裏13話◆最恐の魔女
真実は知らない方がいい。
隠されてきた真相なんてものは見ないで理解できるわけがない。だけど、知らない方がいい。
この世には予知不可能な困難を極めたものが無数に存在する。それを人は隠したがる。蓋をする。大人は特にそうする。だから、子どもはよく知りたくても知れなくてズルいと思う。駄目と言われたものはやってみたくなる。人は知に飢えている。
私は開いてしまった。
その真相を――。
◆◆
全部、虚構だった。
全ての真実を知った瞬間、私は瞬く間に裏返ってしまった。何もかも壊れてしまった。静かな畔の湖に真っ逆さまに立つように、誰にも理解されない状況に私は立たされた。
人間には意思がある。思考があり、行動を起こす。
人ならざるものになった存在も似たような行動を起こしてたから、てっきりそれぞれの意思があると思っていた。
違った――。
みんなの言動は私が無意識の内に言わせていた、動かしていたものだった。
私の内なる能力――【姫】の力は、魅了。心を与え、虜にした心を操る。敵意があれば無効化される。その副作用的なもので空の器となった元人間に対して、心を宿し、操っていた。それを無意識の内にやっていたみたいだ。ちなみに、人外に心を入れた……で察しの通り、人外が私に敵意を感じることはない。
その例として、ピーちゃんは私が触れてから心が入れられ、電子レンジなのに言動を行うようになった。その頃は私にはそれ程の力はなく、ピーちゃんだけだったが、ノラから本格的な【姫】の力を譲渡され、魔法少女になり力を高めた今、沢山の、空の器の人間である人外を無意識で操っていたのだ。
言われてみれば納得が行くものがある。ピーちゃんの言動だって、私に都合の良い私の想像の範疇で言動を起こしていた。カウンセリングすら、その悩みは私の体験談、本やネットなどで得た情報、想像できる範疇の妄想の悩みしかこなかった。そして、一律に私の望む反応をしていた。そら喜ぶわ。だって、私が喜ばしているのだから。
私は人外のみんなから必要とされている訳じゃなかった。ただ、みんなから必要とされていると無意識の自分が、自分自身にそう思わせているだけだった。
つまり、私がしていたことは?
カウンセラーごっこ――。
たったその一言に尽きる。
私は操られていたみたいだ。糸で括り付けられて人形ごっこをしていた。操っているのは心の中の私自身。とっても馬鹿な話である。
――――――
ラメルは復讐相手が母と知り、贖罪のために母と心中して亡くなった。
ノラは私に命を引き換えとして全てを渡した。そういう契約だったみたいだ。夢の中の彼女のあの華々しい儚い最後は脳裏に今でも刻み込まれている。
ここまでは――まだ踏みとどまれる悲哀。ここからは快晴が暗雲の空に変わる程の喪失。
ミカンは私が食べた。あの日の甘いパフェは私の大切な友達だった。
ピーちゃんは私が魔法少女になるために必要な犠牲――大切なものだった。私は宝石になった彼を直接手を下して殺害した。
生きていればいつかまた会える。そう思っていたから戦えた。何も怖くない、何があっても挫けないのはあなた達の影が確かにあると思えたから。だけど、もう死んだ事を知ってしまった今はもう――。
誰かがこんなことを言った。何も知らず、王子様と結ばれて傀儡人形のうに振る舞うことこそが幸せだと。
確か私はそれに対して「ケセラセラ」と返したことがある。「なるようになる」と。
なるようにはならなかった――。
狂ってる世界について知ってしまった。知ってしまったらもう責任を負うしかない。だけど、その責任を背負った瞬間、私は、心は、瞬く間に崩壊した。
――――――
この街フィリップの秘密を知ってる?
どうして街から出られないのか。どうして普通の人が鬼になって人間を人外に変えるのか。なぜ都合よく私はそれの対象外なのか。
全ての黒幕が私のおばあちゃんだったからだ。
おばあちゃんが私の両親を殺した。実質的にノラを殺した。どうして殺したのか、その理由は――私だった。
もし私がいなければ、ここまで悲惨なことにはなっていないのかな。
ルバリもまた共犯だ。彼女もまた黒幕の一人だった。
私は彼女を信頼していた。魔法少女の私にとって、師匠のような立ち位置にいると言っても過言では無い。
大切に思う存在が黒幕だったなんて、やるせない気持ちで胸がいっぱいになる。
もう私は、進むべき指針を失った。
塩辛飲むとて水を飲む。どうして私は気づかなかったのか。こんなにも都合よく物事が進むなんて、違和感を感じてもおかしくないはずなのに、どうして私は気づかなかったのか。
ああ、もう何もしたくない――。
◆
それは唐突に終わった。
街フィリップで行われていた【しりとり変身ゲーム】は唐突に終わったのだ。
理由は、「力を継ぐ器」となる者が誕生したからだそうだ。
取り残された街。イカれたゲームは終わった。見えない壁はなくなり街を自由に行き来することができるようになった。それでも、一度変身してしまった人間は、人間に戻されずに街に取り残された。
おばあちゃんはその器の人間に力を譲るために、その人と共に稽古の旅に出ると言う。
私も取り残されそうになる。旅に出るというおばあちゃんを追いかけた。
「ねぇ、その力を譲る人はアロじゃ駄目なの?」
「駄目ねぇ。だって、アロは「力を継ぐ器」じゃないものねぇ。」
「どうやって、「力を継ぐ器」になれるの?」
私は【姫】であり、魔法少女となり、アロと互角を張れる実力を得た。それは単に恵まれていたからだ。だけど、ひたすら強く生きようと頑張っているアロが、今目の前で、見捨てられそうになっているように見えた。おばあちゃんが冷たく門前払いしているように見えた。
私はアロに報われて欲しいなっと思っていただけ。私はあんまりな話だと思ってしまった。アロは私なんかよりも強くあらなきゃならないのに。
「もし力の譲渡の時にアロが「力を継ぐ器」になってたら、力の譲渡について考えてあげなくもないわねぇ。」
その譲渡はいつになるか分からないが、十年かかるかかからないか、数年は余裕でかかるものと言っていた。
タイムリミットはその時間までだ。
私は「力を継ぐ器」になるための方法を聞いた。
――――――
「駄目に決まってんだろ! 何、考えてんだよ。」
それは今まで聞いた事がないような怒号だった。初めて強く厳しい波動を受けた。心が萎縮するが、萎縮する程の隙間も残っていないので逆に破裂しそうだ。
「これは、アロのことを思っていってるの!」
「誰かを犠牲に力を得ようとするなよ。」
「何かを犠牲にしなきゃ力は得られない!」
魔法少女なら当たり前の価値観だ。魔法少女になるには"大切なもの"を対価にしなきゃならない。つまり、力を得るには何かを犠牲にしなきゃいけない。
「これはアロ君のことを思って――。」
「俺のことなんて考えてないだろ。ただの独り善がりの結論だろ! 俺は認めないし、その決断を許さない!」
「なんで、なんでアロ君まで私の敵になるの。」
私は限界だった。救われたいのに、救われる言葉はかけられなかった。ただただ辛いだけだ。苦しいだけだ。何をしても、私は駄目な人間だ。
真実を知ってから、怒涛のように押し寄せる重圧。目まぐるしくのしかかる責務と批判意識に押し潰されそうだ。今ここで手を伸ばして救いを求められる相手はアロしかいない。死んだ仲間たちも黒幕だった大人達も、結局私の無意識だった人外達も頼れない。目の前にはアロしかいなかった。のに――。
もう涙が止まらない。
大切なはずのアロですら私を否定する。もう私を救ってくれる人なんて、周りを見渡してもどこにもいない。まるで地獄の箱の中に閉じ込められたみたいだ。
ただ、私は――。
嗚呼――。なんかもう心がすっからかんになったみたい。
もし私が、砕かれて、引き裂かれて、無様に散ろうとも――何も怖くない。だってとうに、もう空っぽだから。
「なぁ、コハ。ごめん。俺が言い過ぎた。」彼が戻ってきた。
それに対して、許さない訳ではないけど、許していないフリをする。
「やっぱり俺はアンタの味方だ。だから――。」
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さて、物語の語り部を戻しましょうか。
ここからは再び、あたくしペルバがお送りしましょう。
その前に飲み物だけいれさせてちょうだい。
ブラックの珈琲に牛乳を入れて……カフェラテね。あら、ちょっと珈琲が強すぎたわねぇ。
では、この後の結末を教えるわ。
アロはあの後、知らず知らずの内にコハの【姫】の能力によって、虜になり操られるようになったわ。つまり操り人形に変わったのよ。残念ながら、コハの力が強すぎたのよねぇ。ご愁傷さま。
そして、これについてコハは気付くことはなく過ごしていく。気付いても理想的な状態を手放せないのかも知れないねぇ。まあ、あたしに知る由もないけどねぇ。
アロが支配から抜け出せることはないわ。簡単な理由よ。アロはコハに敵意を感じない。厳しく叱ったのだって愛情からよ。敵意ではないの。つまり、敵意のない今かつコハの無意識下で支配されている彼はもう厳しい事を言うことはないわ。例えそれが道を外れそうになってもね。
そして、支配されたアロは人を人外に変えていったわ。いつか「力を継ぐ器」になるためにね。
あたしは誰か一人でも「力を継ぐ器」が誕生すれば良かったから【しりとり変身ゲーム】方式にしたけど、コハの場合、「力を継ぐ器」の対象はアロ一人でいいから、手探りで人を捕まえて、その人をアロによって人外に変えて行けばいい。孫のコハのお願いで、アロのみが変身の能力を扱える、カウンター不可の理不尽なゲームにした。所謂クソゲーね。
街の中だけじゃ人が足りないから、着実に国全土へと範囲を広げて行くことになるわ。そして、その名を、その悪名を知らしめていくことになるの。
「街の中の現状はルバリが責任持って説明するわよ。」
「街では次々と人間がアロによって狩られ――変身され――まくったわ。コハは魔法少女の能力で虜にある存在――人外やアロなど――を操れたり視界を共有することができる。その能力によって、幾ら隠れていようが、コハの目からは逃れられないし、見つかれば操られたソレらに触れられる。触れられたら最後、強制的に操られるわ。この場合の操りは、魔法少女の能力ね。人形を操るのと同じで無理やり体を操作する。つまり、虜にする必要もないから、敵意があっても意味はない。ただし、人数に限りがあるのがネックだけどね。」
「抵抗のために国が軍を送ったわ。人と人外との争いね。数ヶ月続いたその争いはコハ側の勝利で終わったわ。あたしすら驚く程の(魔法少女としての)異次元のパワーアップ(五宝石の全能力獲得)もあったからね。こうして、国はコハの手に落ちてしまったわ。国にいる人間はいつ人外にされるか恐怖しながら過ごしているの。」
それでも、アロは未だに「力を継ぐ器」になっていない。
つまり、被害は拡大していく一方。
コハの行動を正す存在は誰一人としていない。
理由は明白。彼女の周りにいるのはコハの深層心理で言動する人外、それと虜によって深層心理で言動しているアロ。どちらもコハの意思で言動している。
コハは圧倒的な力を得ていて、もはや誰も止められない化け物となってしまった。
ただ単純にアロを「力を継ぐ器」にするために動く空っぽの器になってしまった。アロに尽くして、その分の対価を貰う。無意識下で操っているのだから、百点満点の愛情を、ね。
この事実はこの国以外にも知れ渡ったわ。
そして、多くの国はこれを認知し、彼女を畏怖した。近寄れば絶望へと突き落とされる最悪の存在として。
彼女の名前はコハ。
人々から希望を取り除く。
絶望を満ち溢れさせる最悪の――魔女だ。
人々は彼女をこう呼ぶ。
「『最恐』の魔女」――と。




