裏3話◆メリカ
私は今、大きな箱の中にいる。透明な箱だ。
私は今、大きな箱を壊して、より幸福になる高くにある世界へと連れて行ってくれる人を待っている。この場所から連れ出してくれる人が早くこないかな。
薔薇が咲き誇る。私は薔薇園の中にいる。美しいでしょ? 綺麗でしょ? だから、早く私を迎えに来て。
薔薇は棘がある。息詰まる生活。誰よりも麗しく艶やかに咲くために、私はこんな窮屈な生活を繰り返している。そんな棘の痛みに耐えながら、未来を夢見ている。
赤い光が私に力をくれる。美しい薔薇のドレス。ねぇ、今美しいでしょ? ねぇ、こんな素晴らしい私を、この耐えた痛みの分を超えるぐらい、愛して。私を愛で満たして。満足するまで満たして。
箱が破壊された。私を手を出す。きっと迎えに来てくれたんだ。運命の王子様が。
だのに、その手を掴まずにどこかへと行ってしまった。
行かないで。――ねぇ、誰でもいいから、私を満たして。
そこで夢から覚めた。
まるで悪夢だ。
◆
私には恋人がいる。
成績優秀。運動神経も良い。この閉鎖された街の中で、いつしか街の役人になる可能性が高いと大人達も言っている。そんな人が彼氏で、私の鼻も高い。
彼氏のルーボ君と上手く行かない日もあった。けど、そんな日を乗り越えて今、付き合って二年目へと残り僅か。このまま大人になってゴールイン。そんなことも頭の中で考えている。
十歳の頃までは沢山、習い事に通っていた。今でもリモートでできる習い事を幾つもやっている。家では飴と鞭の鞭ばかり与えられた。言葉の刃がとても嫌いだった。今では苦痛なそれも、今このためだと思えば無駄じゃなかったと思える。
私には優秀な彼氏がいる。ここまで頑張ってきた私だからこそ掴んだ結果。私程のレベルに達した人間はクラスメイトにはいない。それだけで優越感に浸れた。
どいつもこいつも格下。見下していい存在。唯一、例外なのはミカンだけである。彼女は幼なじみであり、今でも深夜に話をする仲だ。そんなミカンが動く電子レンジをペットにしていた。ちょっと意味が分からなかった。気色悪いし、少し嫌悪感を抱きそうな感覚。仕方ないからアドバイスして上げた。
それから数週間後。
私はルーボ君と登校した。彼が職員室に入室した。必要なテキストを貰うためだ。
【しろくま】
彼の様子が変だ。何が起きたのか……。いや、何が起きたのかはよく分かる。この街では至極当然の出来事である。しりとり変身ゲームに巻き込まれたのだ。何と犯人は先生だった。ふつふつとこのおばさんをぶち殺したくなった。
その気持ちを彼が受け取ったのか白熊に変わり果てた彼が、そいつの上半身を一薙ぎで消滅させた。赤い血が飛び散る。
私は泣き崩れていた。涙が止まらなかった。
白熊はすぐに職員室を出る。
すぐそこにいる私を見つめる彼氏。いや、もう本能は白熊に成り果ててしまっているはずだ。私は死んだ、と思った。
そこで白熊が殺すと殺さないの狭間で葛藤を起こしていることが分かった。想定外のジレンマ。そのまま過ぎ去り、廊下を破壊していった。
「助かった……。」
どうして私は殺されなかったのだろう。すぐにルーボ君の意思が残っているということに気付いた。もしかしたらこの意思を元に白熊から元の人間に戻せるかも知らない。
私の足は動いていた。その途中、大きく欠損して血を流した同級生や下級生も見た。けれども、私は諦めきれなかった。
上の階へと登り、廊下を向かった先の音楽室。そこにいた人達は全滅していた。その後、目指した場所は天井の上だった。何度もその場に跳んで頭や腕をぶつける。そして、天井を破壊して屋上に飛び出した。
急いで私も屋上へと向かった。
そこには着物姿のミカンがいた。とても凄まじい強者のオーラを放っていた。大量の銃がルーボ君を狙って放たれた。
終わらない攻撃。
ルーボ君は悪いことをした。けれども、その悪いことと同様の罰はもう受け終えたはず。弾丸も弓も剣も、ルーボ君は背負いきったはず。それなのにミカンの手は緩まない。このままじゃルーボ君は殺されてしまう。
「駄目――。お願い、殺しちゃ駄目!」
腹の底から言い放つ。これが私の一生のお願い。大切な大切なルーボ君を守りたい。その一心だった。
攻撃は止まった。ミカンは手を緩めた。
ルーボ君は助かったのだ。
な、はずなのに――。
そこにいた下級生と思しき女の子が落ちていた槍を持って突き刺した。突き刺された彼は落下した。
すぐさま彼の安否を確認した。
見るも耐えない残骸。当たり前だ。ここから落下したのだから例え白熊だとしても一溜りもない。血と散り散りになった体がもうそこにルーボ君がいないことを証明していた。
後ろから鳴り響く雑音。殺したアイツが、その殺したことを喜んでいる。到底許せない雑音だった。
憎い、憎い、憎い――。
私の大切な人を奪ったアイツが憎い。
本当に許せないよね。人を殺害することはいけないこと。そんなことをしているのに、罰されることもなく、後悔することもない。それどころか殺害を喜んでさえいる。
脳裏に浮かぶ遺人の姿。私は彼女の首を強く絞めていた。せめてコイツだけ殺して――。
なのに、幼なじみであるはずのミカンが邪魔をする。
ああ、何でミカンまでそっち側につくの?
意味が分からない。私が正しいはずなのに、私が悪いみたいじゃない。
今度は野良猫が邪魔をする。そのせいで逃げられてしまった。
たった一日で何もかもを失った気がした。自死も考えたけど、それをする気力さえ残っていなかった。
喪失感が心を揮発させる。満たされない心。
そんな時、それを埋めてくれる運命の人と出会った。そんな彼の名前はアロというらしい。もう二度と彼だけは失いたくないと神に願った。
◆
私は自分のために能力を発揮することができない。誰かを思うことで発動できる。利己的ではなく利他的な人間だった。
あのコハという奴に一度ではなく二度までも大切な人を奪われた。もう私には何も残っていない。あるのはコハに対する憎悪だけ。
この憎悪を力に変えたくても利己的すぎて変えられない。
だから、私はルーボ君の姿を思い浮かべた。
私はルーボ君の代わりに、あなたを殺した人を復讐してあげる。あの世で感じるモヤモヤが少しでも晴らされるように――。
私はルーボ君のことを想い、そして赤い力で復讐のために幻影をその建物内にかけていった。
「泣いても謝っても許さないから。死んであの世で詫びさせてあげる。……覚悟しなさい。コハ!」
私は――。




