裏5話◆アロ
裕福とまではいかないけれども、そこそこの家に産まれて、そこそこの生活を送っていた。
今日の課題である生物学の本一冊をノートにまとめる事を終えて、背伸びをする。そしてストレッチをする。糖分でもとって頭をリフレッシュさせよう。
冷蔵庫のある部屋に向かう途中にある窓から外を見る。パッとしない天気だ。どんよりとした曇り空が不穏な空気を運んできていた。
ラムネを口に放り込む。
そんな時、聞いたことのないようなサイレンが耳を劈く。思わず耳を塞いでしまった程だ。
あまりの緊急事態に居間に家族が一同集まる。まずは状況確認からだ。
物が崩れる音。建物が半壊した。
そこに現れる機械人間の存在。腕に持った大砲を放ってきた。母は胴体が消える程の穴が空いた。父は他に現れた同じ姿形をした機械人間に剣で斬られて殺された。建物が崩落する。残された姉と妹と一緒に逃げる。
街の姿は焼け野原。大量の機械人間が武器を乱発して街を破壊し、人を殺害した。
「ひとまず街の外れの高台へ!」
避難場所へと向かう。
崩落するのは建物だけではなく地面もである。俺はこのまま落ちていくだろう。せめて、他の二人だけは、と俺は二人を押しのけて穴へと落ちていった。その上から崩落に巻き込まれて崩れ落ちた家の残骸が落ちてきた。「俺、死んだわ。後は――。」俺は死んだ……と思った。
◆
地面は土。柱と柱によって地面にできた隙間。そのお陰で俺は助かっていた。さらに幸い怪我はしているものの重症ではなかった。
何とか脱出しようと試みると、手前の柱が崩落して道ができた。
何とか脱出した。
その先はあまりにも惨憺たる景色。唖然とする程、以前の依然として建ち並ぶ幸せな姿は見る影もない。その敗戦の末路を受け入れられず、釈然としない。毅然と最善を尽くしても生き残れない残酷な現実。
生き残った人と思われる男がやってきた。俺のことに気付くと俺を導いてくれた。
街の外れの高台へとやってきた。
そこから眺めるとさらに悲惨な結末が分かる。
「国は滅んだよ。国の人間ももう殆ど残っちゃいない。ほぼ皆殺しだ。生き残ったのは殺しあぐねた我々と、奴隷として連れてかれた労働力となりそうな屈強な男と一部の選ばれた女ぐらいだろうな。」
さらに街の外れへと行く。そこは国から離れた場所。そこには死んだ目をした集団がいた。若干、女が多い感じだ。多分、誰かに救われたのだろう。残念ながら俺の血縁者はそこにはいなかった。
「ここにいなきゃ希望は薄いだろうな。」
俺らは生き残るために国を離れて旅をした。食もなく、なんも無い荒野を進むしかなかった。
泥水を啜る。そうしないと生きていけない。
泥水すら啜れないような者から餓死していった。生き残るためにはどんなに汚れた事もしないと生き残れない。もう動物の血には慣れてしまった。
「俺を食え。寄生虫が怖いから、しっかり焼けよ」と俺を高台まで導いてくれた男は自害した。ただ、お陰様で俺は命を紡ぐことができた。
もう数日が経つ。生き残りは俺だけで、俺はようやく荒野から森に入林することができた。
ここまでこれば後はサバイバルで何とか命を紡ぐことができる。野生に生きていく。勉学と、ここまで恩人の男に教えて貰ったサバイバル技術で生き残っていく。
俺はある国に辿り着いた。
俺はそこで路上生活をしながら日銭を集めた。日銭は簡単に集まった。森で集めた動物や果物を売るだけで良かった。ここまで生きてきたことで手に入れた尋常なる肉体とサバイバル知識のお陰だ。
服を買い、風呂に入り、身嗜みを整える。俺は住み込みで工場に勤務することになった。それからは安定した生活を送れるようになった。誰よりも働ける。他人では当然の苦痛を俺は苦痛とも感じない。だから、他人よりも一層の働きができたし、その分の賃金も手に入れれた。
俺の生活は第二フェーズに入った。
安定した生活の裏で与えられる余暇。俺は刀を購入した。そして、自己流で剣術を学んだ。
さらにお金を集めて、剣術道場に入門した。それなりの基礎を身につけた。
昼間は剣の指導を受けて、夜間には肉体労働。合間に睡眠や休憩。死の淵で生き残った俺の体はこんなもんでは疲労しない。それどころか復讐の気持ちで疲労感など感じはしない。
入門していた道場に道場破りが現れた。
その人物は一躍知れ渡っていた存在。世界一最強の剣士らしい。しかし、見た目はよぼよぼのおじいさんにしか見えない。
門下生全員が刀を抜く。俺もそこに加わった。
彼は杖に仕込んだ刀を抜刀すると次の瞬間、俺らは全員刀を折られ、床に伏せていた。
ここで負けてたら復讐なんてできやしない。俺は立ち上がった。
そんな俺に彼は「やるのう」と拍手を送った。
それが世界一最強の剣士シリウスとの出会いだった。
俺は仕事を辞め、道場を抜け、シリウスと共に修行の旅に出た。最強と呼ばれる腕は確かで、自分の限界を超えていっても、絶対に辿り着けない領域にいた。どんなに成長しても、絶対に越せない実力を前に心も折れそうになった。
「昔、一緒に旅してた奴はアンタみたいだったよ。」
彼は年齢が年齢だけに隠居の身だ。そんな彼がまだ全盛期の頃はセルバンという仲間と共に旅をしていたらしい。そのセルバンと言う男は引退間際、師匠と一撃だけ互角打ちしたみたいだ。そんな彼と同じポテンシャルがあるという。それを聞いて、もう少しだけ頑張ろうと思った。
◆
十六歳――。
◆
俺は師匠と別れて、復讐の旅へと出た。ある程度、師匠との旅で培った知識で一人でも余裕で旅ができた。
バアルについて調べていく内にある島に辿り着いた。ナレハテニホンから南側に位置する島だった。
さらに、バアルの行方を追う内にフィリップという街にやって来た。そこはバアルの貸し出すベルフェゴールによって成り立つ街だった。
いざ街から出ようとすると、見えない壁で出ることが出来ない。仕方なくそこで暮らすことにした。そして、この街の置かれた歪なシステムを知っていく。それでも少しずつ手掛かりを探していった。いつか出るために――。
そんなある日、コハとピーに出会ったんだ。
◆
俺は地獄のような出来事も日々も味わった。だから、そんな地獄すら見ていない人が、地獄にいると宣う奴のことを好きにはなれない。
生きるためには行動するしかない。自分で何とかするしかない。そんな生活をしてきた俺にとっては、誰かに助けられることを当たり前として求めている人を軽蔑する。当たり前だが好きになんてなれる訳がない。
そして、バアルのように大切なものを奪うものを許さない。
さもしく自己都合のために貰うものは貰おうとして、自身が所属していない他者にその荷を押し付ける。
そんなお前を俺は人として軽蔑する。
えっ、それは誰かって?
それは――お前だよ。
「――。」ボソッとした言葉で俺は呟いた。




