしたらしい。私は優れない足取りで帰路を進んだ。
曇り空が広がる。気圧が酷い。
迎えに来て欲しいなんて思いながら家へと辿り着いた。
扉を開く。「ただいま」と言う。後は自室に行って布団にダイブするだけだ。
「逃げろ。今すぐ!」
無理やり掴まれた。父は何故か無理やり引っ張ってきた。「何すんの?」と嫌々ながら言おうとした時、父の表情は見せたことないぐらい険しい顔をしていた。
「早く!」
父の後ろに見知らぬ人がいた。
いや、人ではなくて人型ロボットだ――。
その機械が剣を持って父を斬り裂く。
赤い血が顔に着いた。体調が悪いのを忘れた。今はただ、感じたことの無い不思議な感情に支配された。
「逃げ……ろ」という人生最後の言葉をかけられた。
何度も何度も剣で突き刺されて血を吹き出していく姿。多分、知らず知らずの内に悲鳴を上げていた。
「やめて」と近寄るも簡単に手払いされてしまった。その力には虚しく勝てなかった。
虚しい時間。
その機械人間はどこかへと去った。残されたのは私と、血だらけになった肉親だけ。幾ら泣き叫んでも何にもならない。
時間が経って夕暮れとなり母が帰宅。そこで警察が出動する事態となった。
父を殺したのはバアルという人間だ。詳しく言うと、バアルが提供するベルフェゴールという機械である。
時間が過ぎても脳裏に刻まれた大切な人の死。
復讐を止められても、復讐したいという気持ちはなくならなかった。
生き残った母との生活も、やはりどこか虚しさを感じていた。
私は力が欲しかった。復讐できるだけの力が。
そんな時、偶然出会ったルバリという魔法使い。彼女によると大切なものと引き換えに魔法少女にしてくれるらしい。
私はそんな言葉に惹かれ、魔法少女になることを決めた。
――――――
――――――
ラメルという少女は鞄の中にありとあらゆる宝物を詰め込んで持ってきた。どれも大切なものらしい。
「何を対価とするか、あなたは選べない。大丈夫?」
「はい。覚悟はできてます。それよりも、あちきはパパを殺した奴に復讐したい。それができる力が欲しい。」
「後悔しないよね?」
「うん。」
「分かったわ。契約をしましょう。」
ラメルは不思議な光に包まれる。魔法の譲渡と「表」の付与。それを同時に行う儀式をした。
「まだ、これは仮の力みたい。今から行うミッションをこなせれば、その仮の力を我がものにできるわ」と嘘をついた。もちろん、少女視点では騙されてるなんて知る由もない。
私はテレポートの魔法で廃墟の空間へとやってきた。
嘘――本当はただの学校であり、少女には廃墟に見えるように魔法をかけているだけである。
その廃墟に現れたゾンビのようなモンスター。呻き声しか上げられない。そして、この廃墟からは私達もゾンビも誰一人として出られない。
「ここに現れたモンスターを一つ残らず駆除して。それが完了した時に、本物の魔法少女になれるみたい」なんてことを伝える。
そう廃墟にはモンスターがいて、見るからに殺さないといけないような分かりやすい敵がいる。
嘘――本当は人間である。
ラメルは与えたレーザーの攻撃でモンスターを攻撃し始めた。悲鳴は聞こえない。聞こえるのは低音の唸り声だけ。これも魔法によるものである。
大量のモンスターを倒していった。
隠れたモンスターも倒した。一人残らず駆逐した。
笑顔で「モンスターを全員倒しました」と報告してきた。だから、「よくやったね。これであなたは立派な魔法少女だ」と伝えてあげる。
そして、この廃墟にかけていた魔法を解いてあげる。
廃墟はみるみるうちに学校に変わっていく。
廊下に倒れている血だらけの生徒。先生もいる。それら全てラメルの関わりがある人達である。ただ、餞別としてラメルの母は殺さないであげた。
雄叫びと嗚咽。
彼女にとって一番の親友の亡き骸を抱えて顔がぐちゃぐちゃになる程に泣いていた。
「魔法少女になるための対価は"関わりのある大切な人達"みたいね。それ以上の価値のある母親以外の人達はみんなあなたに撃ち殺されて死んだみたい。」
放心状態の彼女は声を噤んだ。
「これは返すわ」と中身は何も無くなっていない鞄を返した。
その日から、彼女は数週間、家にこもった。唯一の救いは家族。関係者の中で唯一生き残った母親だけを大切にし、彼女は魔法少女として闇を駆け抜けた。復讐と罪滅ぼしのために。
彼女の目的は二つ――。
一つ、死んだ仲間の分まで魔法少女の役目を果たすこと。
一つ、父を殺したベルフェゴールの中身に復讐する。
――ベルフェゴールを一体倒した彼女は中身がいることに気付き、その中身の人に復讐の殺意を向ける。そのためには、父を殺した人が誰なのか知る必要がある。それ故にバアルの拠点を目指し始めた。
彼女はバアルの拠点へとゆっくり進みながら、その場その場の悪を懲らしめる。そんなヒーローとなっていた。
◆
これがコハの同行者ラメルが魔法少女になった時の話。その時の不幸は私のラッキーに変わった。
だけど、まだ不幸の種は残っている。
復讐の先にあるものは幸福なんて存在しない。
私はラメルが復讐のために不幸のどん底に落ちる日を今か今かと待ち侘びていた。




